米国の債務は37兆ドル(5300兆円)。経済の屋台骨を失い、社会秩序は崩壊、迷走を続ける超大国にこんな借金を返せるはずがない――。結局、トランプは口だけ。世界にはそんな疑念も広がっている。選挙戦で約束した「バラ色の未来」は早くも色褪せた。その先にある地獄。
米国の借金はもはや持続不可能だ
米ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏が見通す米国経済の先行きは、極めて悲観的だ。IMF(国際通貨基金)やFRB(米連邦準備制度理事会)でエコノミストとしても活躍した経済学の泰斗は、このままではドルの暴落が避けられないと予想する。ロゴフ氏が本誌の取材に答えた。
「トランプ政権が意図的にドルへの信頼を失わせることでドル安を狙っている可能性もありますが、政権全体の無能さを考えると、彼らは単に自分たちが何をしているのかわかっていないのではないかと思います。
私は5月に刊行した『Our Dollar, Your Problem』(私たちのドル、あなたたちの問題=未邦訳)で、基軸通貨としてのドルの歴史と、ドル衰退のリスク要因を分析しました。ドルに対する最大の脅威は米国内から生じています。米国の政府債務はGDP比で120%を超えて膨張しており、長期金利の上昇が国家財政を圧迫しているのです」
米国の政府債務残高、すなわち米政府の借金は37兆ドル(5300兆円)に迫っている(上記グラフ参照)。天文学的な金額の負債を抱え、さらに借金を重ねるような財政が持続可能なはずはない。市場でも疑念は膨らんでいる。
実際、大手格付け会社「ムーディーズ・レーティングス」は先月、財政赤字などを理由に米国債の格下げに踏み切った。その後、10年物の米国債の価格は下落し、利回りは4.63%まで上昇。今も金利は高止まりの状態にある。
ロゴフ氏が続ける。
「財政赤字や税制改革、トランプ政権による政治介入によってFRBの独立性も脅かされており、これはドルに対する世界の信認を損なうおそれがあります。トランプ政権の関税政策や(ロシアへの)金融制裁によっても、ドルへの信頼が揺らいでいて、ドル下落のリスクも急増しています。これらの現象が『現代のニクソン・ショック』のような衝撃を招く可能性があります。拙著では5〜7年以内にドル危機が起こると書きましたが、この数ヵ月間のトランプ政権を観察してきた今となっては、今後4年間でドルの暴落が起こると予想しています」
トランプ減税の恒久化でインフレ再燃
世界の覇権国家として、基軸通貨ドルをほしいままに操ってきた超大国アメリカ。経済の専門家の目から見ると、その退潮は明らかだという。
一番の原因はやはり米国の財政問題だと、国際金融アナリストでRPテック代表の倉都康行氏は指摘する。
「トランプ大統領が看板政策に位置づける減税法案、いわゆる『一つの大きく美しい法案』が米下院で可決され、財政問題に注目が集まっています。同法案が上院でも可決され、トランプ減税が恒久化されれば、財政赤字が急激に膨らむ。マーケットもようやくそれを認知し始め、米国の長期国債が売られて、利回りが急上昇しました。
トランプ減税の恒久化は、関税の引き上げと政府支出の削減を財源とすることが前提でしたが、どちらもうまくいっていません。財政の裏付けがないまま、7月にも減税法案が成立すれば、国債暴落につながりかねません」
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