自動車教習所の費用に「驚きの声」
SNSで自動車教習所の費用に対し、驚きの声が相次いでいる。
きっかけは2月3日、Xで《エグすぎだろ。すごい時代だな本当。》とつぶやきとともに、とある教習所の料金表の画像がポストされたことだった。合宿ではなく通学の教習所費用で、しかも高校生向けの特別キャンペーンにもかかわらず、《普通AT(オートマチック) 36万4650円》《普通MT(マニュアル) 38万2800円》という驚きの数字が並んでいたからだ。
このポストは8.5万“いいね”(2月23日現在)を獲得するほど大きな話題となっており、投稿に対して次のような声が殺到していた。
《今免許こんなするん?えぐ》
《えっ、今こんな高えの?》
《今って教習所こんなにかかるのね 僕の時は20万はしなかったなぁ…》
《ヲレも28万だった たけぇよ》
《俺が免許取った時より+12万くらいなのエグい》
そこで今回は自動教習所の費用の価格上昇の原因や背景について、モータージャーナリストの諸星陽一氏に話を伺った。(以下、「」内は諸星氏のコメント)
物価高、人件費、設備投資が圧迫
総務省統計局の小売物価統計調査(2025年1月24日更新)によると、2024年12月時点の自動車教習料の全国平均価格は31万3708円だった。ちなみに地域別で見ると、最も高いのは名古屋市の平均36万1480円、最も低いのは那覇市の平均28万2777円で、差額は約8万円にも及ぶ。
そして自動車教習所費用はほぼ右肩上がりの傾向が続いており、2015年1月の全国平均価格は29万1199円だったため、直近10年間だけでも2万円以上値上がりしているのだ。たとえば現在50歳の人が18歳で免許を取っていたとしたら30年以上前になるため、値上がり幅はもっと広がっているのだろう。
教習所の料金が値上がりしている背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると諸星氏は語る。
「教習所の運営コストは年々増加しています。まず、物価高騰が経営を圧迫し、指導員の給与や施設維持費上昇を招いています。さらに、近年のカリキュラム変更により、指導員の確保や研修のためのコストが増大し、教材費の値上がりにも影響しているのです。
また、ガソリン価格の高騰も実技教習のコストを押し上げ、負担の一因に。さらに、最新のシミュレーター導入や老朽化した校舎・設備の改修といった施設投資も不可欠であり、これらすべてが教習費の上昇につながっているのです」
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教習カリキュラムの変化も要因に
自動車教習所費用が年々上昇している背景にはさまざまな要因があるが、特に大きな影響を与えているのが、道路交通法の改定に伴う教習カリキュラムの変更だという。制度改正により、教習内容がより充実する一方で、運営コストの上昇を招いていると諸星氏は指摘する。
「かつて教習所での運転教習は、敷地内を周回するだけの『箱庭教習』と揶揄される時代もありました。しかし現在では、自主経路走行や駐停車教習、高速道路での走行訓練など、実際の道路での運転練習が半分以上を占めるようになっています。さらに、1994年には人命救助講習が導入されるなど、教習カリキュラムは年々拡充されてきました。これに伴い、指導員の育成や研修の負担が増加し、より高度な指導が求められるようになったのです」
また、教習内容の高度化により、専用の設備や教材の導入も不可欠になっている。
「たとえば、危険予測教習ではシミュレーターを活用することが一般的になり、最新の機器を導入するためのコストが発生します。老朽化した教習所の施設改修も進められており、こうしたインフラ整備の費用も教習料金の上昇に直結しているのです」
このように、道路交通法の改正に伴う指導の高度化や設備投資の負担増が、教習所の費用上昇を後押ししているとのこと。今後もカリキュラムの充実が求められるなか、教習料金のさらなる料金の上昇が続く可能性は高いだろう。
都市部と地方の価格差は大きい
内閣府の発表によると、令和5年中の運転免許試験の受験者数は、前年に比べて4万9567人(1.9%)減少し、合格者は前年に比べて8万7189人(4.2%)減少したそうだ。少子化によって教習所の受講者が減り、教習所の収益構造が変化している可能性もあるのだろうか。
「もちろん少子化で若者自体の数が減っているので、悪いほうに影響が出ているでしょう。また、都市部ではコストを考えるとクルマに乗りたくて乗れない状況となりつつあるため、それならば免許も不要と考え、教習所の受講者数も減少していると考えられます。
受講者数が減れば、当然教習所の収益も落ち込み、経営の維持が難しくなります。特に地方の教習所では、地元の高校生や大学生を主なターゲットとしているケースが多いため、人口減少の影響をより直接的に受けると考えられます」
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このまま教習料金を引き上げざるを得ない状況が続けば、経済的な事情でさらに“免許離れ”が進むという悪循環に陥ってしまうのではないだろうか。
「また、自動車教習所の料金は地域によって差があり、一般的に都市部のほうが高くなる傾向があります。教習所の職員の給与は、地域ごとの最低賃金の影響を受けることもあり、都市部は地方よりも最低賃金が高いため、人件費の負担が大きくなり、結果として教習料金にも反映されるのです。
また、教習所自体の土地の取得・賃貸コストの違いも大きな要因となっています。地方では比較的安価に広い土地を確保できますが、都市部で教習所を運営する場合、広大な土地を確保するためのコストは地方よりもはるかに高くなるでしょう」
名古屋市と那覇市の差額が約8万円にも及んでいたのはそういった背景があるようだ。
4月から教習カリキュラムがまた改変
今年4月から、教習所のカリキュラムがまた大きく変わる。
昨年6月26日に公布された“道路交通法施行規則の一部を改正する”という内閣府令によって、新たな講習制度が導入されるのである。
特に注目される変更点のひとつが、教習の基本がAT車に統一されること。これにより、MT免許を取得したい場合は基本のカリキュラムに加えて追加講習を受講する必要があるが、決して“改悪”ではないようだ。
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「今回の改正は、一昔前に比べてMT免許取得者が減りAT免許取得者が増えている現況を鑑みて、より現実的なカリキュラムへとシフトすることが狙い見られます。カリキュラムの変更は、単に免許取得のプロセスを変えるだけでなく、教習生と教習所双方の負担軽減にもつながる可能性があると考えます。
より現実に即したカリキュラムや試験内容にしていけば、受講者にとっても無駄な負担が減るだけでなく、教習所側も効率的な運営が可能になります。教習所の存続はもちろん重要ですが、それ以上に免許取得者を増やすことを優先することで、自動車教習費用の上昇といった課題にも変化が出てくるのではないでしょうか」
現在の若者たちが、自身で必要性を考えたうえで“マイカーを持たない”“運転免許を取らない”という選択をしているのであればいいのだが、もし“運転免許はほしいが経済的に教習所に通うお金がない”という理由で断念しているとしたら、切実な問題だ。今回の改正で免許を取得しやすい状況に変わっていくことを期待したい。
(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)
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