2025年1月20日、第二次トランプ政権が発足する。大統領選挙時から、ドナルド・トランプ氏は就任初日から独裁者になって大統領令を活用すると宣言し、自らの政敵に対する報復も宣言していた。第一次政権期と比べても政権スタッフを忠誠心の高い人物中心で固めようとする姿勢からも、第二次トランプ政権は過激な行動をとるのではないかと予想されている。
第二次トランプ政権は必ずしも前途洋洋ではない(ロイター/アフロ)
だが、第二次トランプ政権を取り巻く政治環境はトランプにとって好ましいものではない。
史上稀に見る僅差の連邦議会
24年11月の米国大統領選挙では、選挙人の獲得数が民主党(カマラ・ハリス、ティム・ウォルツ)の226に対し、共和党(トランプ、J.D.ヴァンス)が312と大きな差がついたこともあり、トランプ陣営は「圧勝」を宣言した。だが実際の得票率の差は2%未満と接戦だった。
選挙結果確定までに数日かかると筆者も含む多くの識者が想定していたが、そうならなかったのは、これまで開票が遅かったペンシルベニア州やジョージア州が開票を迅速に行ったことによるものであって、得票数でトランプが圧倒していたからではない。
また、同日に行われた連邦議会議員選挙の結果、共和党が上下両院で多数を占めて共和党による統一政府(いわゆるトリプル・レッド)が達成された。だが、議席数は非常に小さく、さらにトランプは共和党の現職の連邦議会議員を閣僚や政権スタッフの候補に指名したため、この差はさらに縮まった。権力分立が厳格な米国では、政権入りした人は連邦議会議員の職を辞する必要がある。
そのため、1月3日に始まった第119議会は、上院が共和党51、民主党系47(民主党系無所属2を含む)、空席2、下院が共和党219、民主党215、空席1と、歴史上稀に見る僅差である。米国政治の分断と拮抗、対立激化という趨勢は、今回の大統領選挙を経ても変わることがないだろう。
第119議会は共和党による統一政府の状態であるため、分割政府の時期と比べれば、政治的安定性は高くなった。少なくとも、予算が成立せずに連邦政府が一時閉鎖する可能性は、分割政府の時期と比べると低いだろう。分割政府ならば政府が一時閉鎖した場合でも「相手の政党に責任がある」と主張することができるが、統一政府下では多数党たる共和党に責任があるのは明白なので、共和党に予算を通すインセンティブが生まれるためである。
だが、近年の米国では、二大政党間の対立が激化しているために他党の提出した法案に賛成する議員がほぼいない状態となっている。共和党が民主党議員から協力を得ることは期待できない(民主党内で穏健派とされていたジョー・マンチン議員もキルステン・シネマ議員も第118議会中に無党派を経て引退した)。
そのため、法案を通過させるためにはほぼ全ての共和党議員の賛同が必要になる。これは、党内の強硬派や非主流派の主張に配慮しなければ法案が通過しない可能性が高いことを意味している。
また、連邦議会の協力を経ずに実施されてきた諸政策は、覆される可能性が高いだろう。とりわけ、バイデン政権が発令した大統領令はトランプによって覆される可能性が高い。
例えば、パリ協定からの再離脱などが実現される可能性がある。また、不法移民取り締まり強化や、21年1月6日の連邦議会襲撃事件で有罪判決を受けた人に対する恩赦なども、実施されるだろう。
ただし、米国の大統領令は、決して連邦議会の立法を代替するものではなく、あくまでも既存の法律の枠内で政策実施の優先順位を定めるものと位置付けられている。したがって、法律上の根拠のない大統領令については、連邦最高裁判所が違憲判決を出す可能性が高い。また、一部報道によると米国内で不法移民が産んだ子どもへの国籍付与を大統領令で禁止する方向との指摘がなされているが、米国内で生まれた子供が米国籍を持つことは憲法で定められたことなので、大統領令で禁止することは不可能である。
また、大統領令が出された場合でも、それに必要な予算を連邦議会がつけなければその大統領令は効果を持たない。例えば、トランプが最優先課題の一つとしている不法移民問題を例にとれば、1100万人ほど存在するとされる不法移民全員を一度で退去処分にするには3150億ドル以上かかるという試算がある。
共和党議員も移民税関捜査局(ICE)の予算と人員を増やす方針を示してはいるものの、政権が望むだけの予算や人員が確保される見通しはない。また、国外退去処分を実施するまで不法移民を拘留する施設が不足しているし、強制退去処分を行うため必要な輸送手段も不足している。トランプ大統領が大統領令を出したとしても、それを実現するためにも連邦議会の協力が必要な場合が多いのである。
〝トランプ人事〟の行方
