ローカル線に未来はあるのか!? 鹿児島・JR指宿枕崎線「輸送密度222人」という現実! 経営学者の私が「観光路線化」を強く提言するワケ

指宿枕崎線は、鹿児島中央駅~枕崎駅間で年間12.09億円の収益を上げる一方、指宿~枕崎間は経営的に赤字が続く。地域活性化のカギは観光列車や駅周辺の医療・商業施設の開発で、公共交通の新たな価値創出が求められている。

鹿児島市内の混雑

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鹿児島中央駅17時43分着指宿枕崎線快速なのはなから約200人が下車した。2025年2月2日撮影(画像:大塚良治)

 ある平日の夕方、指宿枕崎線の指宿16時39分発、鹿児島中央行き快速なのはな(3346D)に乗った。キハ200系2両編成で、指宿駅では問題なく座れた。乗客は約30人で、定刻に出発した。

 のんびりとしたローカル線の旅を楽しめると思っていたが、期待はいい意味で裏切られた。鹿児島市内に入ると、車内が徐々に混み始めた。最初の停車駅である喜入駅と平川駅では、まとまった乗客があり、立席が目立つようになった。

五位野駅、坂之上駅、慈眼寺駅では数名ずつが下車したが、それぞれ20~40人が乗車し、だんだんと大都市のような混雑になっていった。谷山駅では、約20人が下車し、その後約70人が乗車した。

 その後、宇宿駅、南鹿児島駅、郡元駅では、それぞれ約20人が下車したが、各駅で20~30人が乗車し、混雑は解消しなかった。終点の鹿児島中央駅では、約200人が一斉にホームに降り立った。客層は中高生、大学生、勤め帰りの人々、その他の用務客など、幅広く見受けられた。

 別の日、加世田(南さつま市)17時20分発の鹿児島交通バス(鹿児島中央駅経由金生町行き)に乗った。18時を過ぎ、国道225号の南鹿児島駅付近では、大量の自動車が行き交っていた。

指宿枕崎線の輸送力格差

枕崎に到着した鹿児島市内発の鹿児島交通バス。2025年2月27日撮影(画像:大塚良治)枕崎に到着した鹿児島市内発の鹿児島交通バス。2025年2月27日撮影(画像:大塚良治)

 鹿児島中央駅~谷山駅間の公共交通は、指宿枕崎線、市電(鹿児島市交通局)、または路線バスから選べる。指宿枕崎線鹿児島中央駅~谷山駅間の輸送密度(1kmあたりの1日の乗客数)は2023年度で7685人、鹿児島市交通局の輸送密度は2022年度で7481人だ。

 指宿枕崎線は、鹿児島中央駅から枕崎駅までの87.8kmを結ぶ、全線非電化単線のJR九州の地方交通線だ。この路線は、三つの区間で性格が大きく異なる。

 まず、鹿児島市中心部の近郊路線としての役割を持つ鹿児島中央駅~喜入駅間は、区間運転を含めて概ね20~30分間隔で運行されている。

 次に、喜入駅を境に、枕崎駅方面は輸送密度が大きく減少する。喜入駅~指宿駅間は、主に沿線の学校への通学や観光輸送を担っており、1日輸送密度は1988人だ。指宿駅周辺には、砂蒸し風呂で有名な「指宿砂むし温泉」などがある。

 指宿駅~枕崎駅間は、開聞岳を車窓から望むことができ、のんびりとしたローカル線の雰囲気が漂う。1日輸送密度は222人だ。営業損益は、喜入駅~指宿駅間で-2.32億円、指宿駅~枕崎駅間で-4.62億円となっている。

 鹿児島中央駅~枕崎駅間の1日輸送密度は2867人、営業収入は12.09億円だ(JR九州のデータ、2023年度)。

鉄道とバス、所要時間の差

指宿枕崎線指宿駅に停車中の指宿のたまて箱。2025年1月6日撮影(画像:大塚良治)指宿枕崎線指宿駅に停車中の指宿のたまて箱。2025年1月6日撮影(画像:大塚良治)

