実は、足は体のなかでも最も酷使されている部位。近頃は人生100年時代といわれているが、「足」の耐用年数は“50年程度”という衝撃の事実が……。
すでに耐用年数までのカウントダウンは始まっている。この後のメンテナンスが、バリバリ働きつづけられるか、楽しく生きられるかの分かれ道である。
ということで、その秘訣について日本でも数少ない足専門病院の院長・菊地守先生に伺った。
話しを聞いたのはこの人!
菊池守さん●日本初の足の総合病院「下北沢病院」院長。日本形成外科学会認定。形成外科専門医。トータル3万足以上を診察し、日本ではまだなじみの薄い足病学の普及ににも尽力。著書に『100歳までスタスタ歩ける足のつくり方』(アスコム)など著書多数。
何気なく歩いている足の寿命、実は50年って本当?
ーー足の耐用年数が50年とは、衝撃です。足にも寿命があるのですか?
足には思った以上の負担がかかっていて、歩くときは体重の2~3倍、走るときは約5倍の負担が足にかかるといわれています。地面にたたきつける部位なので、もっとも壊れやすい場所でもあります。
ケアしないで放っておくと、足のだるさや冷え・むくみ・外反母趾や関節痛など、次々と足の悩みが出てきます。足に悩みがあると歩くのが億劫になり、ますます足を大切にしない傾向が強くなっていきます。
そして「足寿命が尽きる」=「歩けなくなる」と、日常生活の質が一気に落ち、さまざまな病気を引き起こす原因ともなります。逆にいえば、歩けるだけで、寝たきりやうつ病、認知症、骨粗しょう症メタボリックシンドロームなど、さまざまな疾患の予防にもなるのです。
あなたは大丈夫? 足寿命チェックリスト
□歩くとすぐに足がだるくなる
□足に冷えがある
□靴のかかとの内側がすり減っている
□巻き爪になっている、爪が変形している
□足にむくみがある
□外反母趾がある
□長く歩くと指の関節がこすれて痛い
□足の指にしびれがある
□足よく転ぶ、つまずく
□足指でぐーぱーできない
□足を揃えてしゃがむと、かかとが浮いたり後ろに転ぶ
□土踏まずがなく、足裏全体が地面につく
□第二指(親指の隣)の付け根や親指の裏にタコがある
□床やフローリングをはだしで歩くと痛い
□足がよくつる
・チェックの数が0~3個の人
チェック数0個の人は問題がないが、1~3個の人はすでに症状が徐々に出ている可能性が。今すぐケアを始めよう!
・チェックの数が4~6個の人
すでに黄色信号。これを機会に足に関心を向けましょう。
・チェックの数が7~9個の人
半数近い症状にあてはまる人は、すぐに足のケアに取り組むのがおすすめ。早速、下記に紹介する運動など、できることから始めよう。
チェックの数が10個以上の人
トラブルが多いので、将来足寿命がくる可能性が。しかし何歳からでも足を蘇らせることは可能なので、今すぐケアを始めたい!
足の寿命とは「歩けなくなること」
ーー足にはどんなトラブルがあるのでしょうか?
むくみや巻き爪、関節痛、タコやウオノメなど、何らかの症状を感じる人は多いものですが、「そのうち治るだろう」と軽視されがちなのが足なんです。
こういった身近な足のトラブルも、「足寿命」が短くなっているサインである可能性もあります。足がだるい、冷え・むくみ、巻き爪程度と侮らず、ケアをすることが必要です。
ーー足が耐用年数を超えるとどんな弊害が生まれるのですか?
