「介護難民400万人」時代へ…親の介護と自分の老後に追い詰められる「就職氷河期世代」 | きばいやんせ!鹿児島

「介護難民400万人」時代へ…親の介護と自分の老後に追い詰められる「就職氷河期世代」

非正規雇用から抜け出せないまま、老いた親の介護を担い、自分自身の老後も迫ってくる――。介護難民が懸念される日本で、就職氷河期世代が直面する厳しい現実とは

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介護難民400万人時代がやってくる――。

戦後のベビーブームにより、約806万人という人口ボリュームで誕生した団塊世代(1947~49年生まれ)が2025年、75歳以上の「後期高齢者」になった。

「老老介護」「ヤングケアラー」などの問題が取り上げられ、最近では、働きながら介護する「ビジネスケアラー」の問題も注目される。家族や自分が介護を必要になったら、いったいどうなるのか。2000年から介護保険制度が始まったが、いざという時に必要な介護が受けられるのだろうか。(「はじめに」より)

「介護難民400万人時代」がやってくる

『介護難民400万人時代 2040年 日本型“超高齢社会”の末路』(小林美希 著、朝日新書)の冒頭にはこう書かれている。

現在、団塊世代は約566万人。そして2040年には同世代を含む要介護(要支援)者認定のピークが訪れ、合計で最大988万人が要介護(要支援)になるとも予想されている。

『介護難民400万人時代』

問題は、そうなると現在より約57万人も多い介護職が必要とされることだ。相当な数だが、現実問題としてその数を埋めるためのメドは立たない。本書では、こうした介護人材の不足などを背景に、2040年には「介護難民」が400万人規模に達する可能性を指摘している。

だが、そういった現実を人ごとではなく、自分自身の問題として実感することは難しい。

だからこそ、本書の前半で紹介されている、家族を介護している人へのインタビューは参考になるかもしれない。親の介護、夫婦の介護、あるいはさまざまな在宅介護など、そこで描かれる現実はいずれも生々しい。

なかでも印象に残ったのは、親の介護を続ける「氷河期世代」の男性のケースだった。

もしかしたら氷河期世代のことは、上記の団塊世代などとくらべるとクローズアップされる機会が少ないのかもしれない。しかし当然ながら、非正規雇用から抜け出せないまま親の介護を担わなければならない人はいるのだ。

そして今後、こうしたケースが増えていくことが懸念される。

親の介護で抜け出せない「就職氷河期」

就職氷河期世代の池本晴彦さん(仮名、56歳)は、大学進学を機に親元を離れていたが、今は九州の実家で暮らしている。非正規雇用が長く続き、安定した仕事に就きたいと思いながらも、親の世話をしながらの非正規雇用脱却は困難を極めている。(55ページより)

高校卒業後は出身県外の国立大に通ったが、大学を卒業した1993年はバブル崩壊後の「就職氷河期」が始まっていた時期。それでも新卒採用で小売業の企業に正社員として就職し、30歳になる前にスーパーの店長を務めたという。

ところが、職場環境は厳しく、1日12時間労働は当たり前。そればかりか、米や餅など重い商品の陳列作業で腰を痛めた。残業代も出なかったが、「店長だけが正社員」という状況下では休むこともできなかったそうだ。

結局、身体を壊して退職し、30代半ばからは非正規雇用のまま両親と暮らすことに。非正規雇用の仕事は3〜5年を上限に契約を打ち切られることが多く、晴彦さんは職場を転々とせざるを得ない状況が続いた。

そもそも、地元で正社員の求人があったとしても「月給15万円程度で退職金もなし」というような条件のものばかり。都会に出ればまた違うのかもしれないが、80代の両親も弱っているため、実家から通える範囲でしか探すことができなかったという。

しかも晴彦さん自身の収入は、両親の年金収入を下回る状態だった。

現在、晴彦さんは市役所で非正規の「会計年度任用職員」として働く。9時から16時15分まで。一般事務で庶務や雑用が多く、日給で約7000円。年収では約250万円となる。(56〜57ページより)

4年前の年末には父親が身体の痛みを訴え、総合病院の医師から「すぐに入院するように」と言われた。余命わずかというほど、肺が悪くなっていたのだった。「このまま死なせてくれ」と訴える父親は延命治療も、胃に管を通して栄養をとる「胃ろう」を作ることも拒否する。

痛みや恐怖からか暴れたり、治療や世話を拒絶する言動も見られたが、晴彦さんは「自分が同じ立場だったら、そうしただろう」と思えてならなかったそうだ。

「生きていること自体がリスク」

92歳だった父親は、入院から2カ月足らずで亡くなった。最期には、母親のことを「頼むぞ」と晴彦さんに言い残したという。

父親の死から半月ほど経ったころには母親が体調不良を訴え、救急搬送されて心臓のカテーテル手術を受けた。その際は介護休暇を使って5日間、母親に付き添った。親の介護は、晴彦さんの仕事にも直接影響するようになった。

手術は成功し、入院中に介護申請を行うと母親は要介護1に認定された。以後は仕事を休み、本格的な介護ではないものの家事や母親の世話をする日々が続いた。

親の介護を意識し始めた晴彦さんは、母親の要介護度が上がった時のことを考えると、どういう生活になるのか心配で仕方がない。母親に何かあったり、自分が急に体調を崩したりすることが怖い。その時に有給休暇が残っているかどうか。有給休暇を使い切って欠勤になれば、その分、収入が減ってしまう。(60ページより)

しかも晴彦さん自身も、10年足らずで65歳を迎える。とはいえ自分の老後まで考える余裕はない。年金の受給額は、月10万円ほどの見通しだそうだ。

「とにかく、明日どうなるかが心配です。生きていること自体がリスクとしか思えないのです。年金だって今後もっと減るかもしれない。姥捨て山の時代に戻ってしまうのではないか。年金はどんどん受給額が減っていくだけ。介護疲れによる殺人のニュースが度々報道されますが、誰かが助けてくれるような社会ではない。自分だってどうなることか。日々を過ごすのが精いっぱいで先のことなんて考えられない。死んだほうが楽としか思えないです」(60〜61ページより)

親の介護によって働き方が制約され、安定した収入を得られない。その一方で、自分自身の老後も刻々と近づいてくる。晴彦さんのケースは、親の介護と自らの高齢化が重なり始める就職氷河期世代が、これから直面し得る問題を浮き彫りにしている。

『介護難民400万人時代』

『介護難民400万人時代 2040年 日本型“超高齢社会”の末路』

小林美希 著
朝日新書

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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』(辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

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