第二次トランプ政権の行方を考える上では、政治任用について考える必要もある。連邦政府における政治任用ポストは4000近くあるが、そのうち上院の承認を必要とするポストが1200ほどある。
第一次トランプ政権期と違い、第二次トランプ政権の閣僚候補は早い段階で提示されている。第一次政権期にはワシントンの政界関係者の推薦を受け入れて穏健な人物も政権入りさせたが(ただし後に更迭した人も多い)、第二次政権では自らに対する忠誠心の強さを基準に人選がなされているように思われる。
大統領府の人選については、上院に承認が不要である。首席補佐官のスージー・ワイルズや、次席補佐官のスティーブン・ミラー、国家安全保障担当補佐官のマイク・ウォルツ、国境問題担当のトム・ホーマン、通商・製造業担当のピーター・ナバロらは指名通り就任するはずである。
首席補佐官のワイルズは選挙対策の専門家としての手腕が知られているが、この人選はトランプが第二次の政権運営を選挙戦の延長線上に位置づけていて、岩盤支持層の支持確保を重視しながら実施する可能性を示唆している。なお、首席補佐官は連邦議会との調整役なども期待されているが、その実力については未知数であり、それが失敗すれば政権が混乱状態になる可能性もあるだろう。移民問題への強硬派のミラーやホーマン、内政重視の立場をとる対中強硬派のナヴァロらは第一期同様に強硬な立場をとり続ける可能性が高いだろう。
閣僚などの行政部門は上院の承認が必要であるが、中には大きな疑問符がつく人物も含まれている。例えば、国防長官に指名されたピート・へグセスや厚生長官に指名されたロバート・ケネディJr.などについては共和党内からも反対の声があがるのではないかと指摘されている。
実際に、これらの人物が承認されない可能性も考えられるが、ひょっとすると、トランプもその可能性については織り込み済みかもしれない。承認されなかった場合に「素晴らしい人物が民主党とディープステートの反対によって承認されなかった」と主張することで、自らの岩盤支持層に訴えかける可能性もあるかもしれない。
なお、上院の承認に際し、少数党になった民主党だけで指名を覆すことはできないものの、審議を遅延させる可能性が十分に考えられる。トランプは共和党に休会中任命に応じるよう圧力をかけているとも報道されており、休会中任命も行われる可能性が高いが、その手法が乱用されれば上院の地位低下を招く可能性もあるだろう。
中間選挙で民主党が下院奪還の可能性
最後に、トランプ色(あるいは共和党強硬派の特色)が強い政策が実施される期間は、おそらく26年中間選挙までの2年間に限られる可能性が高いことは念頭におく必要があるだろう。
24年大統領選挙でトランプが勝利したのは、バイデン政権から十分な支援を得ることができなかった労働者層がトランプに投票したからだった。だが、上述の通り連邦議会内の共和党の財政保守派が積極的な財政出動を認めない可能性が高い以上、労働者層は2年後には共和党に批判票を投じる可能性が高い。
そもそも、連邦議会は24年選挙に際しても接戦であり、おそらくトランプが進める社会政策(ジェンダー平等や人種融和に批判的な政策)に反発を感じる人々が26年の中間選挙で民主党に投票する可能性は高まるだろう。中間選挙では民主党が下院で多数を奪還する可能性が高いのである。
また、これからの2年間でトランプと共和党多数議会が示す方針に反対する州が存在することも念頭におく必要がある。例えば今後2年間で化石燃料への回帰が予想されるが、カリフォルニア州などリベラルな州は独自に環境規制を強化する可能性が高いだろう。日本の企業なども、その点に思いをいたして行動する必要があるだろう。
閣僚などの行政部門は上院の承認が必要であるが、中には大きな疑問符がつく人物も含まれている。例えば、国防長官に指名されたピート・へグセスや厚生長官に指名されたロバート・ケネディJr.などについては共和党内からも反対の声があがるのではないかと指摘されている。
実際に、これらの人物が承認されない可能性も考えられるが、ひょっとすると、トランプもその可能性については織り込み済みかもしれない。承認されなかった場合に「素晴らしい人物が民主党とディープステートの反対によって承認されなかった」と主張することで、自らの岩盤支持層に訴えかける可能性もあるかもしれない。
なお、上院の承認に際し、少数党になった民主党だけで指名を覆すことはできないものの、審議を遅延させる可能性が十分に考えられる。トランプは共和党に休会中任命に応じるよう圧力をかけているとも報道されており、休会中任命も行われる可能性が高いが、その手法が乱用されれば上院の地位低下を招く可能性もあるだろう。
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