来年5月26日、改正戸籍法が施行される。
これに伴い、全国民が戸籍に「振り仮名」を登録する義務が発生する。それまでは戸籍に振り仮名の概念が存在しなかったが、ここに来てようやく読み方を明確にしようという動きが実現した。
しかし、これは日本史に刻まれる大規模な作業でもある。何しろ全国民が、必ず届け出なければならないのだから。
この改正戸籍法により、自分の名前が「間違った読み方で登録されてしまった」ということは発生し得るのだろうか?
僕の名前は「さわだ・まさかず」
改正戸籍法とそれに伴う振り仮名の登録について、筆者澤田真一は去年10月に@DIMEで記事を書いた。
「澤田真一」の読み方は「さわだ・まさかず」である。しかし、筆者と初対面の人は必ず「さわだ・しんいち」と読んでしまう。筆者は10代の頃に格闘技の全国大会に2度出場したことがあるが、エントリー用紙には「さわだ・まさかず」と書いたにもかかわらず2度とも「さわだ・しんいち選手」になっていた。振り仮名をつけても、この有様である。
ということは、此度の振り仮名登録の際に「さわだ・まさかず」と書いたとしても、結局は「さわだ・しんいち」と間違えられてしまうのではないか? そんな不満を抱えていたら、上述の記事を読んだ東京新聞の安藤恭子記者が声をかけてくれた。その後、電話取材に臨んだが、実際に話したことは自分の名前のせいで損をしたという愚痴だったと記憶している。そんな静岡の野郎の愚痴を長時間聞いてくれた安藤記者には大感謝!
それはともかく、筆者は来年に迫る振り仮名登録に関して今でも不安を持っている。
自宅に通知が届く仕組み
東京新聞の記事には、筆者の発言として「これほど重大な変更を、多くの国民が知らないのは広報不足。よほど厳しいチェック体制がないと、また間違えられるのではないか」とあるが、そう言ったのは紛れもない事実だ。
取材からおよそ1年が経過した今、そのあたりのチェック体制についてどこまで具体策が設けられているのか。とりあえず、法務省の公式サイトから見ていこう。
(2)本籍地の市長村長による氏名の振り仮名の記載
(ア)本籍地の市町村長からの通知
本籍地の市町村長が戸籍に氏名の振り仮名を記載する前提として、戸籍に記載される予定の氏名の振り仮名等を認識する機会を確保することとしています。
具体的には、住民票において市町村が事務処理の用に供するため便宜上保有する情報等を参考に、本籍地の市町村長から皆様に、氏名の振り仮名に関する情報を通知することとしています。
この通知は、改正法の施行日(令和7年5月頃を予定)から遅滞なく送付することとしています。
(イ)市町村長による氏名の振り仮名の記載
(1)の届出がなかった場合には、本籍地の市町村長が管轄法務局長等の許可を得て、改正法の施行日(令和7年5月頃を予定)から1年を経過した日に、氏名の振り仮名を戸籍に記載します。
この方法により、本籍地の市町村長が氏名の振り仮名を戸籍に記載する場合、(ア)で通知した氏名の振り仮名を記載することを予定しています。
(法務省公式サイトより。下線は筆者)
つまり、改正戸籍法の施行日に合わせて本籍地の自治体から「この振り仮名で間違いないですか?」という内容の通知が家に届くということだ。
そして、施行日から1年経過し、なおかつその間に振り仮名の届け出が本人からなかった場合、通知に記載の振り仮名が登録される仕組みである。
「氏」は戸籍筆頭者が届け出
対象者が能動的に振り仮名を届け出る場合、市区町村窓口(本籍地または住所地等)での届け出、郵送による届け出、そしてマイナポータルを使ったオンラインでの届け出も可能としている。
注意したいのは、「名については各人が届け出ることができるが、氏については原則として戸籍の筆頭者が届け出をする」という点。
たとえば「高田一郎たかだ・いちろう」さんとその息子の「高田太郎たかだ・たろう」さんの場合、太郎さんは自身の名である「たろう」を自分で届け出ることができるが、「たかだ」については基本的に父親である一郎さんが決定するというルールである。
「一般に認められているものでない読み方」とは?
が、筆者が特に知りたいのは「最終チェックの方法」である。
通知や届け出を経て、本当に「澤田真一」を「さわだ・まさかず」として登録できたのか確認しなければならない。これについては、法務省公式サイトからは明確な答えは確認できなかった。
また、「よくあるご質問」の回答にはこうある。
この際、氏名の振り仮名について、氏名の読み方として一般に認められているものでない読み方を用いている場合は、「読み方が通用していることを証する書面」として、当該読み方が使われていることを示す資料(パスポート、預貯金通帳、健康保険証等)を併せてご提出いただくことになります。
(法務省公式サイトより)
こ、これは実に曖昧な回答だ! 「真一」と書いて「まさかず」は「一般に認められているものでない読み方」になってしまうのか!?
ただ、この部分はよく読んでみると法務省が例を挙げている。「高」を「ひくし」、「太郎」を「じろう、さぶろう」、または「太郎」を「ジョージ、マイケル」などと読む例である。それに比べたら、「真一=まさかず」はまだ「一般に認められている名前」のはず。
振り仮名登録の大きな意義
振り仮名登録の義務化は、行政の効率化・DX化を進める上で避けて通れない過程であることはここで明言しておきたい。
「中島」という名前が「なかじま」なのか「なかしま」なのか(筆者の高校時代の先輩に“なかしま”さんがいた)、「剛」が「たけし」なのか「つよし」なのか「ごう」なのかを戸籍で判別できなければ、人名検索にも支障が出てしまう。そうした点を明確化する作業は、遅かれ早かれ避けて通れない道だったのだ。
問題は、国の広報である。振り仮名登録までの一連の流れを分かりやすく、広く国民に伝達できるか否かが、日本史上最大級の事業の進捗状況を左右するだろう。
【参考】
戸籍に振り仮名が記載されます-法務省公式サイト
「キラキラネーム」来年から規制? 改正戸籍法で新たに「基準」 氏名の振り仮名を巡りトラブル多発の予感-東京新聞
取材・文/澤田真一
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