プーチン大統領は53兆円もの国有資産を失うのか? 没収には国際法上の懸念も

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ロシア軍のミサイル攻撃で破壊されたウクライナの首都キーウにある同国最大の小児病院「オフマディト」。2024年7月8日撮影(Oleksandr Gusev/Global Images Ukraine via Getty Images)

英国、フランス、ドイツの首脳は10日、凍結されたロシアの国有資産をウクライナ軍への財政支援に活用することで合意した。三カ国は共同声明で、ロシア軍のウクライナに対する攻撃の激化と同国の社会基盤の標的化を非難した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナとの和平交渉を引き延ばし続ける中、三カ国はロシアへの圧力を強めると宣言した。凍結資産の活用は、ロシアが最終的に和平交渉の席に着くことを促すための圧力手段の1つとなることを意図している。三カ国の合意は、ウクライナ侵攻における重要な転換点だ。西側諸国はついに和平交渉を巡るプーチン大統領の空虚な約束を見抜いたことになる。

凍結資産の規模が大きいことから、プーチン大統領にとっては大きな賭けとなる。昨年2月時点で、欧州連合(EU)と主要7カ国(G7)によって凍結されたロシアの国有資産の総額は約2600億ユーロ(約46兆円)と推定され、全世界で凍結された同国の資産の価値は3000億ユーロ(約53兆円)近くに上る。うち、EUで凍結された同国の資産の額は推定で2100億ユーロ(約37兆円)に上り、英国は270億ポンド(約5兆円)を超えるロシア資産を凍結した。これまでのところ、資産から生じた利益と利息のみがウクライナ支援に充てられており、元本には手が付けられていない。

欧州の首脳は先週、デンマークの首都コペンハーゲンで会合を開き、凍結されたロシア資産1400億ユーロ(約25兆円)をウクライナへの融資に充てる可能性を協議した。この提案は大きな支持を得ており、今月23~24日にかけて開催される欧州理事会会合で引き続き議論される予定だ。

だが、懸念は残っている。国際法上、主権国家の資産は没収できないからだ。国有資産が凍結された場合、ロシアはその資産を利用できなくなるが、所有権は保持したままとなる。他方で、同国は国際法に従い、侵略戦争によって生じた損害に対する賠償を行わなければならない。これを基に、凍結から押収への移行が議論されているのだ。ロシアの侵略戦争によって生じた損害額は、既に凍結資産の額を大幅に上回っている。

各国がロシアの国有資産の差し押さえと転用を検討する中、複数の市民団体がEUに対し、凍結資産の一部をロシアによる人権侵害の被害者への賠償に充てるよう要請している。ウクライナ侵攻に伴う性的暴力や拉致、拷問などの重大な人権侵害の被害者らは、侵攻開始から3年以上が経過した今もなお、正義の実現を待ち続けている。正義とは、刑事責任の追及に向けた努力だけを指すものではない。賠償請求は国際法上、被害者に認められた権利だ。被害者が生活を再建できるよう、賠償金が確実に支払われる最善の方法を探ることが極めて重要だ。

各種市民団体は共同声明で、「凍結されたロシアの国有資産を担保とした1400億ユーロのウクライナ向け融資が検討されている中、EUはこの資産を活用して新たな手法を模索し、資金の一部を重大な人権侵害や人道法違反の被害者支援に充てるべきだ」と要求。「この賠償金のわずか2%に当たる28億ユーロ(約4900億円)を国内賠償計画に充てるだけで、人々の生活は一変するだろう。この大胆な一歩は欧州の指導力と法の支配への確固たる姿勢を示し、EUの力を強化するものとなるだろう」と訴えた。

各団体は、緊急支援を必要とするすべての被害者への賠償金支給に資金を充てるよう求めている。これにはウクライナ侵攻に関連する性暴力被害者への支援や行方不明者の家族の名誉回復と補償、拷問をはじめとする重大な人権侵害被害者の社会復帰支援などが含まれる。これらの団体は、加害者の資産を被害者への損害賠償に充てる司法制度を欧州が先駆けて確立する歴史的機会だと強調した。

ウクライナ侵攻を開始してからの3年間、プーチン大統領が3000億ユーロもの国有資産を失うリスクにこれほど近づいたことはなかった。同大統領が瀬戸際に立っている今、ウクライナ侵攻を終結させるためにロシアが和平交渉の席に着くことが期待される。

forbes.com 原文

Dr. Ewelina U. Ochab | Contributor

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