足も、心臓や胃腸などと同じ臓器のひとつ、と考えてみてください。暴飲暴食すると内臓が疲れるように、足にもさまざまな疲れが溜まっていきます。
また歩くたびに足には、体重60kgの人であれば、左右の足それぞれに100kgを越える負荷がかかっています。さらには、合わない革靴やハイヒールなどで、より足を締め付けている人もいます。
「足寿命」とは、両足にかかる体重を均等に保てるかどうか、バランスがとれるかどうかにかかっています。ところが加齢などによって関節や筋肉、じん帯などが弱ってくると、足の裏のバランスがとれなくのです。
負荷が溜まっていく状態が続くと、巻き爪やタコもできやすくなり、負荷がどんどん増えることに。こうして足のバランスが崩れだすと、無理な負担がかかり続け、ついには歩行困難になってしまうケースも多いのです。「足の寿命」を迎えると「歩けなくなる」と覚えておきましょう。
足をケアすることは病気だけでなく、脳や精神の改善にも役立つ
ーー自分でできる足の観察の仕方は? また、病院に行くべきタイミングを教えてください。
まずは、自分の足をじっくり観察してみることから始めましょう。タコやウオノメはないか、乾燥してガサガサでないか、変な色をしていたり、むくんでいるなどの異常がないかどうか、お風呂の中などでじっくりチェックします。
何か異変がある場合は、自己判断で済ませず、医療機関に行くことがおすすめです。足のタコや痛み、むくみ程度であっても、後々なんらかの重病につながることもあります。
「足病医」にいけば、重篤な症状になる前の段階で判明し、的確な治療を受け、早期に治療できることもあります。アメリカではもうかなり定着している「足病医」の存在を、日本でも知っておいて損はないでしょう。
ーー自分でも日常生活のなかでできる、足の元気を保つ簡単なケアはありますか?
足を若返らせるためには、「足首の柔らかさ」「土ふまずの形」「足裏の筋力」、この3点を改善させるのが大切です。
足首とふくらはぎの柔らかさを取り戻すなら、「ふくらはぎのばし」がおすすめ。壁に両手をついて、ひざを曲げずにふくらはぎを伸ばすだけです。
土ふまずの形を改善するには、「足裏運動」が良いでしょう。椅子に座り、足の裏を床につけ、かかとと小指を床につけたまま、足首を倒すようにして親指側を浮かせます。最後に小指で床を吐くように内側へと床をこすります。左右とも10秒×10回ほどおこなうといいでしょう。
足裏の筋力をアップさせるには、足裏運動が簡単です。椅子に座り、足を床につけたら、かかとはつけたまま、足指を5本とも大きく上に反らせます。次に親指だけを下ろし、足裏の力は抜かないまま、残りの4本の指をおろします。
最後に、床をつかむように足裏のアーチに力を入れ、指を5本とも下に曲げ、つま先を持ち上げます。両足共に5回ずつ行うといいでしょう。これだけおこなっても、実質3分くらいなので、気楽に始められると思いますよ。
ーー足を診れば糖尿病の兆候がわかる、といいますが、病気の予防にもなりますか?
群馬県の中之条という町で、15年以上にわたっておこなわれた「中之条研究」によると、健康を維持・増進するためには、1日平均8000歩以上歩くことが理想的、との結果が報告されています。
4000歩でうつ病の予防に効果が、5000歩では、認知症や脳卒中、心疾患などに効果が出るとされています。7000歩以上でがんや動脈硬化、骨粗しょう症にも効果が認められ、8000歩では降雨血圧症のほか、糖尿病、脂質異常症、メタボにも効果が報告されています。
歩行は全身運動であり、体が鍛えられるだけでなく、脳の働きを活性化させ、精神のケアにもつながります。だからこそ、歩けなくなることは、全身の健康状態を悪化させることにつながると覚えておきましょう。
上記で紹介した軽い足の運動など、今から簡単にできることはたくさんあるので、まずは足に関心を向けることから、始めていきましょう。
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まだ日本では認知度の低い「足病医」だが、菊地先生のクリニックでは、現在では検査も3カ月待ちの大人気だそう。足へのぞんざいな意識を、ちょっとだけ変えてみることは、将来生活のクオリティへの保険となるかもしれない。
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