高市早苗政権下で日経平均株価は史上最高値の5万4000円を突破しました。この活況は「高市トレード」とも呼ばれ、政権が掲げる危機管理投資などに期待感が高まったことが一因として挙げられます。総選挙で今後の見通しは不透明ですが、高市トレードはいつまで続くのでしょうか。
前編記事『【日本株】サンリオ、三菱重工ほか…「高市トレード銘柄」は本当に買いか?知らないと大損する「意外なリスク」』より続けて解説します。
株高を持続させるのは税制(投資促進)×企業改革(資本効率)
高市政権の株価対策は短期的な需要喚起に留まりません。税制面の改革と企業の資本政策見直しという、中長期に株価上昇を支える仕組み作りにも力点を置いています。
例えば設備投資に対する税額控除や特別償却の拡充、人材育成費用の損金算入拡大などが取り沙汰されています。これらが実現すれば、企業の手取り現金が増加し、その分、設備投資と株主還元の双方に資金を回せる余力が生まれることになります。潤沢な手元資金を持つ企業ほど、新規事業への挑戦と増配・自社株買いを両立しやすくなり、結果として成長期待も株主リターンも高まって株価上昇につながるという好循環が期待できます。
さらに、東京証券取引所が進める「資本コストや株価を意識した経営」への改革圧力も追い風です。東証は近年、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回るような企業に対し、資本効率改善や経営戦略の再点検を求めるなど上場企業への要請を強めています。高市政権下でもこの流れは継続・加速し、企業と投資家の対話(エンゲージメント)が活発化している状況です。
多くの日本企業が不要な内部留保の圧縮や、収益性向上策の検討に動き始めました。その結果、企業全体のROE(自己資本利益率)やPBRが改善し、市場全体の評価水準(バリュエーション)が底上げされる土台が整いつつあります。いわば、「政策テーマで短期的に買われる相場」から「構造的なリレーティング(評価額の切り上がり)による株高」への移行を目指すものと言えるでしょう。
もっとも、重要なのはやはり「バランス」です。企業が株主還元ばかり偏重してしまうと、本来必要な成長投資が細ってしまい、中長期的な企業価値向上にブレーキがかかりかねません。市場参加者も、目先の還元額だけでなく「資本政策の一貫性」を厳しく見ています。
今年だけ記念的に増配しても翌年に減配しては評価されませんし、むやみに自社株買いを連発して財務を脆弱化させることも歓迎されません。重要なのは、企業が自社の事業環境と成長機会を見極め、余剰資金があるなら適切に投資し、それでも残る分は株主に返すという筋の通った資本配分戦略を示すことです。
高市政権の掲げる投資促進税制も、「減税分をちゃんと将来に活きる投資に回す企業」ほど恩恵が大きくなる設計にする必要があります。ただ節税のために不要不急の設備を買ったり、手元資金が増えたからと安易に配当を積み増したりするだけでは、一過性の株価上昇に留まってしまうでしょう。ここまで見てきたように、高市政権は財政・金融・産業政策を総動員して株高基調を維持しようとしていますが、それが実を結ぶかどうかは企業側の動きにもかかっているのです。
“高市トレード”が崩れるサイン
以上、高市政権の政策ドライバーと株価上昇の関係を分析してきました。最後に、現在進行中の“高市トレード”が今後崩れる可能性を示すサインについて整理します。マーケットは常に期待と不安の綱引きです。高市相場に乗る投資家も、次のような兆候が見られた場合は注意が必要でしょう。
1つ目は「財源の不透明化」に伴う長期金利の急変です。
高市政権の看板である積極財政に市場が不安を抱くのは、それに見合う財源確保策が見えないときです。仮に防衛費増や危機管理投資の拡大路線に対し、与党内外で増税論と反対論が衝突して結論が先送りされたりすれば、国債増発リスクが意識され長期金利が急上昇する可能性があります。
