中国が切った「レアアース」というカード 日本企業への影響を読む世界を読み解くニュース・サロン | きばいやんせ!鹿児島

中国が切った「レアアース」というカード 日本企業への影響を読む世界を読み解くニュース・サロン

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本連載は、国際情勢やビジネス動向を深掘り、グローバルな課題とそれが企業に与える影響を分析する。米中関係やテクノロジー業界の変動、地政学的リスクに焦点を当て、複雑な要素を多角的に捉えながら、現代社会の重要な問題を分析。読者にとって成功への洞察を提供していく。

 2026年に入ってから、日本企業を取り巻く日中関係は、さらに一段と緊張感を増している。

 日本企業にとって、日中関係の先行きに暗雲が垂れ込める直接のきっかけとなったのが、2025年10月に誕生した高市早苗首相の国会での発言だった。11月7日の国会答弁で、台湾有事が「存立危機」になり得ると述べたことに対し、中国政府が強く反発した。軍事的に集団的自衛権を行使し得る可能性にまで踏み込んだ発言と受け止められたためだ。

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日中関係が緊張感を増し、日本企業への影響が懸念される(画像提供:ゲッティイメージズ)

 この発言を受け、中国は段階的に対抗措置を強めていく。まず、国内の旅行会社に日本への渡航自粛を求めるとともに、水産品の輸入停止措置を打ち出した。いずれも日本企業のビジネスに直接影響する動きだった。その後も発言が撤回されない中、2026年1月6日、中国はさらに踏み込んだ措置に出る。

 中国政府は「商務部公告 2026年第1号」を発表し、ハイテク製品の製造に欠かせないレアアース(希土類)の対日輸出を制限する方針を示したのだ。専門家の中には「レアアースの輸出規制までは踏み込まないのではないか」という見方もあったが、中国は結果として、日本企業のサプライチェーンを直撃するカードを切ってきた形だ。

 この措置は、日本企業の事業活動に深刻な影響を及ぼす可能性が高い。レアアースは自動車、半導体、電子部品など、日本の基幹産業に広く使われている。調達が滞れば、生産計画やコスト構造そのものが揺らぎかねない。

中国のレアアースが規制されると何が起きるか

 日本企業の間では、中国がどこまで規制を強化するのか読み切れない状況が続いていた。こうした中、外務省関係者は筆者の取材に対し、次のように語っている。

 「高市首相の発言以降、中国の外交部を中心に反発は続くと考えていたが、旧正月(春節)以降には、中国側の言動はある程度落ち着くだろうと見ていた。それだけに事実上のレアアース規制まで行うとは思わなかった」

 実際、すでに影響は出始めている。筆者が知る、レアアース関連の輸入に携わる事業者によると、中国からの輸出には早くも規制が行われているようだ。

 野村総合研究所の試算では「レアアースが本格的に輸出規制されれば、3カ月で6600億円の経済損失」になるという。サプライチェーンでの調達が滞ることで特に影響を受けるのが、自動車や半導体など日本にとって重要な産業分野である。規制強化が続けば続くほど、日本企業がネガティブな影響を受けることは間違いない。


レアアースが本格的に規制されると、重要な産業に影響が及びかねない(画像提供:ゲッティイメージズ)

 もっとも、中国による対日レアアース規制は初めてではない。2010年、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を受け、中国は日本向けレアアース輸出を事実上制限した。このとき、日本企業は深刻な影響を受けた。

 当時を振り返ると、中国による輸出規制によって、ネオジムやジスプロシウムといった主要レアアースの国内価格は約1年で10倍近くに高騰した。自動車産業では、コストが数千億円規模で上昇したとの推計もある。今回の規制も長引けば、同様の事態が再び起きかねない。

 当時は、日本企業が調達先の見直しを迫られると同時に、日本政府もレアアース確保対策として総額約1000億円規模の予算を計上した。調達先の多角化や、廃棄された電気機器から磁石を回収するリサイクル事業などが進められた。

中国依存度を下げる取り組みも進む

 その後、日本企業と政府は、レアアースの中国依存度を下げる取り組みを継続してきた。南鳥島沖に眠る大規模なレアアース泥の開発や、オーストラリア企業のライナス・レアアースとの提携がその一例だ。総合商社の双日は2025年10月、オーストラリアで採掘されたレアアースの輸入を開始したと発表している。

 2025年10月の日米首脳会談の後には、レアアースの日米共同開発の枠組みなどを確立し、重要鉱物を確保することで合意した。2026年1月からは、地球深部探査船「ちきゅう」が水深6000メートルの海底から、レアアース泥の試掘を始める予定だ。ただ、本格的な商業採掘までには、まだ1年ほどかかると見られている。

 レアアースを外交カードとして使う中国に対し、日本企業が取れる選択肢は限られる。米国や欧州などと手を組み、別の供給源の確保などを進めて対抗していくしかない。とにかく中国依存から脱却できなければ、日本企業は安定した事業計画を描けなくなる。


中国はレアアースを外交カードとして使う。日本企業は中国依存からの脱却が求められる(画像提供:ゲッティイメージズ)

 現在、中国は高市首相の発言撤回を求め、経済・ビジネス面での圧力を強めている。ただ、拳を振り上げた中国側にとっても、それをいつ、どのように下ろすかは難しい判断だ。「商務部公告 2026年第1号」では、明確に「レアアース」を名指ししていない曖昧な表現となっており、中国政府の裁量次第で規制の強度を調整できる余地が残されている。

 こうした中、日本国内で浮上した衆議院の解散総選挙という政治日程そのものが、企業にとっては不確実要因となっている。一方、日中関係を事実上リセットする契機になる可能性も否定できない。

 国の基盤は経済であり、それを支えているのは民間企業だ。日本企業の事業環境を守ることは、結果として国益にもつながる。政権には、選挙を通じて国民の信任を得た上で、企業活動への影響を見据えた戦略的な対中政策が求められている。

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