日産、最後の切り札か!?「第三世代e-POWER」はトヨタとホンダのハイブリッドを超えられる

image

安全装備や自動運転でますます高額化している現代のクルマ。上手に購入する方法は? さらに、所有してからも様々なトラブルやアクシデントが起きるのがカーライフ。それら障害を難なくこなし、より楽しくお得にクルマと付き合う方法を自動車ジャーナリスト吉川賢一がお伝えします。

国産車のハイブリッドシステムといえば、トヨタのTHS-II、ホンダのe:HEV、そして日産のe-POWERが3本柱。いずれも素晴らしい燃費性能を達成しているシステムですが、トヨタのTHS-IIやホンダのe:HEVと比較して、日産のe-POWERは、弱点が指摘されがち。特に高速走行時の燃費に関しては、THS-IIやe:HEVに後れをとっている状況です。

そんなe-POWERですが、先日、日産は大幅な燃費性能改善とコスト低減を実現するという「第3世代のe-POWER」を、2025年度後半にも市販車に投入する旨を明らかにしました。待望の進化を遂げることになるe-POWERですが、THS-IIやe:HEVを凌駕する性能を持つのかは、気になるところ。はたして、第3世代e-POWERはトヨタやホンダのハイブリッドシステムを超えることができるのでしょうか。

■高速燃費は第2世代e-POWER比で15%改善

日産のe-POWERは、エンジンで発電しモーターだけで走る「シリーズ方式」です。エンジンとモーターの両方で走る「シリーズ・パラレル方式」であるトヨタのTHS-IIやホンダのe:HEVとは異なります。

常にモーターで走行するe-POWERは、再加速に備えたり、充電ゼロによるバッテリーダメージを軽減するため、基本的にバッテリー残量が1メモリ以上(全4メモリ中)を維持するよう設定されています。この常に余力をもつ設定となっていることで、発電が必要ではないシーンでも発電をしてしまうため、燃費が悪化してしまうのです。

特に高速巡行では、追い越し加速などの一時的に電力を大量に使うことに備えて2メモリ以上を維持するように制御が働くため、ほぼ常時、エンジン発電を行います。これを抑えようとコースト走行(アクセルオフにして惰性で走る方法)を心がけると途端に速度は低下してしまうため、アクセルペダルを踏み込まないと車速を維持することが難しく、高速走行では燃費がかなり悪化してしまいます。筆者も、所有するノートオーラで低燃費走行の方法をいろいろ試してはいますが、よい方法は見つけられていません。

第2世代e-POWERを搭載する、現行型ノート。第3世代e-POWERでは、高速走行時の燃費が現行型比で15%改善できるという

そんなe-POWERですが、日産は2025年2月13日の決算発表において、第3世代e-POWERを2025年度から2026年度にかけて、市場投入することを発表。日産によると、第3世代e-POWERは初代e-POWER比で燃費を20%向上させ、コストも20%削減。さらに、高速走行時の燃費については、第2世代e-POWER比で15%の改善を達成するとしています。

新燃焼コンセプトを採用したe-POWER専用エンジンの採用によって実現するものだそうで、従来のe-POWERのように走行シーンに応じてエンジン回転を変動させながら発電するのではなく、発電効率がもっとも高い定点で集中的に燃焼させる仕組みを採用しているそうです。

■ライバルにかなり肉薄する性能となる!?

では、トヨタのTHS-IIやホンダのe:HEVと比較して、第3世代のe-POWERはどのくらいの水準に達するのか。ボディサイズが近しい日産「ノート」とホンダ「フィットe:HEV」、トヨタ「アクア」で比較してみましょう。

第2世代e-POWERを搭載する現行ノートのWLTCモード燃費は28.4km/L。アクアの34.6km/Lが驚異的ですが、フィットe:HEVの29km/Lと比較しては、さほど見劣りしない数値です。ただ、高速道路モードになると、ノートは27.1km/Lと、フィットe:HEVとも差が大きくなることに。実燃費では、(条件にもよりますが)その差はもっと大きくなることが予想できます。

ノートe-POWERとフィットe:HEV、アクアのカタログ燃費の比較。e-POWERは高速道路モードではフィットe:HEVに差をつけられてしまっているが、第3世代e-POWERの登場でその差が埋められるか

これがもし、第3世代e-POWERで高速道路モード燃費が15%向上するならば、ノートの燃費は31.1km/L(高速道路モード)となり、現行フィット e:HEVを上回り、トップのアクアに迫る水準に達する可能性があります。

もちろん、トヨタやホンダのシステムも絶えず技術進化を続けているため、e-POWERだけが進化する状況にはならないでしょうが、第3世代e-POWERは、ライバルにかなり肉薄する性能を手に入れると考えてよいのではないでしょうか。

■コストもガソリン車並みになる!??

第3世代e-POWERはまた、コストも(初代e-POWER比で)20%もの低減を実現できるとのこと。具体的な方策としては、日産が2023年春ごろに「X-in-1」という名前で公開していた、e-POWER用のモーター、インバーター、減速機、発電機、増速機を一体化した「5-in-1」と、バッテリーEV用の「3-in-1」に、共有のユニットを使うことでコストを下げていくというものですが、当時日産は、「2026年にe-POWER車のコストをエンジン車と同等にする」としていました。

第3世代e-POWERは、初代比で燃費を20%向上、かつコストは20%削減、さらに高速走行燃費は第2世代で15%向上と説明。それが本当ならば、他車ハイブリッドに太刀打ちできるかも!?

これが本当なら、第3 世代e-POWERは、燃費性能は他社車と同等ながら、価格を大きく下げることが実現できるわけで、他社のハイブリッド車を大きく超える魅力を備えることができることになります。

■国内では、2026年度に登場するとされている新型大型ミニバンに搭載予定!!

e-POWERに関しては、高速走行用2速ギアや、ホンダe:HEVのような直結モードの採用といった、インパクトのある「飛び道具」(新技術)の採用が期待されていますが、現時点の日産には、多額の投資を必要とする大規模な技術開発は容易ではありません。その点、今回の新燃焼コンセプトを採用したエンジンによる進化は、内燃機関の賢い使い方を突き詰めた、現実的かつ最適な戦略だと筆者は考えます。

次期エルグランドのベースとなるとされているコンセプトカー「ハイパーツアラー」。これをベースとしたモデルに、第3世代e-POWERが搭載となるはずだ

日本での第3世代e-POWER初搭載車は、2026年度に登場するとされている新型大型ミニバン(エルグランド)になると思われます。はたして、期待通りの性能で登場するのか!?? 今後の展開に期待です。

文:吉川賢一
写真:NISSAN

コメント