「肝腎要」の腎臓。実はいろいろな働きを持っています。だから、カナメなのです。連載の第1回で血液から尿を濾過する機能について触れ、第3回では尿細管という濾過の後の再吸収を行う部分について少しお話しさせていただきました。私たち腎臓内科医が冬に遭遇する疾患は多岐に渡り、腎機能障害の他に肺炎、腎盂腎炎などの感染症や透析にまつわるトラブルなどさまざまですが、その中の一つに「高血圧症」があります。

腎臓のセンサー「マクラデンサ」=イメージ
◇血圧上昇の冬、料理に注意
一般的に血圧は冬に上がります。気温が低いと、体は体温を維持するために皮膚の表面にある細い血管を収縮させ、熱を逃さないようにします。そうすると血管抵抗が上昇し、心臓はより高い圧力で血液を送り出す必要があります。そのために血圧は上がるのです。
また冬になるとおいしい煮込み料理や鍋、汁物料理も増えますので、塩分摂取量も増えます。汗をかく量も減りますので、腎臓が頑張って塩分を排せつしなければ体から出ていく塩分量も減ってしまいます。腎臓が大丈夫だから塩分をたくさん取っていい、というわけではなく、高塩分食はそれだけで高血圧を引き起こし、最終的には動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳梗塞、そして腎不全の原因になります。
◇心臓はポンプ、腎臓は蛇口
血圧というと、心臓をイメージする方が多いと思います。もちろん、心臓がポンプの役割をして体の隅々まで血液を送るので、心機能が弱っている方は血圧も下がり、反対に心機能がしっかりと保たれており、血液の量が多い(=塩分摂取量が多い)方は血圧も高くなります。
心臓はポンプの役割で血液を全身に送る重要な臓器ですが、腎臓はどちらかというとその血液の量を調整する蛇口のような臓器だと思っていただければよいかと思います。
摂取した塩分が多ければ糸球体でろ過した原尿から塩分を再吸収せずに、そのまま捨ててしまうことによって血液の中の塩分量を減らします。反対に真夏の暑い中で脱水状態や塩分が足りない状況であれば、原尿からできるだけ水分や塩分を再吸収して捨てないようにします。
腎臓はこのように、ナトリウムなどのイオンや水分の量を感知して血液に余分にあるものを尿の中に捨て、血液の中で不足しているものを再吸収して血液に戻す作業をしています。このように腎臓の活躍により、血圧は調整されています。
◇マクラデンサというセンサー
腎臓の尿細管にはいろいろなセンサーがありますが、糸球体から出ていった原尿が解剖学的にもう一度糸球体に接するマクラデンサという部分があります(図参照)。ここでは糸球体からろ過された原尿に含まれる塩分を感知して、体が脱水状態にあるか、そうでないかを感知します。もし体が脱水状態にあると感知した場合、尿をたくさん出してしまうと脱水が進んでしまうので糸球体の入り口である輸入細動脈を狭くして、濾過される尿量を少なくするように調節します。最近では、このマクラデンサに流れる塩分を調整して腎臓を守るSGLT2阻害薬という薬が発売されており、慢性腎臓病にも、慢性心不全にも効果があることが証明されたため、多くの患者さんがその恩恵に預かれるようになりました。
血圧が高くなり過ぎて、糸球体の細い血管の壁が壊れてしまうと、血液の通り道が詰まってしまい、尿をうまくろ過することができなくなり、このマクラデンサにたどり着く尿や塩分が少なくなることがあります。すると、マクラデンサにおいて、「血圧が高い」のにも関わらず「血圧が低い」と誤って判断されてしまい、血圧を上げるレニンというホルモンをどんどん出してしまい、血圧が上昇する悪循環に入ってしまいます。このような病態を「悪性高血圧」と言います。これを放っておくと命に関わる状態ですので、緊急で入院治療が必要になります。
◇悪性高血圧
悪性というとがんのような病気を想像して心配になる方が多いと思いますが、実際にはがんよりも緊急性が高い、速やかに治療が必要な重篤な疾患です。どのような病気か、というと血圧が上がり過ぎて、高血圧脳症や急性心不全、急性腎不全、大動脈解離など、さまざまな臓器障害を伴う病態です。私たち腎臓内科医はこのような高い血圧で特に臓器障害を伴う場合は緊急入院をお勧めしています。なぜかと言うと、この程度まで上昇してしまった血圧は飲み薬で改善しない場合も多く、また放置すると臓器障害が進展して重篤な状態になってしまい、場合によっては命に関わるからです。
◇改定高血圧ガイドラインから
2025年8月に「高血圧治療ガイドライン」が改定されました。このガイドラインでは、全年齢、全患者さんで降圧目標が「診察室で最高130未満」「家庭血圧で最高125未満」となり、今までよりさらにしっかりと血圧を下げることの重要性が示されています。「最高140、最低90以上」の数字を記録した方は高血圧と診断されますが、意外と放置している方が多いのではないでしょうか? 思い当たる方は早めにかかりつけの先生に診てもらってください。
◇高血圧は「沈黙の殺し屋」
高血圧は「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれており、症状がないまま動脈硬化や臓器障害を進行させ、気が付いた時には手遅れ、という事も十分にあります。かかりつけの先生や健康診断で「少し血圧が高いですね」と言われている方はぜひとも食生活から見直していただき、塩分摂取量が多くないか確認してください。例えば、味噌汁には一杯でも1〜1.5グラムの塩分が含まれており、食事のたびに味噌汁を召し上がる方はそれだけで3〜4.5グラムの塩分を摂取している計算になります。推奨塩分摂取量は1日6グラムまでとなりますので、かなり多い量であることが分かります。
漬物や塩辛など保存食品が好きな方もこれら保存食品には塩分が多く含まれているため、要注意です。特に冬においしい煮込み料理や汁物料理にはご用心を。(了)

松本 啓(まつもと・けい)
東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科医師。2002年、同大学卒業。大学院時代から横尾隆教授に師事し、腎臓再生医療の研究に没頭。現在は腎炎、生活習慣病(特に糖尿病、肥満症、高血圧症)、透析医療、腎移植などを中心に臨床と研究を行う。医学生や大学院生の教育にも力を入れる。主な資格は腎臓専門医、透析専門医、再生医療認定医など。


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