424ページという分厚さ、2,585円という高価格帯ながら、シリーズ計40万部を超えるベストセラーとなり、大きな話題を呼んだ『1日1話、読めば心が熱くなる365人の教科書』シリーズ。このたび、その最新刊が3年ぶりに発売されることとなった。本書に収録される「読めば心が熱くなる話」を担当編集者が紹介してくれた。
制作期間は、じつに「まる3年」…!
今回も校正をしながら何度、目頭を熱くしたか分からない。時に我が子を思いやる母親の情愛に、時に不可能といわれた事業に挑み、それを成し遂げた先人に、時に戦地から書き送られた恋文の内容に……。
人間とはかくも優しく、強く生きられるものなのだろうかと感嘆し、我が身を省みさせられる、そんな話が次々と押し寄せてくる感じだった。
11月下旬に発刊される『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』(藤尾秀昭・監修/致知出版社)は、シリーズ40万部を超えるベストセラーとなった『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』に続く第3弾の最新刊である。
創刊から47年の歴史を持つ月刊誌『致知』の1万本以上に及ぶ歴史の中から、書名の通り、「読めば心が熱くなる話」だけを365篇、精選したものだ。同シリーズを何度も読み返している読者も多く、第3弾刊行の要望が数多く寄せられていたこともあり、このたび本書刊行の運びとなった。
制作期間は、まる3年。『致知』の創刊から編集に携わる主幹をはじめ、編集部の総力を挙げて記事の選定に当たった。『致知』が1978(昭和53)年の創刊以来、探究し続けてきた「人間学=人間性を高める学び」というテーマのもと、経営者、作家、スポーツ指導者、脳科学者、宇宙飛行士……などなど、職業のジャンルや年齢、立場を問わないラインナップで、幅広い読者層の人間力アップに役立つ内容となっている。
本書にはどのような話が収録されるのか。以下に2篇を紹介したい。
バレーボール日本一を達成できた秘訣
1つ目は、高校女子バレー界の名将・国分秀男氏。かつてバレー不毛の地と言われた東北地方で、地区予選すら勝ち上がることのできなかった古川商業高校(現・古川学園)の女子バレーボール部監督に就任し、全国制覇12回という偉業を成し遂げた伝説の名監督である。そんな国分氏が、強い組織や名将の共通点を語っている。
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日本一になる条件は、自分がまず日本一の監督になることだと思います。ある時までは、すごいプレー、難しいプレーができるチームが優勝するものだと思っていましたが、それは思い違いでした。全国大会の前夜には必ず監督懇親会が開催されるんですね。
47都道府県の代表チームの監督が一堂に会して、6つか7つのテーブルに分かれて懇談をするのですが、不思議なことに優勝を争う強いチームの監督は奥へ、1回戦で負けるチームの監督は入り口に近い席に座るんです。これは年齢に関係なく、自然とそうなる。不思議なものです。
別に席が決まっているわけじゃない、会費も同じ。人生は一度しかないんだから、この機会を逃してはならないと思い、まだ無名の頃から奥のテーブルについて名監督たちが大会前夜にどんな話をされるのか、ビールをつぎながらじっと耳を傾けました。
ただ、そこでしていたのは、いわゆる普通の話なんですよ。名監督といえどもそんなに高尚な話をしているわけではない。つまり、自分とほとんど同じ人間だと実感したのです。
しかし一方で、小さなこと、そんなことはやろうと思えば誰でもできる、ということに対しては非常に厳しいんだなという印象を持ちました。例えば、ボールをとる時はコート内で選手同士がぶつからないように大きな声を出すとか、旅館のスリッパは揃えて脱ぐとか、誰でもやれる当たり前のことを徹底してやらせる。それはテレビの取材があろうが、何万人の観客が入っていようが、いついかなる時でも確実にやらせるのです。
「そうか、すごいプレーができるチームが日本一になるんじゃない。小さなことを確実にできるチームが日本一なんだ」と学びました。鍵山秀三郎氏(イエローハット創業者)がおっしゃる「凡事徹底」は日本一達成の秘訣でもあります。この2つが分かった時、自分も絶対に日本一になれると確信しました。
