高校を卒業したら大学に進学し、大学を卒業したら就職。60歳まで働き、以降は再雇用で働く。これが昨今のサラリーマンの多数派が進む道です。このようなキャリアを歩んでいったとき、手にする年金額は十分なものですが、さらに受取額を増やそうと「年金の繰下げ受給制度」を利用したら……思わず「えっ⁉」という結末が待っています。
日本人の多数派「大卒サラリーマン」が手にする年金額
文部科学省『2023年 学校基本調査』によると、大学進学率は57.7%。高校卒業し、大学に進学する人が今や多数派です。また大学を卒業して、会社に就職し正社員へ。60歳定年まで働くというのがまた圧倒的多数派です。
さらに高齢者雇用が叫ばれているなか、60歳定年を迎えた7~8割は定年以降も働くのが多数派。高齢者の就業率は「65~69歳」が50.8%、「70~74歳」が33.5%なので、60歳定年以降は70歳前後まで働くというのが一般的といえる状況です。
このことから、将来受け取る年金について考えてみます。大学卒業後ずっと平均給与を手にする、極めて平均的なサラリーマンであり続けたと仮定しましょう。60歳定年で現役を引退し、その5年後に年金を受け取ると、老齢厚生年金は11.4万円。併給の老齢基礎年金と合わせると18.2万円になります。
【年齢別・大卒サラリーマンの平均給与】
20~24歳:24.3万円(356.2万円)
25~29歳:28.3万円(474.0万円)
30~34歳:32.6万円(549.4万円)
35~39歳:37.9万円(645.5万円)
40~44歳:42.4万円(704.2万円)
45~49歳:46.7万円(774.5万円)
50~54歳:50.6万円(839.7万円)
55~59歳:53.2万円(879.1万円)
60~64歳:44.9万円(690.1万円)
※数値、左より月収(年収)
さらに定年後も働くのが多数派。なかでも、再雇用によって契約社員や嘱託社員といった非正規社員として継続勤務するのが多数派。では60歳以降も非正規社員として平均給与を手にし、保険料を払っていたなら、年金はどうなるのか……老齢厚生年金は12.9万円と、1万5,000円ほどアップ。これが定年後も5年間働いた成果です。
65歳以上も働いて年金額増か、年金の受取りを我慢して年金額増か
65歳以降も非正規社員を続けて働いたとした場合を考えてみましょう。
さらに1年、66歳まで働いた場合、厚生年金は13.2万円と、3,000円アップ。
さらに1年、67歳まで働いた場合、厚生年金は13.5万円と、3,000円アップ。
さらに1年、68歳まで働いた場合、厚生年金は13.8万円と、3,000円アップ。
さらに1年、69歳まで働いた場合、厚生年金は14.1万円と、3,000円アップ。
さらに1年、70歳まで働いた場合、厚生年金は14.4万円と、3,000円アップ。
70歳まで働くと、65歳で受け取る年金よりも月1万5,000円ほど多い計算。これが65歳からさらに5年間働く成果です。
さらに年金受取額を増やす方法としてよく知られているのは、「年金の繰下げ受給」。これは原則65歳から受け取れる年金を、66~75歳の希望するタイミングで受取り開始とする制度で、1ヵ月受取りを遅らせるごとに0.7%ずつ年金額がアップ。70歳で42%、75歳で受取り開始となれば84%と、受取額が約2倍にもなるものです。
65歳で年金19.7万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金)。70歳まで働いて年金額を増やすと21.2万円に。年金の受取りを70歳まで我慢して年金額を増やすと28.0万円。
――なんと、そんなに増えるのか!
年金は2ヵ月に一度、2ヵ月分が振込みされます。年金振込日には56万円ものお金が振り込まれるのですから、歓喜の声を上げずにはいられません。しかし実際の振込額をみたら、もう一度衝撃を受けるはず。
――なんと、こんなに引かれるのか!
年金は雑所得。課税対象です。現役の頃、給与明細をみるたびに「えっ、何かの間違いでは?」「こんなに天引きされるんだ……」と目を疑ったり、何度も肩を落としたり、そんな経験はあるでしょう。しかも給与が増えれば増えるほど、天引き額に理不尽さを覚える。これは年金を受け取るようになってからも同じなのです。
住んでいる地域などにより天引き額は異なりますが、65歳での手取り率(額面に対する手取り額の割合)は85%ほどですが、70歳まで繰り下げた場合は、それよりも3~4%ほど手取り率は低下。ため息はさらに深まるはずです。
もちろん、手取り率が低下したからといって、手取り額が増えているのは確か。ただ現役時代同様に「納得がいかない……」という気持ちになるのがイヤなら、安易に繰下げ受給は選ばないほうがいいかもしれません。
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