「6メートル以上の揺れ」が「10分以上」続くかもしれない…近畿圏を襲う「巨大地震」のすさまじさ

タワマンや高層オフィスに「飛ばされ防止手すり」

東日本大震災の時、震源から約700km離れた大阪府咲洲庁舎(愛称:さきしまコスモタワー)を周期6~7秒の長周期地震動が襲った。咲州庁舎は大阪湾に面した大阪市住之江区南港北(咲洲)の人工島にある。高さ256m、地上55階・地下3階建ての超高層ビル。大阪府の調査によると、地上の最大震度は「震度3」だったにもかかわらず、咲州庁舎の大揺れは約10分間続き、最上階の52階では短辺方向片側に最大1.37m、長辺方向に0.86mの揺れ幅だった。

この連載を最初から読む:<じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値>

咲州庁舎・咲州コスモタワーの主な被害は、内装材や防火戸等の一部で破損が合計360ヶ所。内訳は「中央廊下の防火戸のゆがみ49ヵ所」「消火栓上部鉄板のへこみ33ヵ所」「事務所・テナントの天井の落下・床の浮き59ヵ所」「階段室の壁面ボードのゆがみ・亀裂・落下72ヵ所」「階段室床面の浮き・亀裂・はがれ8ヵ所」「中央廊下・居室内の壁面ボード亀裂・パネル落下110ヵ所」「電気室吹き付け材の落下4ヵ所」「トイレ洗面台の排水トラップの損傷・その他25ヵ所」。また、エレベーター全32基が停止。うち25基は地震時管制運転装置が正常に作動したものだったが、4基でロープの絡まりにより男性5人が閉じこめられ、全員救助まで5時間近くかかった。24時間以上過ぎた12日夜になっても、エレベーター8基がすぐに復旧しなかったという。咲州庁舎に近い天保山では約60cmの津波が到達している。これが、南海トラフ巨大地震だったら……。

image
Photo by iStock

令和6年能登半島地震の約8か月前、23年5月5日14時42分、石川県能登地方で地震が発生。震源は能登地方で震源の深さは10km、マグニチュードは6.3で、石川県珠洲市で最大震度6強が観測された。私は何度が珠洲市に調査に行っているが、この地方では数年前から群発地震が発生していたが、今回はいつもより少し大きな地震だった。この地震による被害は、死者1人、重軽傷者34人、建物被害は354棟、土砂災害も数十件発生している。

驚いたのはその後である。震源地石川県能登地方から約300km離れた大阪の「あべのハルカス(地上60階、高さ300m)」で、エレベーター4基のうち3基が地震発生4分後に緊急停止した。そのうち60階展望台までのエレベーター2基も緊急停止している。あべのハルカスのある大阪市阿倍野区は震度1だったのに……。ビル管理者によると、エレベーターは地震時管制運転装置が揺れを感知して、最寄り階に緊急停止し扉を開いて利用客を下し利用客に大きな影響はなかったという。つまり、エレベーターの安全装置が正常に働いたことになる。エレベーターの感震装置が捉えた揺れは長周期地震動であろう。短周期の揺れは距離に反比例して地震波が減衰し弱くなっていく。

一方で東日本大震災の咲州庁舎の時と同じように、長周期地震動は減衰することなく、地震波が遠くまで伝播するのが特徴だ。ただ、この日の地震では、大阪市内のほかの高層ビルでエレベーター緊急停止は起きていない。通常、エレベーターは短周期地震動で震度4~5程度で緊急停止するように地震時管制運転装置が設定されている。あべのハルカスだけが緊急停止したということは、あべのハルカスビルの固有周期と、伝播してきた長周期地震動がたまたま共振して緊急停止したか、長周期地震動に関する感震停止装置の設定が過敏だったものと思われる。いずれにしても、長周期地震動のすごさを再確認した事例だった。

Photo by iStock

国のモデル検討会では、近畿圏の一部では揺れ幅6m以上の長周期地震動が10分以上続く可能性があると推計している。とくに00年以前に建てられ、長周期地震動対策ができていない超高層建物では、激しい揺れが襲うと思われる。超高層ビルの上層階が6m以上揺れるとすると、高層オフィスやタワーマンションの上層階でも、揺れ幅4~5m以上の揺れになる可能性がある。固定していない家具類が吹っ飛んだり、倒れたり、大きく移動する可能性がある。人が立っていられない揺れで、何かにつかまらなければ飛ばされる危険性がある。こうした過去に経験したことのない大揺れに備えるために今やることは、当然、事前にすべての家具や電化製品をしっかり固定すること。そして、人が大揺れで飛ばされないように安全ゾーンを設定し、そこの堅固な壁や床などに「飛ばされ防止手すり」を複数個所設置する必要がある。長周期地震動対策については、前述した<じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値><名古屋を「とてつもない揺れ」が襲う…「南海トラフ巨大地震」発生時の「愛知県の凄すぎる被害想定」>の項を参照。

さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。

『南海トラフ巨大地震』第2巻発売中!!
第2巻は全224ページの大ボリューム!
さらに備え・防災アドバイザー高荷智也氏による防災ガイド26Pも収録!

発売即重版の話題作!
漫画『南海トラフ巨大地震』
2025年 2月11日 15時07分、「南海トラフ巨大地震」発生--。
そのとき、名古屋港にいた主人公・西藤 命(さいとう めい)は、
変わり果てた街の姿を目にする。
「大津波警報」が発令されるなか、安全な高台へ逃げようとする命。
ところが、そばには「ケガを負って動けない高齢者」が……。
見捨てるか、それとも助けるか。
迫られる究極の決断。
そして襲い来る「見えない津波」の恐怖。
いつか必ず起こる未曽有の災禍。そのとき、いったい何が起きるのか?
どうすれば、生き延びることができるのか?
綿密な取材に基づいて描かれた「いつか起こる震災のリアル」。
これは、「そのとき」が来る前に知っておかなければならない「現実」。

山村 武彦

防災システム研究所 所長
防災・危機管理アドバイザー

プロフィール

コメント