過疎化や児童生徒の減少に伴う、学校の休校や廃校。鹿児島県内では2025年度、新たに6つの小中学校が閉校や休校となった。長い歴史に終止符を打ったりいったん中断したりする学校がある一方で、地域活性化のため、“第二の人生”を歩み始めた廃校もある。
全国で10番目に多い鹿児島の廃校
2025年3月25日、鹿児島県霧島市の山間にある三体小学校で「休校式」が開かれた。全校児童5人のうち、2人の6年生が卒業し、残る3人は市外や近隣の学校に転校する。児童数が減少する中、今後3年をめどに閉校するかどうかが検討されるという。
文部科学省によると、2025年3月31日時点で鹿児島県内の小・中・高校の廃校数は262校で、全国で10番目に多いという。学校が消えた地域の活気をどう維持できるのか。そのカギを握るのが廃校利用だ。
スポーツを軸にした廃校の活用
まず訪ねたのは薩摩川内市にある「高江未来学校」。2018年に閉校した高江中学校を活用して2020年にオープンした民間の施設だ。
「こちらは教室で3つの部屋を作っています」と、運営する団体の東 峯生さんが案内してくれたのは教室を利用した「部屋」。窓から見える校庭の景色が懐かしい。
のどかな景色が広がる校舎は、宿泊施設に生まれ変わっていた。
そして、未来学校の一番の目的は、バドミントン専用の体育館だ。
集まっていたのは東さんが運営するバドミントンクラブ。東さんはスポーツを軸にした廃校利用を展開している。コートを完備した宿泊施設ではスポーツ合宿もでき、選手は校舎内のレストランで食事もとれる。
児童の保護者は「もう至れり尽くせりで。とても恵まれた環境だと思ってます」と、施設に感謝している様子だ。
運営は順調に見えるが、オープンした2020年はコロナ禍の真っ只中。予約を受けていたスポーツ合宿が全部キャンセルとなり、いきなり運営の危機に陥ったと東さんは振り返る。
廃校利用に詳しい北海道文教大学 地域未来学科・熊野稔教授は、「コロナ禍後、(運営母体が)早く撤退する事例がけっこう増えていて、全国的にも課題になっている」と、厳しい現状を口にする。
スタッフの趣味から作り始めた燻製チーズが名物に!
コロナ禍でダメージを受ける中、東さんが始めたのは燻製チーズの製造だった。スタッフの趣味がきっかけだったが、販売を始めるとこれが名物に。
東さんは「失敗も成功になるようにみんなで頑張っているのが現状。コミュニティーの中からまた違うコミュニティーが生まれたりするのも見てきているので、そういう場所としていいと思う」と語った。
引き継いだ人たちの個性が現れる廃校利用。
鹿児島県内でもワインの醸造所になったり、はたまた化粧品の工場になったり。様々な事例がある。
やはり多いのは「別の学校に生まれ変わる」ケース
文部科学省がまとめた廃校利用の用途を見ると、高江未来学校のようにスポーツを軸とした社会体育施設や文化施設が全体の約28%を占めている。その他、医療・福祉施設として使われる例も約7%にのぼる。
しかし用途別のトップは別の学校として活用するケースで、全体の40%余りにのぼっている。
熊野教授は「公立の小学校中学校が廃校になって、また今度は私立の学校が入ってきたというような例もたくさんある。学校が廃校になってもまた学校として使い勝手がいい」と話す。
CMがヒントの学校作りプロジェクト
2027年の開校を目指して今まさに動いている場所が鹿児島県内にあった。
「こんにちは」と元気に待ち合わせ場所に到着したプロジェクトの代表は、「私立新留小学校設立準備財団」共同代表の古川瑞樹さん(16)、現役の高校生だ。広島県にある全寮制の高校に通いながら、地元鹿児島で保育園を営む母親と、新たな学校作りに挑戦している。
姶良市の旧新留小学校。校舎には最後の卒業生たちのメッセージが令和の今もそのまま残っている。
どうして学校を作ろうと思ったのか古川さんに聞くと「私は学ぶことにすごく楽しさを感じているけど、一方で不登校になっている人の数は年々増えていったり、自分が感じているものと数字で見た時の日本の教育の現状に少しギャップがあるかなと思って」と話す。
古川さんが描く学校とは、机に向かう勉強だけでなく、外での遊びや地域の人とのふれあいから学べる場所だ。
そのイメージのヒントになったのが、ある電気機器メーカーのDVDのコマーシャルだった。
2007年の休校を経て閉校した新留小学校の、最後の1週間をつづったドキュメントになっている。
「なんかここで起きてきたいろんな出来事とか、ストーリーみたいなのがすごく見えて」と、古川さんはコマーシャルからヒントを得た当時のことを話す。
古川さんにとって縁もゆかりもない、この新留小学校を舞台に、2027年春の開校を目指す。
募った1000万円のクラウドファンディングは目標額に到達。既存の校舎の隣に新たな校舎を作り、さらに地域の人も利用できる図書館も作り、「地域がもう一回元気になっていく、きっかけになればいいなと思っている」と話す古川さんは「つながりを生む学校」の再生を目指す。再生状況などについては一般財団法人私立新留小学校設立準備財団のHPで確認することができる。
再び地域の核となるために。それぞれの思いをこめた廃校の再生計画が、鹿児島でも進んでいる。
(鹿児島テレビ)
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