放置して数カ月もたつと空き家はどうなるでしょうか(写真:kker/PIXTA)
不動産業者と銀行は、あなたの人生に何の興味もありません。
なけなしの貯蓄を吸い取られないために、ぜひ自分ファーストで家を選びましょう。全国の不動産売買の現場を歩きつくした不動産評論家が、人生100年時代の不動産の選び方を伝授します。
不動産事業プロデューサー・牧野知弘氏の著書『50歳からの不動産-不動産屋と銀行に煽られないために』より一部抜粋、編集してお届けします。
田舎の家は売れない
地方出身の方の多くが、親の実家の扱いで苦労されています。自分は都市部の小さなマンション住まい。ところが親の家はとにかく広い。広い家に母親が1人で住んでいるなどというケースが多いものです。
母親も歳をとってくると子としても心配が増えます。火事を起こすのではないか、戸締まりができずに泥棒に入られるのではないか、家の中で転んだりしないかなど心配の種は尽きません。
1つの解決策としては、親を呼んで同居し、実家を片付けることが考えられますが、多くの場合、母親が頑としていうことを聞いてくれません。
同じエリアで長く住んで人間関係もでき上がっているので、今更都会に出るなんてまっぴらだ。あるいは、妻が、夫が義理の母親との同居を望まない。核家族が当たり前になると、そもそも同居の選択肢がありません。
多くの家庭では、最終的には残された母親が亡くなるまで、実家をどうするかについては「触れないでおこう」になります。
先に記した心配ごとについては、最近はカメラによる見守りやAIなどによる行動監視、報告機能などが発達してきたので、そうした文明の利器を頼りに問題先送りを図ります。
それでも親の死はいつかはやってきます。もはや自分もきょうだいもこの家を使うあてはありません。田舎であれば借りてくれる人もいそうにない。ならば売るかというのが合理的な考え方ですが、最初にバリアーとなるのが、近所の目線です。
親が亡くなってすぐに売ると、ご近所から、
「あの娘、親が死んだらさっさと家を売ろう、だなんて、親が草葉の陰で泣いているよ」
などと陰口をたたかれます。
親戚が近所にまだ住んでいるケースも多く、なかなか売却に踏み切れずにだらだらと持ち続けるのです。たまに親戚へのあいさつなどで帰省して墓参りをしたときの宿泊用に使う、などという人が多いのも、こうした理由からです。
しかし、いくら持ち続けたところで、実家は老朽化していくばかり。問題先送りの先に未来は存在しません。
しからば売ろう! と決断します。ところが、地元の不動産屋に相談に行っても、田舎の実家は多くの場合、買い手がいません。ただでさえ人口は減少し、若い子育て世代がいなくなっているのに、家を買おうなどという奇特な人はいないのです。
私の知人で、古家だから売れないのだろうと考え、800万円かけてリフォームをしたのに、まったく内見に来る客すらおらずに、しまいにきょうだいげんかになった人がいます。
持つべきものは「お隣さん」
では、どうするか。意外と成果が出る可能性があるのがお隣さんです。
隣地が売りに出れば、興味を持つ人は多くいます。庭が少し狭い、カースペースは2台分欲しい。離れがほしい。子ども夫婦を呼び寄せたい。土地がもう少しあれば、畑にしたいなど動機はさまざまです。
もちろん、親御さんがお隣さんと円満な人間関係を構築されていることも重要な要素となりますが、ひと声かけてみるのは悪い選択ではありません。
ただ、欲張ってはいけません。マーケットでの流動性がないのですから、むしろもらっていただくくらいのつもりでいるのが良いです。
以前新聞社の方で、私に茨城県内の実家が売れなくて困っているとの相談があったときに、お隣さんに声がけしてみたらとアドバイスしたところ、数週間後に電話があり、弾んだ声で、
「牧野さん、売れました実家。やっぱりお隣さんですよね!」
と言われました。よかった。
150坪ほどの土地でしたが価格は300万円。坪2万円ですが、このまま所有していれば結構な固定資産税の負担や家の維持費がかかっていたわけですから、渡りに船ということでしょう。
しかし、そうそう神のようなお隣さんばかりとは限りません。売れないと悩むまえに、活用方法を考えてみるのも手です。
最近は観光地などになれば、外国人観光客などを相手にした民泊に提供することもできます。昨今は民泊をめぐる地元住民とのトラブルも多く報告されていますが、その多くが不法民泊と呼ばれるものです。
民泊は住宅宿泊事業法(民泊法)が制定され、対象となるエリアで正規の手続きを踏めば、誰でも運用ができます。自分でできなくとも、事業者や顧客を連れてくる仲介者がいますので、考えてみるのもよいでしょう。
ただし自治体によって、民泊で運用できる日数等の規制が存在しますので、規制の範囲内での運用となることには注意が必要でしょう。
ただ、売れなかった家が思わぬ収益源になるような事例もあります。検討してみることをお勧めします。
また、最近では地方に移住しようと考える都会人も増えています。こうした買い手は、地元の不動産屋に行ってもなかなか見つけてくれません。そこで空き家バンクを利用するケースが増えています。空き家バンクはなかなか売却できない家を掲載しているネットサイトです。
現在では各自治体などが中心となって、空き家バンクへの登録を推進していて、全国ネットになっているので、東京や大阪などにお住まいで移住を検討している方たちなどが検索しています。
不動産屋を介さず相対で取引もできますので、サイトに登録することを考えてみてもよいでしょう。
