「売買・贈与・寄付」が成り立たないうえに、共有名義といったワケありの「負動産」は、相続時にトラブルとなりがちです。これらを終活として手放すには、どんな方法があるのでしょうか。相続問題や不動産トラブルにくわしい行政書士・平田康人氏が、実践的な視点から解説・アドバイスします。
姉と「共有名義」となっている土地に困り果て…
「あの過疎地の土地を、一体どうしたら…」
そういって頭を抱えるのは、東京都に暮らす会社員の伊藤雅則さん(仮名・57歳)です。雅則さんは、姉と「共有名義」となっている土地に困り果てているのです。
発端は、雅則さんの父親でした。生前、中部地方で材木店を営んでいた父親が、実家から離れた土地を資材置き場として、知り合いから購入したのでした。
急な話だったこと、また知り合い自身が現金化を急いでいた事情もあり、購入資金は長年家業の経理を手伝ってきた長女(雅則さんの姉)と出し合うこととし、共有名義としました。
しかし、そんな父親も8年前に死去。いまでは家業も廃業し、要らなくなった資材置き場の土地は、雅則さんと姉が共有名義で所有しています。
共有持分割合は雅則さんが1/4、姉が3/4、です。もともと、父と姉が1/2ずつ持っていましたが、父の相続で亡き父の持分を均等に相続した結果、現在の持分割合になりました。
「私は東京が生活拠点で、姉も結婚していて自宅があります。家業がなくなった以上、この土地は不要なのです。駅までははるか遠く、バス停すらない二束三文の土地…。周辺も空き地や空き家が目立っている通り、売却はおろか、無償で譲ろうにも需要はほとんどないと思います…」
雅則さんはうつむきます。
「こんなお荷物、捨ててしまいたい。一体どうすればいいのか…」
困った雅則さんが知人に相談したところ、このような土地を手放す方法として「相続土地国庫帰属制度」の存在を教えてくれました。
ただし、土地は共有名義で、雅則さんが相続で取得したのは持分1/4のみです。また、姉については相続等だけで土地を取得したわけではありません。
「私たちは〈相続土地国庫帰属制度〉を利用することができるのでしょうか…?」
「相続土地国庫帰属制度」が制定された背景
相続土地国庫帰属制度は、日本各地で増え続ける所有者不明土地の発生予防の観点から制定されたものですが、その背景には、「“意に反して相続した不要な土地”を手放したい」というニーズの高まりがあります。
「遠くに住んでいて利用する予定がない」
「土地は持っているだけでも費用負担が大きい」
「放置すると近隣の迷惑になるため管理に手間がかかる」
「原則、土地は捨てる(放棄する)ことができない」
「次の相続でも、相続人が不要な土地だけを放棄することはできない」
といった状態が続くと、やがて所有者の管理疲れにより、土地が管理されないまま放置され、将来、所有者不明の土地が大量に発生することが懸念されます。
また、国や自治体にとっても、所有者不明の使えない土地が増えることは大きな問題になります。なぜなら、国や自治体が公共事業(道路建設等)を行う場合に、所有者調査に費用等の負担や手間がかかるからです。
そこで、国が「使えない土地を相続して困る相続人」から土地を引き取って管理することで相続人の負担を減らすとともに、将来の公共的な利活用にも備えられるようにするべく、相続土地国庫帰属制度が制定されました。
今回の相談者である雅則さんが姉が所有する土地についても、2人が共同申請することを条件とすれば、「相続土地国庫帰属申請」の承認申請権者となる要件を満たすことになるため、「相続土地国庫帰属制度」を利用することができます(後述の〈例④〉を参照)。
以下、くわしく見ていきましょう。
相続土地国庫帰属制度を「利用できる人」の要件
相続土地国庫帰属法では、相続土地の国庫帰属承認申請を行うことができる者は、原則「相続」または「相続人に対する遺贈により土地の所有権を取得した人(相続人)」に限定されます(法第2条第1項)。
土地を手放したいと考える人のうち、相続をきっかけとしてやむを得ず土地を取得するに至った人については、積極的な土地利用の意向やその土地からの受益もないにもかかわらず、処分もできないまま仕方なく所有し続けている場合が挙げられます。
また、遺贈については、受遺者(遺贈を受ける人)が「相続人か、相続人以外か」に分けて考えられています。遺言による贈与である遺贈においては、受遺者は遺言者が死亡したのち、いつでも遺贈の放棄をすることができます。
