さつまいも生産量日本一を誇り、“芋焼酎”といえば真っ先に思い浮かぶ鹿児島県。110軒(2024年11月現在)の焼酎蔵が集結する県としても知られている。そんな芋焼酎が主流の鹿児島で、麦焼酎で「モンドセレクション」を20年連続金賞受賞した蔵元がある。『浜田酒造』の本格麦焼酎「隠し蔵」が、2024年で30周年を迎えた。実は焼酎造りの中で重要なのが、原酒をブレンドし“味”や“香り”を決定する、ブレンダーの仕事だ。今回はブレンダーとしてのキャリアを20年以上積んだ大園栄作さんに「隠し蔵」の製造秘話をインタビューすべく、鹿児島県いちき串木野市までおじゃましてきた。
150年以上の歴史を持つ老舗酒造が誇る逸品
明治元(1868)年に創業した『浜田酒造』は、「伝兵衛蔵(でんべえぐら)」・「傳藏院蔵(でんぞういん)」・「薩摩金山蔵(さつまきんざんぐら)」という3つの蔵を持つ老舗焼酎蔵だ。近年話題になった「だいやめ~DAIYAME~」や、「海童(かいどう)」などの焼酎を製造する蔵元として知っているという人も少なくないだろう。伝統の味を守りながら時代に沿った視点を取り入れつつ、うまい焼酎を追究し続けている。そんな蔵元が誇る、シラス台地の清らかな湧水と厳選された大麦を樽熟成させた麦焼酎が、「隠し蔵」である。味わい深い無類のコクとバニラのような芳醇な香り、なめらかな飲み口で人気を集める。
芋焼酎造りが盛んな鹿児島県にあって、「隠し蔵」は麦焼酎だ。麦焼酎造りを考えたのは5代目の浜田雄一郎社長。100年以上にわたる芋焼酎の製造で培った技術を麦焼酎造りにも活かせば、一味違う香りと味わいを実現できるとして、1980年代から本格的に始めたという。
原料は鹿児島の清らかな湧水が決め手
鹿児島特有のシラス台地はサラサラした土壌の為、水もさらりと地下に流れ込んでくる自然のろ過装置となっている。そこで生まれた水が「隠し蔵」に使用している旨み成分を引き出す、柔らかな軟水だ。
製造は、麹やもろみの温度管理から蒸留、ボトリングに至るまで、最新設備を導入した「傳藏院蔵」で行っているところもポイントだ。時代に合わせ、柔軟に新しい方法を取り入れながら安定した焼酎造りを行っている。一方、機械では真似のできない職人技も必要不可欠。最先端機器の技術と職人技の融合を実現している。
そして、「隠し蔵」はそのネーミング通り、秘蔵する静穏な樽貯蔵庫で慈しむように貯蔵される。樽貯蔵庫は一般公開されておらず、本来はそのままずっと隠しておきたいそうだが、本取材ではその封印を解き、「傳藏院蔵」の内側を覗かせてもらった。
焼酎蔵のブレンダーの仕事とは?その苦労とやりがい
2024年で49歳を迎えた『浜田酒造』のブレンド室長・大園栄作さんは鹿児島県出身で、1999年の入社以来、人生の半分以上を焼酎造りに費やしてきた。蔵の貯蔵庫に並ぶ約2000本の樽の中から少しずつ原酒を抽出し、集めてきた原酒の熟成具合を見極めて、パズルのように組み合わせて「隠し蔵」の味を構成・決定していくのが仕事だ。
「原酒の熟成は樽が呼吸することによって進行するのですが、樽材の種類はもちろん、樽が置かれている位置や環境によっても熟成度が異なるので、定期的に色と味を確かめてみないと何年やっていても確かな正解がわからないんですよね。熟成させるほどに芳醇な風味と旨み、琥珀色の輝きが増しますが、焼酎には酒税法で色の規定があり、着色度合いが定められているので、熟成させ過ぎても色みが濃くて出荷できないんです。だいたい1~3年ほど熟成させ、隠し蔵が持つ独特の香味を維持できるよう、月に1度は1日こもりきりになってテイスティングをしています」(大園さん)
さらに、オーク樽に「焼き(熱処理)」を入れることでも、焼酎の香味を調整しているそうだ。焼きの種類は強火で内面を炭化させるチャーリングと、弱火で加熱し内面を焦がすトースティングの2つ。ともに樽の成分を溶出させる方法だが、チャーリングは熟成させる焼酎の原酒の風味や香りを高め、トースティングはバニラ香をはじめ甘い香味成分を増すことができる。
ブレンダーの仕事は、デリケートな嗅覚・味覚が必要になるため、実は仕事以外の場面でも日々の継続的な努力が欠かせないという。
「この仕事を任せてもらうにあたって基本的に日曜の夜から金曜の昼まではニンニクをはじめとする臭いものは食べない、重要なきき酒があるときはランチは食べない、人混みは避ける、年に一度はきき酒師認定試験を受けるというルールを20年以上徹底しています。それから規則正しい生活を送ること、ストレスをためないようにすることも重要ですね」と、大園さん。
ランチが食べられない上に日々ストレスもためてはいけないとは・・・!予測以上に節制したライフスタイルで果たして辛くはないのだろうか?という疑問が一瞬頭をよぎったが、そんな筆者の余計な心配を、大園さんは満面の笑顔で吹き飛ばしてくれた。
釣りと酒を愛し、歩んできたブレンダー人生
「僕、釣りが趣味で。学生時代から釣った魚を捌いて焼酎を飲むことが好きだったんですね。ある時に就活で困り、飲んでいたところ目の前に置いてあった酒が『浜田酒造』の焼酎で。焼酎造りに携わりたいと電話をかけたことが、この仕事についたきっかけです。現在はストレスがたまらないよう、この焼酎蔵の裏の東シナ海に面する港で釣りをしてから出社しています。大好きな釣りと酒に囲まれて生活していたら、あっという間に20年以上の月日が過ぎていました。今は焼酎を通して5年後、10年後、50年後の見えない未来をどう創っていくか。そんなことを考えながら今日の原酒をブレンドしています」(大園さん)
鹿児島の秋太郎(バショウカジキ)と「隠し蔵」を使ったハイボールで乾杯
2022年には累計出荷本数1億本を突破し、1日に1万本ほどの計算で売れているという「隠し蔵」。長年愛され続ける焼酎の裏側には、機械では対応できない繊細な作りや、エキスパートならではの知見と五感を生かした目利き、そして日々のたゆまぬ努力があることを改めてひしひしと実感させられた取材であった。
30周年記念ボトルも登場、期間限定プレゼントキャンペーン実施中
「隠し蔵」発売30周年を祝し、懸賞が当たる「選べる琥珀のときめきキャンペーン」を2025年1月31日まで限定で実施中だ。30周年記念ボトル「BLENDER’S SPECIAL」と「スモークヘッド」のセットや、鹿児島黒牛ロースステーキなど、豪華賞品を抽選でプレゼントしているので、この機会に公式キャンペーンページをチェックしてみてほしい。
【隠し蔵の公式キャンペーンページ】https://www.hamadasyuzou.co.jp/kakushigura_brand/30th/cp/
文・写真/中村友美
フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験後、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り。
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