ロシアの国営原子力企業であるロスアトムは極東地域に退役後置かれていたソビエト連邦(ソ連)時代の原子力潜水艦(原潜)82隻の解体が完了したと発表しました。この潜水艦解体に実は2023年まで日本が関わっていました。
ようやく極東地域の原潜の解体が完了!
ロシアの国営原子力企業であるロスアトムが2024年9月17日、極東地域に退役後置かれていたソビエト連邦(ソ連)時代の原子力潜水艦(原潜)について、全82隻の解体が完了したと発表しました。
解体のためタグボートで曳かれるノベンバー型原子力潜水艦K-159 (画像:ベローナ財団 )。
ロシア極東に残っていたこれら退役原潜に関して我が国も他人事ではなく、あまり知られてはいませんが、2023年11月にロシア側がウクライナ侵略に伴う日露関係の悪化に伴って核廃棄協定を一方的に破棄するまで、日本としても深く関与していました。
1991年のソ連崩壊により、同国太平洋艦隊の拠点となっていたウラジオストク近郊およびカムチャッカ半島には、退役した原潜が原子炉未処理のまま、大量に係留されるようになりました。一説によると、ソ連崩壊により、ロシア海軍の軍事力は10分の1程度に縮小されたといわれており、極東地域にはこの時点で既に41隻の原潜が放射能漏れの危険性がある状態で放置されていたといいます。
とはいえ、それら軍事力の大半を引き継いだロシアも、安全な状態で解体する資金的余裕などありませんでした。だからか、ロシア海軍は1993年4月、原潜から生じたとみられる大量の放射性物質を内容も量も隠したままウラジオストク南東約200kmの日本海に投棄するという行動にでたのです。
環境破壊されるよりはマシ
このときは日本が抗議したことで、ロシアは再投棄の中止を発表したものの、今後の投棄に関しての可能性は否定しませんでした。事態を重く見た日本は、1993年10月にロシアの核兵器や原子力潜水艦の廃棄・解体を日本が支援する協定を締結します。
放射性物質を放棄した当事国に協力するということで批判もありましたが、艦内に残された核物質が不法に持ち出され、テロリストの手に渡る可能性や、このまま日本海が汚され続けることは好ましくないため、安全保障や環境保全などの観点から日本はこの問題に積極的に関わることになり、前述したとおり、この協定は30年後の2023年まで続きます。
老朽化した船体で浮かぶロシアの多目的原潜「クズバス」(画像:ロシア国防省)。
この非核化協力支援の最初の事業として、まず日本政府は洋上での液体放射性廃棄物処理施設の役割を果たす浮体構造型の洋上施設「すずらん」の供与を決定します。この施設は1996年に建設が開始され、1998年4月に完成。その後、ロシア政府が必要な自国内の調整や試運転などを行い、2001年11月にようやくロシアに対して引き渡されています。
世界的なプロジェクトで解体が進行していくことに
その後、2002年カナダのカナナスキスで行われたサミットでG8により「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」が結ばれます。その一環として、極東地域の退役原潜解体事業に日本のほか、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国などが費用を拠出し、ロシア側の自助努力を促しつつ国際協力をするという方針が打ち出されました。
この合意の一環として、日本はヴィクターI型やヴィクターIII型などの原潜6隻の解体に協力します。この事業は「希望の星」と命名され、2003年12月から2009年12月まで行われました。
その後は、ロシアの経済的な立ち直りなどもあり、潜水艦の解体も順調に進み、2015年6月には1999年から旧ソ連やロシアの退役潜水艦201隻の解体を担当していたロスアトムの重役が国営メディアのタス通信の取材に「過去のように潜水艦が処分のために列をなすことがないようにすることに成功した」と発言するまでになっています。
こうして、軌道に乗った原潜の解体事業は、急速なスピードで行われるようになり、今回の発表に至ったといえるでしょう。ただ今日のような状態になるには、日本や諸外国の資金援助や協力が必要不可欠だったことは間違いありません。
2016年末に退役ではなく改修後に復帰したと言われる旧ソ連時代に建造されたデルタ型原子力潜水艦「リャザン」(画像:ロシア国防省)。
しかし、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻により、日本をはじめとしてアメリカやイギリス、ドイツなど、いわゆる西側の主要国はロシアに対して経済制裁を行っている状況です。そのため、今後退役する原潜の解体がスムーズにいくかは不透明です。
【了】
コメント