“香り系”芋焼酎の新たな製造技術 鹿児島大学が発見「麹づくりの時間を短くしたらどうなる…?」純粋な好奇心から新発見に | きばいやんせ!鹿児島

“香り系”芋焼酎の新たな製造技術 鹿児島大学が発見「麹づくりの時間を短くしたらどうなる…?」純粋な好奇心から新発見に

近年、バナナやライチ、青リンゴのような華やかな香りを持つ「香り系」と呼ばれる芋焼酎が、若い世代や都市部を中心に人気を集めている。

バナナやライチなどの香りがするといっても、もちろん果汁や香料を加えているわけではない。

“未完成の麹”を使ったらどうなる?常識を疑う“好奇心”

芋焼酎の製造において、味や香りの土台となるのが「麹(こうじ)づくり=製麹」だ。通常、蒸した米に種麹菌を接種し、温度や湿度を管理しながら約43時間かけて「出麹(でこうじ)」と呼ばれる完成状態まで育てる。


鹿児島大学の定例記者会見(9月24日)で発表する髙峯和則教授

業界では古くから「しっかりとした良い麹を作ることが、良い酒質につながる」というのが常識だった。

髙峯教授らは「製麹時間を短縮した麹で焼酎を仕込んだらどうなるのか?」と純粋な好奇心から疑問を抱いたという。

使ったのは“完成品”の「出麹(でこうじ)」になる前の麹だ。


左から「盛り麹(19時間)」、「仲仕事麹(23時間)」、「仕舞仕事麹(27時間)」、「出麴(43時間)」

髙峯教授らのグループは、第1段階の「盛り麹(もりこうじ・19時間)」、第2段階の「仲仕事麹(なかしごとこうじ・23時間)」、第3段階の「仕舞仕事麹(しまいしごとこうじ・27時間)」という、いわば“未完成”の短い時間で引き上げた麹を用いて芋焼酎を仕込んでみた。

すると、いま市場で大注目の「香り系焼酎」が誕生してしまったのだ。

科学が解き明かす「フルーティーな香り」のメカニズム

なぜ、麹を育てる時間を短くすると、果物のような香りが強くなるのか。

その秘密は「酵素」と「アミノ酸」の働きにある。

麹の酵素には、でんぷんを糖に変えるだけでなく、原料のタンパク質を分解するものもある。
製麹を19時間で止めた「盛り麹」は、通常の43時間培養した「出麹」と比較して、このタンパク質を分解する酵素の働きが弱く、発酵中の「もろみ」に含まれるアミノ酸の濃度も低く抑えられることがわかった。

この「アミノ酸が少ない環境」が、酵母による香り成分の生成プロセスに変化をもたらし、フルーティーな香りの元になる成分を多く作っていた。

研究室で、麹米140グラム、サツマイモ700グラムでの実験を行い分析した結果、「盛り麹(19時間)」を用いた芋焼酎では、バナナを思わせる香り成分「酢酸イソアミル」が1リットル当たり6.6ミリグラムとなり、通常の「出麹(43時間)」の2.4ミリグラムと比較して約2.8倍に増加していることが実証された。

他にも、未完成の麹を使ったもののほうが、バラやフルーツのような香りを持つ「酢酸フェネチル」や、ブドウのような香りを持つ「カプリン酸エチル」なども増加していることが確認された。

14人による官能評価=人の感覚を用いた評価でも、盛り麹や仲仕事麹を使った焼酎で、バナナやリンゴのような香りが強く感じられる傾向があったという。

酒蔵での実用化試験と今後の課題

研究は実験室にとどまらず、酒蔵でも行われた。日本酒造組合中央会と薩摩酒造の協力のもと、薩摩酒造の明治蔵で、麹米60キロ、サツマイモ300キロを使った大規模な試験を実施した。

ただし、実際の焼酎造りに近い規模で行うこの実験では課題もあった。短時間で作った麹は酵素の働きが弱いため、発酵が緩やかになってしまうという。そのため今回の実規模試験では、糖化などを助ける酵素剤を補って検証が行われた。

結果として、腐造することなく発酵は無事に進み、アルコール濃度は通常と同程度に達した。

現場の職人ら12人によるブラインドテストでも、盛り麹や仲仕事麹でつくった焼酎には「フルーティー」「花のよう」「バナナやライチ」といった評価が寄せられ、実際の製造現場でも通用する技術であることが証明された。

「香り系」を入り口に、焼酎文化の飛躍を

麹の製造時間だけで香り系が再現できる――。

今回の発見で、大掛かりな設備を持たない蔵でも香り系焼酎に挑戦しやすくなる可能性があり、鹿児島の焼酎のバリエーションがさらに広がることが期待されるという。

しかし、髙峯教授が見据えているのは、単に華やかな香りの焼酎が増えることだけではない。
髙峯教授は、「本来はやっぱり、従来のタイプの焼酎が売れるべきだとは思います」と前置きした上で、次のように語った。

「今は、“香り系”にスポットライトが当たっていて、従来の芋焼酎に…特に都会の人はあまり目を向けてくれなくなっています。

芋焼酎というものを忘れさせないためには、こういった香り系があるべきだなと思っています。香り系が入り口になって、“昔からの芋焼酎も飲んでみよう”という気持ちになってもらえたら、鹿児島の焼酎の飛躍につながると思いますね」

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鹿児島大学が発見した新技術は、焼酎の多様性を生み出すだけでなく、鹿児島の焼酎全体の需要を再び押し上げ、焼酎文化を未来へつなぐための“架け橋”になると期待されている。

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【論文情報】 本研究成果は、食品科学やバイオテクノロジーに関する国際学術誌『Food Bioscience』に掲載された。
論文タイトル: Koji maturation dynamics regulate enzymatic activity, amino acid metabolism, and aroma formation across fermentation in imo-shochu 著者: Zhu, H., Yoshizaki, Y., Watanabe, M., Anan, Y., Futagami, T., Tamaki, H., & Takamine, K. (2026).

本格焼酎には水以外の添加が法律で認められておらず、これまでメーカーは、サツマイモの品種を変えたり、特殊な酵母を用いて低温発酵させたりと、発酵の力だけで香りを引き出すために高度な工夫を凝らしてきた。
そんな中、鹿児島大学農学部附属 焼酎・発酵学教育研究センターの髙峯和則教授らの研究チームが、これまでの焼酎づくりの常識を覆す新たな「香り系」製造技術を発見し、9月24日の記者会見で発表した。

開発のきっかけは、「麹をつくる時間を短縮したらどうなるのか」という研究者の“純粋な好奇心”だったという。

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