これは非課税になりません…70歳元公務員・亡父が遺してくれた「1,000万円の生命保険金」。涙をこらえて受け取った40歳長男に税務調査官が告げた、まさかの一言【CFPの助言】

生命保険は相続税の節税対策として有効な手段として広く知られています。しかし契約内容や契約変更のタイミングによっては課税対象となるケースも。生命保険に関する税務判断は、慎重な選択が必要です。本記事ではBさんの事例とともに、相続対策としての生命保険の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

image

息子のために加入した一時払い終身保険

「うちは資産はたいした額じゃないけど、保険だけはちゃんとかけてあるから心配いらないよ」

亡くなる数年前に父AさんはBさんにいいました。父は穏やかな性格の元公務員。年金で慎ましく生活していたものの、万が一に備えて60代のころに退職金の一部を使って一時払い終身保険に加入していました。契約者はAさん自身、被保険者もAさん。そして、保険金の受取人には一人息子であるBさん(現在40歳)を指定していました。契約の内容は以下のとおりです。

契約者:Aさん

被保険者:Aさん

保険受取人:Bさん

保険金:1,000万円

保険料は支払い済みとなっている状態

「手続きも簡単だし、相続税の対策にもなると聞いたからね」と、保険の営業担当にいわれて加入を決めたのです。ところが、Aさんが急死したのは、病の進行によるものでした。数ヵ月前から体調を崩していたものの、「病院に行くほどじゃない」と頑なに受診を拒んでいた矢先のこと。自宅で倒れ、そのまま帰らぬ人に……。享年70。家族にとっては早すぎる別れでした。

母は「強引にでも病院に連れていっていれば」とずっと泣いています。そんな母の様子に胸を痛め、Bさんも大きな悲しみを抱えていましたが、一人息子としてしっかりしようと、なんとか葬儀を終えました。そして慌ただしく遺品整理や相続手続きを進めていきます。すると、父のエンディングノートを見つけました。そこには自身の資産の状況が事細かに記載されていたのです。「しっかりと準備してくれてたんだな」そんな父に思いを馳せつつ、内容を読み進めていたところ、自分宛てのもう一つの保険の存在に気がつきました。

もう一つ、父が遺した生命保険

実は、父AさんはBさん自身にも生命保険を掛けてくれていたことがわかります。同じく一時払い終身保険でした。その契約内容は以下のとおりです。

契約者:Aさん

被保険者:Bさん

保険金受取人:Aさん

保険金:1,000万円

保険料は支払い済みとなっている状態

この一時払終身保険は解約をするとこれまで支払った保険料の一部が返ってくる、いわゆる「積立型」の保険です。Aさんは、Bさんが将来的に資金面で困ることのないよう、保険で準備を行っていたのでした。そんな父の気持ちに目頭が熱くなりました。Aさんの葬儀や相続の手続きを終えたあと、契約者をもう一つの保険と同様に父から自分へと変更しました。

税務署からの通知…税務調査が入ることに!

相続税の申告を終え、数年後のある日のこと。税務署からBさんのもとに「相続税の申告漏れがある」と連絡がありました。「相続税の申告漏れだなんて。そんなはずは……。しっかりと相続税について計算したのに……」Bさんは首をかしげます。

税務調査では調査官に「ここの部分(解約返戻金相当額)は非課税になりません」と指摘され、詳細な説明を受けました。

契約者(保険料負担者)と被保険者が異なる契約では、契約者が保険期間中に死亡した場合、新しく契約者(保険料負担者)となった人が契約の権利を引き継ぐことになります。このため、契約者が死亡した時点で、「生命保険契約に関する権利」として評価された金額が相続税の課税対象となります。つまり、相続開始時に解約した場合に受け取れる解約返戻金の額が、「生命保険契約に関する権利の評価額」となるということです。

一時払終身保険は、解約をした際に解約返戻金を受け取ることができます。これまで支払った保険料の一部が戻ってくる積立型の保険です。

今回のケースでは、父親であるAさんが息子Bさんを被保険者として契約した一時払終身保険について、Aさんの死後にBさんへ契約者の変更をした際に積立部分が相続税の課税対象となってしまったのです。

生命保険の契約における「契約者」「被保険者」「受取人」の違いと税金の関係

生命保険の契約では次の3つの立場が重要になります。

契約者(保険料負担者)……保険を契約し、原則保険料を支払う人

被保険者……保障の対象となる人(この人が亡くなると保険金が支払われる)

保険金受取人……亡くなった際に保険金を受け取る人

この関係によって、相続税・贈与税・所得税のどれが課税されるかが決まります。

契約者と被保険者が異なる場合の税金

生命保険契約では、「契約者」と「被保険者」が異なる場合、保険の税務処理が複雑になるため、注意が必要です。

例:Aさん(父)が契約し、Bさん(子)を被保険者としたケース

契約者(保険料負担者):Aさん(父)

被保険者:Bさん(子)

保険金受取人:Aさん(父)

Aさんの死後に判明したこの契約では、保険金が支払われるのは息子であるBさんが亡くなった場合です。しかし、Aさんが亡くなった時点で契約者変更を行うと、解約返戻金相当額が相続財産として課税対象となります。

対策と注意点

・契約者と被保険者の関係を事前に確認する

・相続税対策として保険を活用する際は専門家に相談する

このようなケースでは、「契約者をだれにするか」「実際に相続が発生したら税金はどのような扱いになるか」を事前に考えておくことで、税金のリスクを回避できます。

〈参考〉

生命保険文化センター 税金に関するQ&A

https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/tax/563.html

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表

コメント