逆にいえば、相続人以外で遺贈を受け入れた人(遺贈の放棄をしなかった人)は、「自らの意思で当該土地の所有権を欲した人」と推測されるため、当該受遺者にまで本制度の承認申請を認める必要性は低いと考えられ、本制度の承認申請者からは外れています。
一方で遺贈を受けた相続人は、遺贈の放棄を行ったとしても、相続放棄をしなければ、相続人としての地位に基づき、当該土地を相続する可能性があります。そこで、相続人については、相続を原因とするケースだけでなく、遺贈を原因とする土地の取得のケースについても申請できるものとしています。
承認申請が可能なケース
では、具体的にどのようなケースの人が、承認申請できるのでしょうか? 所有形態を単独所有と共有に分けて見てみましょう。
◆単独所有の場合
〈例①〉相続等により所有権の「全部」を取得
土地を単独所有する父親から、長男が相続により土地全部を取得した場合、長男は承認申請者になれる。
〈例②〉相続等により所有権の「一部」を取得
土地を単独所有する父親から、長男と長女が持分1/2ずつで共同購入したのち、長男が死亡し、長男の持分(1/2)を相続により長女が取得した場合、長女は承認申請者になれる。
長女が所有する持分1/2は自ら売買で取得しているが、他の持分1/2は相続により取得しているため、相続で取得したとみなす。
◆共有の場合
〈例③〉相続等により共有持分の「全部」を取得した共有者
土地を単独所有する父親が死亡し、長男と長女が共同相続により土地を取得した場合、長男と長女は共同申請を条件に承認申請者になれる。なお、帰属承認申請に共有者全員が合意する必要がある。
〈例④〉相続等により共有持分の「一部」を取得した共有者
友人(第三者)から父親と長男が土地を共同購入し、持分1/2ずつ共有。その後、父親が死亡し、父親の持分1/2を長男と長女が均等に相続した場合、長男と長女は共同申請を条件に承認申請者になれる。
長男は持分3/4のうち1/4を、長女は持分1/4を、いずれも相続で取得しているため。なお、帰属承認申請に共有者全員が合意する必要がある。
〈例⑤〉相続以外の原因により共有持分を取得した共有者
友人(第三者)から父親と法人A社が土地を共同購入し、持分1/2ずつ共有。その後、父親が死亡し、父親の持分1/2を長男が相続した場合、長男と法人A社は共同申請を条件に承認申請者になれる。
長男の持分1/2は相続で取得しているため、相続で取得したとみなす。なお、帰属承認申請に共有者全員が合意する必要がある。
以上の例①~⑤からわかるように、土地所有権の全部または一部に、相続等を取得原因とする所有者または共有者が存在し、全員が合意・申請することが要件となっています。
相続登記がされていない場合の申請
相続等で土地の所有権を取得した相続人名義へと相続登記が完了していればベストですが、相続登記が未了でも承認申請は可能です。その場合、申請時に以下の「相続人であることを証する書面」を添付する必要があります。
〈相続人であることを証する書面〉
・亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍全部事項証明書、除籍謄本または改製原戸籍
・亡くなった方の本籍地の記載がある除かれた住民票または戸籍の附票
・相続人の戸籍一部事項証明書
・相続人の住民票または戸籍の附票
・遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書を含む)承認申請者たる地位を承継した場合の手続き
本制度の承認申請から負担金納付までの間に、申請土地の所有権の全部または一部を取得した者は、その取得の日から60日以内に限り管轄法務局長に申し出て、承認申請者の地位を承継することができます(規第12条第1項)。承継の原因として、相続等を原因とした包括承継、売買等を原因とした特定承継のいずれでも地位の承継は可能です。
承継の方法は、所定の届出書と添付書類(本制度の承継者に該当することを証する書面)を期限内に提出することによって行われます。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
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