夏休みの時期を終え、「久しぶりの帰省で家族が集まった」という人も多いのではないでしょうか。
にぎやかな団らんを過ごす中で、自然と親の相続についての話題が上がることも珍しくありません。
相続について考えるときに知っておきたいのが、預金口座の凍結についてです。
この記事では、元銀行員の筆者が預金口座が凍結されるタイミングや、死亡後の手続きの流れについて解説します。
1. 銀行側が死亡の事実を知るとすぐに口座が凍結される
「親が死亡するとすぐに預金口座が止められる」、そんな話を聞いたことがないでしょうか。
これは半分正しく、半分誤っているといえます。
というのも、預金口座は預金者が亡くなると必ず凍結するわけではなく、「銀行が死亡の事実を知った時点で凍結する」という仕組みになっているからです。
では、銀行はどのような経緯で死亡の事実を知るのでしょうか。銀行は病院や役所から死亡の連絡が届くわけではありません。
銀行側が死亡の事実を知るきっかけとして、主に次のようなケースが挙げられます。
特に注意したいのが、お悔やみ欄への掲載で預金口座が凍結するケースです。
多くの銀行では、新聞のお悔やみ欄から預金口座を凍結する手続きを取っており、遺族としては「気が付いたら預金口座がストップしていた」ということにもなりかねません。
突然預金口座が使えなくなっていても驚かないように、「遺族が死亡を申し出ていなくても預金口座がストップすることがある」ということを覚えておきましょう。
2. 預金口座が凍結すると入出金ができなくなる
預金者が死亡したことにより口座が凍結されると、入金や出金手続きが行えなくなります。
そのため、「遺族の当面の生活費を相続人の口座から支払いたい」、「親の預金を葬式代に充てたい」といったケースでは不便を感じてしまうかもしれません。
また、凍結後は引き落としもストップしてしまう点に注意が必要です。
自宅の公共料金など引き落としができないと困る口座振替については、事前に他の家族の口座へ変更しておくとよいでしょう。
3. 通常、預金口座が引き出せるのは相続手続きの完了後
被相続人の預金口座から引き出しができるようになるのは、金融機関で相続手続きが完了してからとなります。
相続手続きの流れは金融機関や取引の内容によって異なりますが、戸籍謄本や相続人の署名が必要となることが一般的です。
場合によっては被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本が求められることもあり、書類を揃えるだけで数ヶ月間かかることも珍しくありません。
手続きは金融機関ごとに必要となりますので、取引している金融機関が多い場合はその分手続きの回数が増えることを留意しておきましょう。
3.1 「相続預金の払い戻し制度」で一部預金の引き出しが行える
先ほど、預金口座が凍結すると引き出しができなくなると伝えましたが、一部例外的に引き出しができるケースがあります。
2019年7月1日から施行された「相続預金の払い戻し制度」では、相続手続きが完了する前でも一部預金の引き出しが可能となっています。
相続預金の払い戻し制度のポイント
出所:一般社団法人全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内チラシ」 をもとにLIMO編集部作成
相続預金の払い戻し制度の例
出所:一般社団法人全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内チラシ」をもとにLIMO編集部作成
引き出しができる金額は「相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分」で、1つの金融機関あたり最大150万円までです。
被相続人の預金から当面の生活費や葬式代などを捻出したい場合は、この制度の利用を検討してみるとよいでしょう。
手続きに必要なものは金融機関によって異なりますので、くわしくは預金口座のある金融機関でたずねてみてください。
また、後々のトラブルを防ぐためにも、相続手続き前に引き出しを行う場合は、他の相続人の同意を得ておくと安心です。
4. 相続について家族でよく話し合っておこう
誰もがいずれは経験する親の相続。いざ相続が発生したときに、「どの金融機関へ行けばいいの?」、「葬式代はどこから工面する?」など慌てずに済むように、日頃からきちんと家族間で万が一のときのことを話し合っておくことが大切です。
なるべく相続手続きの手間を抑えるためには、「利用する金融機関を最小限にまとめる」など預金の見直しをしてみるのもよいでしょう。
参考資料
執筆者
元銀行員/金融ライター
立命館アジア太平洋大学卒業後、入行した銀行で10年間勤務。個人・法人営業として投資信託、保険、仕組債、外貨預金等の提案・販売を務める。現在は銀行での経験を活かし、金融専門ライターとして活動中。兵庫県出身。
保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士、1種外務員資格、内部管理責任者(2023年11月20日更新)
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