また外国人で地方住まいをしたい人も、最近は多くいます。彼らが好むのが伝統的な日本家屋です。古民家などを購入して中をリフォーム、来日したときの宿泊や在留外国人が別荘として購入するなどの例が目立っています。
ただ買い手がいないとあきらめるのではなく、ネットなどを駆使して親の実家の処分先をいろいろな角度から探していくことが肝心です。
放置空き家の罪と罰
売れない、貸せない、自分が住む予定がない、主がいなくなった実家の扱いに困り果てると、人はどうするか。放置です。
積極的に放置する人は少なく、やむを得ず放置する人が大半です。始めのうちは気になってたまに掃除や通風、草刈りなどに出向いていても、次第に間遠になります。特に地方の空き家ほど、日々の生活に追われやがて意識の外に追いやられるようになります。
放置して数カ月もたつと空き家はどうなるでしょうか。
まずは庭の草木が生い茂るようになります。植物の成長力はすさまじく、特に夏場はあっというまに繁茂します。勢いよく伸びた蔓や枝は土地の境界をまたぎ、隣家の敷地内に侵入します。秋になれば落ち葉が大量に隣地を埋め尽くします。
2023年に改正された空家対策特別措置法では、それまで禁じられていた、隣地から伸びてきた木の枝葉を隣地所有者が勝手に伐採することができるようになりましたが、だからと言って、お隣さん勝手に切ってください、というわけにもまいりません。
腐朽が進んだ家屋の問題
日本の気象は最近急速に亜熱帯化し、ゲリラ豪雨や台風などの自然災害によって家の傷みは急速に進みます。
木造家屋の場合は湿気に弱いため、おおむね2年も放置すると、居住に適さない状態にまで腐朽が進んでしまいます。特に上下水道など配管類は、通水しないことで劣化が進み漏水するようになります。
こうした状況になると、もはや改めて居住するには多額の修繕費がかかるようになり、ただでさえ住む予定がないのに、いまさらお金をかけて修繕するなどという動機は生ぜず、さらに放置を続けることになります。
腐朽が進んだ家屋は、ただ朽ち果てるのではありません。強風で瓦が飛ぶ、はがれた木材が道に散乱するなど、近所に危害が及ぶようになります。
また空き家は動物たちの絶好の棲家となります。ねずみはもちろん、たぬきやハクビシンなどが棲息すると、餌の残骸や糞尿などで悪臭を放つようになります。
汚すのは動物たちばかりではありません。通行人が空き家をよいことにごみを捨てる。中には大型家電などを持ってきて捨てる。ゴミ屋敷化には通行人などの他人も協力しているのです。
住みつくのも動物だけではありません。ホームレスなどが侵入する、不逞の輩が集まりアジトにする、など治安の問題も発生します。都内でも空き家が放火され、周辺に類焼して大きな被害が発生した事例が報告されています。
今後高確率で発生が予想されている大地震ですが、地震時に家屋が倒壊すれば、避難路を塞いで被害を広げる危険性もあります。
放置空き家問題は自身の問題としてだけでなく、近隣を巻き込み多くの被害を発生させることが考えられます。放置は罪なのです。
こうした状況に対して、国や自治体はいろいろな対策に乗り出しています。具体的な法整備としては2015年に制定された空家対策特別措置法(2023年改正)があります。
空き家は本来住宅として機能を果たしてきました。そのため固定資産税が優遇されています。具体的には敷地面積200㎡以下の土地については固定資産税が6分の1に、都市計画税(規定のあるエリアに限る)が3分の1に軽減されています。
行政で代執行された場合
しかし特措法では、放置が続いた空き家で自治体から管理不全空き家に認定されたものについては、軽減措置を剥奪されてしまうことになりました。背景には税金が特例で安いため、主がいなくなった家でもそのまま放置して、税負担を少なくしておこうと考える人が後を絶たないためとされています。
それでも放置状態が続くと、自治体から特定空き家に認定されてしまいます。特定空き家とは
①倒壊など著しく保安上危険となる恐れがある
②アスベストの飛散やごみによる悪臭など著しく衛生上有害となる恐れがある
③適切な管理がなされず著しく景観を損なっている
④立木の繁茂や動物の棲息による糞尿など周辺生活環境を乱している
などの要件に当てはまる空き家について指すものです。
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特定空き家に認定されてしまうと、自治体がその管理や処分について助言→指導→勧告→命令→行政代執行といったプロセスに沿って強制力を強めてきます。
改正法では、「勧告」の段階で「命令」を飛ばして行政代執行によって空き家を解体撤去できるようになり、手続きの簡素化が図られました。
今、家の撤去費は建設費と同じく高騰しています。原因は人手不足と廃棄物処理の複雑化です。一般的な家屋(35坪程度)を解体する場合、敷地の形状や道路付けにより異なりますが、一般的には200万円程度かかるようになっています。
これを行政により代執行された場合には、後日この費用については空き家所有者に請求され、支払わない場合にはほかの財産の差し押さえを行うなど厳しい罰則となっています。
親の残した家を、面倒くさいからといって放置する、目の前に存在せず地方にあるのでついつい後回しにして管理を怠っていると、思わぬ罰を受けるので注意が必要です。



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