 定期特急列車「指宿のたまて箱」(いぶたま)は、鹿児島中央駅~指宿駅間で毎日3往復運行されている。2024年3月16日のダイヤ改正により、喜入駅への停車が取りやめとなり、以降は途中駅に停車せず、鹿児島中央駅~指宿駅間を50分程度で結ぶ。

 山川駅~枕崎駅間は、1日12本の列車が運行されている(指宿駅~西頴娃駅間の区間運転列車は上下2本)。西大山駅は、JR最南端の駅として知られ、一部の列車ではホームで撮影などができるよう、2分程度の停車時間が設けられている。

 鹿児島中央駅~枕崎駅間を直通する列車は1日6本だが、指宿枕崎線を利用する場合、指宿駅または山川駅での乗り換えが必要なことが多い。

 指宿枕崎線の全区間の所要時間は約2時間40分~3時間だ。これに対し、鹿児島中央駅~枕崎間を結ぶ路線バスは約90分で到達する。鉄道はバスの約2倍の所要時間を要している。

 指宿枕崎線が鹿児島中央駅と枕崎駅を結び続けるためには、指宿駅~枕崎駅間の存続が必要だ。しかし、それには都市間輸送以外の新たな意義を見つけることが求められる。2023年11月29日、JR九州は、指宿駅~枕崎駅間のあり方について、鹿児島県と沿線の枕崎市、南九州市、指宿市と議論を行いたいと伝えた。この議論は「鉄道の存廃を前提としない」形で進められる予定だ(『日本経済新聞』2023年11月30日付け)。

「触媒効果」で鉄道の価値を再評価

指宿枕崎線とバスの運行経路。Mapion地図を加工し作成(画像:大塚良治)指宿枕崎線とバスの運行経路。Mapion地図を加工し作成(画像:大塚良治)

 2024年8月19日、鹿児島県が事務局を務める「指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議」が開催された。JR九州は

「鉄道利用者のV字回復は難しく、このまま何も手を打たずにいると、将来、地域の足を確保する選択肢がなくなってしまうが、今であれば、打てる手がある」

と発言した。委員のひとりである呉工業高等専門学校の神田佑亮教授は、

「鉄道の価値は、移動の足としての効果だけで評価するのではなく、鉄道があることでその地域を訪問し、消費し、地域経済に貢献するという『波及効果』や、鉄道等の存在により、まちおこしや地域活性化ビジネスなどの熱が高まるという『触媒効果』などの観点から評価することも大事」

と指摘した。また、

「自治体のみではなく、地域の民間企業やNPO法人、地域おこし協力隊など、自発的に主体となって、鉄道の利用促進に取り組んでいる方々がとても多いことがこの地域の魅力だと思」

と述べた(第1回会議資料より)。

 沿線では指宿枕崎線活性化に取り組むキーマンがいる。中原水産の中原晋司社長は、線路や車両を持たない「ファブレス型」の鉄道事業者として、D&S列車(指宿のたまて箱、A列車で行こう、はやとの風)の貸切誘致やイベント列車の企画・運営・コンサルティング、指宿枕崎線を活用したモデルコース提案を行っている。中原氏は

「当社の鉄道事業は、ビジネスとして利益を上げている。これからも他地域の鉄道活性化に取り組む団体と連携を深め、当社として利益を確保しつつ、ローカル線の活性化に取り組みたい」

と語っている。

「いぶたま」延長への障壁

西大山駅は観光地化しているが、来訪者の多くは車利用。鉄道利用につなげる仕組みが望まれる。2025年2月27日撮影(画像:大塚良治)西大山駅は観光地化しているが、来訪者の多くは車利用。鉄道利用につなげる仕組みが望まれる。2025年2月27日撮影(画像:大塚良治)