そして1979年、国体で念願の日本一になりました。この時は嬉しかったねぇ。もう自分の上には誰もいない。この感覚は日本一になった者しか分からないでしょう。これまでの努力が報われた、俺もよくやったと多少有頂天になりました。
ところが、です。ここが私の幸運なところですが、1か月後くらいに司馬遼太郎の『項羽と劉邦』という本に巡り合いました。貴族出身で能力の高い項羽と、農民出身の劉邦が覇権を争うわけですが、最初は圧倒的に項羽が優勢で、中国領土をほぼ手中に収めながらも、結局は劉邦に敗れてしまう。項羽が自刃して物語は終わるのですが、最後の一文はこうでした。
「項羽、時に31歳であった」
項羽は一時的にせよ、31歳で日本の何十倍も広い中国領土を制覇した。それから4年も遅れてこの狭い日本を1回制覇したくらいで何を自惚れているんだと、金槌で頭をカキーンと殴られたような思いがしました。
人間は「苦痛」に敬礼する
続いて紹介するのは、昭和の文壇に多大な影響を与えた評論家・小林秀雄氏の実妹で、劇作家の高見澤潤子氏。「知の巨人」と称された人物の意外な実像が語られている。
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評論家の佐古純一郎さんが、河出書房で編集に携わっていた時、仕事で、旅館にこもっている兄(小林秀雄)の姿に接しました。兄は佐古さんが来られることなど知らなかったのでしょう。四つんばいになって、その座敷をはいまわっていたそうです。それほどに、苦しんで、苦しんで、厳しく仕事していたのです。
「喜びといっても、苦しくなければ喜びなんてありません。学問する人はそれを知っています。嬉しい嬉しいで学問をしている人はいない。困難があるから面白いのです。やさしいことはすぐつまらなくなります。そういうように人間の精神はできているのです。だから子供の喜びとは違うのです。喜びというものは、あなたの心の中から湧き上がるのです」
これは、兄が全国の大学生、300~400名を集めての思想研修で5回講演したその1つで、講演後の質疑応答の一部です。いまの人は苦しむことを嫌がります。苦しみの尊さなど考えもしません。苦しみが喜びになる経験などしようともしないでしょう。しかし、兄はこうもいいました。
「苦痛が人間を浄化する時、人間は苦痛に敬礼する。此の敬礼こそ人間の歓喜である」
強い精神は、苦痛を苦痛として忠実に経験していきます。そして、その苦痛が決して無駄ではなく、却って成長させてくれたことを知って、喜ぶのです。苦しみに負けてはいけません。苦しみに勝つ強い精神を持たなくてはいけません。信仰を持つ者は、たいてい苦痛を感謝して受け入れる精神を持つことができます。兄は、このような言葉がいえる、大きな魂に対する信仰を持っていたともいえます。この苦痛に対する姿勢は、私たちが日常生活で味わうさまざまな体験についても同じことがいえます。
『カラマアゾフの兄弟』の中で、ドストエフスキーを評して、体験ということを語っています。
「彼は、何も彼も体験から得た。生活で骨までしゃぶった人のする経験、人生が売ってくれるものを踏み倒したり、値切ったりしなかった人のする経験、自己防衛術を少しも知らず、何ごとにものめりこめた人のする経験、さういふものから自分は、何も彼も得たのだ、さういふ彼の声が、書簡の何処からでも聞へる」
経験は大事です。私たちは経験によって人間ができていき、精神もゆたかに成長していきます。しかし、その経験の仕方で、その深さがぐっと違ってきます。
たいていの人は、その経験がいいかげんで、打算的で、自己防衛的で楽なことばかり望んでしていますから、せっかくの経験は貧しく弱く、自分を成長させるところまでいきません。本当の経験になっていないことが多いのです。私は、このドストエフスキーの経験のことを述べた兄の文章に、そのまま兄の姿を見るような気がします。
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書籍1ページ分の僅かな分量ではあるが、そこには一人ひとりの人間たちの熱いドラマが詰まっている。読めば心が熱くなり、今日一日を生きるエネルギーが湧いてくるはずだ。


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