長期金利が2%台半ばを超えて上昇基調を強めれば、株式のバリュエーションは相対的に見劣りし始め、せっかくのEPS増加効果も相殺されかねません。10年国債利回りは26年1月20日時点で2.337%と直近20年でも高水準にありますが、物価上昇率との対比ではまだ許容範囲内とも言われます。しかし、円安が行き過ぎてインフレ懸念→金利上昇→株安という負の連鎖が国外投資家に意識される局面になれば、一斉に日本株から利益確定売りに転じるリスクが高まります。財政拡大の“値段”である金利動向から目を離さないことが肝要です。
2つ目は「エネルギー・規制変更が急で、企業の見通しが割れる」状況です。
政策の予見可能性が落ちると、企業経営者は将来計画を立てづらくなり、設備投資や雇用拡大に慎重になります。その結果、市場参加者も企業業績予想をレンジ幅広く取らざるを得ず、株価評価を引き下げます。高市政権のエネルギー政策や規制緩和策があまりに拙速だと、恩恵を受ける企業と被る企業がはっきり分かれてしまい、投資家目線では銘柄ごとの値動きが読みづらくなるでしょう。
「勝ち組」にマーケットの資金が集中しすぎれば指数は一見高くとも裾野は狭い相場になり、何かの拍子に「たった数銘柄に振り回されるまやかしの株高」が露呈しかねません。実際、直近の日本株高でも値上がり銘柄数は東証プライム全体の7割程度に留まり、全面高とは言えない状況でした。持続的な強気相場には幅広いセクターの参加が必要であり、政策のメリハリが利きすぎるとそれが損なわれる恐れがあります。
KPIがないとテーマ株は息切れする
3つ目は「危機管理投資の成果が見えず、テーマ株が息切れする」場合です。
政府が大号令をかけて巨額の資金を投じても、その効果が数年経っても不明となれば、市場の幻滅を招きます。とりわけ個人投資家はテーマ株への短期資金移動が速い傾向があり、「高市銘柄」を巡る思惑先行で株価だけ上がったものの業績が伴わないと分かれば、一斉に退散してしまうでしょう。
上述のとおり、高市政権の政策の多くは中長期的な日本経済強化を目的としていますが、市場は常に「次の決算」「来期業績」を注視しています。危機管理投資や戦略分野支援の成果が企業収益に結びつくまでタイムラグがあるにせよ、その進捗KPI(例えば○○分野で国内生産能力△%向上、など)が適宜示されないと市場の忍耐は続きません。テーマ株が業績裏付けのないまま加熱した後に息切れする現象は過去何度も見られたパターンです。高市相場も例外ではなく、政策効果が見えないままではやがて失速してしまうでしょう。
以上3点に加えて、選挙というイベントリスクにも触れておきます。衆院解散・総選挙の結果次第では、高市政権が盤石になるか否かで市場の反応は変わり得ます。現時点で高支持率を誇るとはいえ、自民党が単独過半数を大きく上回るかどうかは不透明です。すでに市場は相当程度、将来の積極財政政策を織り込んできたとの見方もあり、「さらなる円安・株高・債券安の余地はそれほど大きくないのではないか」との冷静な分析も聞かれます。投資家としては舞い上がることなく、高市トレード相場の行方を見極める必要があるでしょう。
結論として、高市政権の政策群は日本株に多面的な追い風をもたらしていますが、そのロジックを正しく理解し、兆しを冷静に見極めることが重要です。新NISA時代にあって実利を追求する個人投資家も、「今がいちばん安い」という押せ押せムードに流されるのではなく、政策の恩恵を真に受ける企業はどこか、マーケットの期待と不安はどこにあるかを注視することで、中長期的な投資成果につなげていきたいものです。
幸い、高市政権の掲げる政策テーマは防衛・先端技術からエネルギー・税制まで幅広く、日本経済の構造強化につながる可能性を秘めています。“期待先行”から“成果本位”へ――これからの相場はまさに政策と企業業績の真価が試されるステージに入っていくでしょう。


コメント