 筆者(大塚良治、経営学者)は、指宿駅~枕崎駅間の存続には、開聞岳の車窓風景や西大山駅を活用した

「観光路線化」

が必要だと考える。しかし、現状では観光列車「いぶたま」の運行は鹿児島中央駅~指宿駅間にとどまっている。いぶたまを枕崎駅まで延長するには、車両の増備や乗務員の確保など、採算面で大きな課題がある。

 いぶたまの延長が難しい場合、指宿駅~枕崎駅間で新たな観光列車を運行する方法を検討すべきだろう。しかし、増発せず、既存の普通列車を観光列車に置き換えるのも一案だ。

 車両の参考として、かつて呉線(海田市駅~三原駅間)で運行されていた臨時快速「瀬戸内マリンビュー」がある。2両編成で、1両は指定席、もう1両は自由席として開放され、乗車券だけで利用できた。また、肥薩線の普通「いさぶろう・しんぺい」でも自由席があった。

 また、予土線(若井駅~北宇和島駅間)で現在も運行されている「ホビートレイン」のように、全席自由席の列車を運行する案もある。この形態では、指定券の確認業務がなく、運転士以外の乗務員を省いた運行が可能だ。沿線学校の生徒によるおもてなしを実施すれば、公共交通の重要性を教育する機会にもなる。

鉄道活用の新たな都市開発戦略

群馬県明和町は東武伊勢崎線川俣駅直結の医療機関の整備や駅隣接地への温泉付きホテルの誘致などを進める。2025年4月8日撮影(画像:大塚良治)群馬県明和町は東武伊勢崎線川俣駅直結の医療機関の整備や駅隣接地への温泉付きホテルの誘致などを進める。2025年4月8日撮影(画像:大塚良治)

 観光列車を導入するには、行政も金銭的支援を含めて協力する必要がある。神田教授は

「鉄路として将来的に残すのであれば、何らかの形で費用負担は生じるのは避けられない。これまでの考えでは『インフラ維持のための経費』という認識になるが、『投資することで地域に価値をどれだけ生みだせるか』という判断軸を持った方がいい」

と指摘している。このように、効果を上げるための投資として評価する視点が求められている。鹿児島県は指宿枕崎線の経済的価値を可視化するために調査や実証事業を検討している(第2回会議資料)。

 また、駅周辺に利便施設を配置する「鉄道を基軸としたまちづくり」も進めるべきだろう。例えば、JR東日本と日本郵便が協力して行っている駅と郵便局の一体化などが検討の余地がある。

 群馬県明和町と民間企業は、東武伊勢崎線川俣駅直結の明和メディカルセンタービルを整備した。このビルには医療機関やカフェが入居している。明和町は2011(平成23)年から川俣駅周辺の交通機能向上に取り組んでおり、東西駅前広場や自由通路の整備を進めてきた。住民のニーズが高い「地域医療の充実」に向けて、2018年に「明和町立地適正化計画」を策定。駅周辺への医療や商業施設の誘導を進め、中心拠点の機能強化と都市圏との連携を目指すまちづくりを推進している。

 邑楽館林まちづくりが事業主体となり、医療施設の建物を整備した。この会社は、鉄道利用者にとっての付加価値向上を期待していると説明している。さらに、担当者は今後の参考にするため、北海道ボールパークも視察した。

指宿枕崎線の未来図共有

枕崎駅に停車中の指宿枕崎線普通列車。2025年1月6日撮影(画像:大塚良治)枕崎駅に停車中の指宿枕崎線普通列車。2025年1月6日撮影(画像:大塚良治)

 話を指宿枕崎線に戻す。南九州市は「地方で病院に人が集まるといった話があるが、これを駅に変えることができないかとイメージしている」と考えている(第2回会議資料)。群馬県明和町などの事例を参考に、沿線自治体は駅周辺に医療機関や商業施設を配置する事業を立案することが期待される。

 また、指宿枕崎線の利活用によるメリットを可視化し、同線の未来図をステークホルダーが共有する仕組みを作る取り組みが求められる。この線の存続に向けたモデルが確立できれば、他の路線にも展開する可能性が広がるだろう。今後の議論に注目したい。

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