大暴落を招いた「ダメなやつら」
日経平均が過去類を観ない下落幅を記録した8月5日、多くの個人投資家が悲惨な目にあったことだろう。その責めを負うべきは、日銀・植田和男総裁に他ならないが、日本の金融政策の稚拙さは今に始まったことではない。
余計な口出しをする政治の思惑も絡み、岸田文雄首相や植田総裁は「日本版ブラックマンデー」を演出した戦犯として歴史に刻まれることとなった。
今回の利上げで日銀は大きな「3つの間違い」を犯した。
歴史を塗り替える暴落劇だった…Photo/gettyimages
岸田政権は「資産倍増計画」を打ち出し、新NISA(少額投資非課税制)の利用を奨励しているが、SNSなどでは株価の大暴落で損害を被った国民の“怨嗟の声”で溢れかえっている。
7月の金融政策決定会合で日銀が犯した間違いの第一は、利上げと量的金融緩和策として行われていた長期国債の買入額の減額を同時に発表したことだ。
日銀が「利上げ」をあせったワケ
筆者は7月26日に寄稿した「日銀・植田総裁の「次の一手」を大胆予想!それでも「円安バトル」は終わらない…次の日銀会合で浮かび上がる「2つの政策」に注目せよ!」で、同時発表に強い懸念を示した。
長期国債の買入額の減額については、現在の月6兆円程度の買入れから26年1〜3月に3兆円の買入れに減額することを決めた。原則、四半期ごとに4000億円ずつ減額することになる。これは筆者の予想通りの結果だった。
だが、利上げについては、筆者は否定的な見解を持っていた。
長期国債の買入額の減額は間違いなく、長期金利の上昇を促す。それに加え、利上げを実施すれば、短期金利も上昇し、長期・短期の両方が上昇することで、国民生活に大きな影響があると指摘した。
日銀は同日発表の7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、24年度と25年度の物価見通しを「上振れリスクの方が大きい」と分析、25年度の生鮮食品を除く消費者物価上昇率の見通しを前年度比2.1%に上方修正した。
さらに、「企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」との見解を追加した。利上げの公表文では、「輸入物価は再び上昇に転じており、先行き物価が上振れするリスクには注意する必要がある」との認識を示している。
政治家からの利上げ要請
植田和男総裁は記者会見で利上げの理由について、「経済や物価のデータがオントラック(想定通り)だったことに加え、足元の円安が物価に上振れリスクを発生させている」と述べた。
これは、日銀が2%の物価目標を達成するために、「円安による輸入物価上昇が賃金上昇を通じて持続的な物価上昇につながる」というこれまでの“良い円安説”から“悪い円安説”に転換したことを意味していた。
岸田文雄首相。植田総裁は政治の思惑に踊らされたか…Photo/gettyimages
この背景には、物価高を引き起こしている円安に対しての政府から強い円安阻止要請があったものと推測される。
7月17日、河野太郎デジタル大臣が外国通信社のインタビューで、「円の価値を高め、エネルギーや食料品のコストを引き下げるために政策金利を引き上げるよう日本銀行に求めた」と報じた。また、7月22日には、自民党の茂木敏充幹事長が日銀に対して、「段階的な利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」と発言している。
これら政治の要請が、日銀が同時に利上げと長期国債の買入額の減額に踏み切ったのであれば、目も当てられない。
第二に、植田総裁がさらなる利上げに言及したことだ。
展望リポートでは、「当面は緩和的な環境が続く」との文言が削除され、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」と明確にさらなる利上げの可能性を打ち出した。植田総裁も会見で、「データが見通しどおりに出てきて、ある程度の蓄積になれば当然、次のステップに行く」と述べている。
これは、マーケットは予想だにしなかったことだろう。まさか、同時に利上げと長期国債の買入額の減額に踏み切った上に、さらなる利上げを示唆するという間違いを犯すとは思いもよらなかった。
米FOMC前の「勇み足」がまねいたパニック
第三に米国の動向を読み間違えたことだ。
筆者は7月30~31日の日銀金融政策決定会合と同日にアメリカのFRB(米連邦準備制度理事会)によるFOMC(米公開市場委員会)が行われることで、その結果が大きな影響を与える危険性を指摘していた。
会合後の会見で、FRBのパウエル議長は「9月の利下げ開始もありうる」と明言したことで、日銀の利上げに加え、米国の利下げによる日米金利差の一段の縮小観測に拍車がかかり、為替相場は大きく円高に進んだ。
このように日銀が犯した3つの過ちが円高を加速させ、日経平均株価の大暴落を招いたのだ。
それでは、日経平均株価はどこまで下落するのだろうか。
これについては後編『日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ』でじっくりと分析していこう。
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