原油高騰は序の口か、ホルムズ海峡封鎖で「石化ショック」がもたらす恐ろしい事態 | きばいやんせ!鹿児島

原油高騰は序の口か、ホルムズ海峡封鎖で「石化ショック」がもたらす恐ろしい事態

自動車、コンビニ弁当、注射器、農薬…あらゆる産業が止まり、モノがつくれなくなる

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エネルギー輸送の要衝とされるホルムズ海峡は事実上、封鎖状態にある。写真は2018年12月撮影のもの(写真:ロイター=共同)

 イスラエル・米国とイランとの軍事衝突により、原油などエネルギー輸送の要衝(チョークポイント)であるの中東ホルムズ海峡が事実上封鎖された。米原油先物相場は3月9日に一時1バレル119ドル台まで上昇し、2022年にロシアがウクライナに侵攻した局面以来の高値に高騰した。

 こうした事態を受けて、中東依存度の高い日本ではエネルギー調達に不安が広がっている。だが、ホルムズ海峡の封鎖がもたらすのは、原油や液化天然ガス(LNG)の供給不安と価格高騰にとどまらない。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

備蓄制度もなく、対策に残された時間は少ない

 石油化学業界では原料調達が滞ることで生産が制約され、顧客である自動車をはじめ幅広い産業に激震が走る可能性がある。しかも、こうした石油化学産業では、国家や民間の備蓄制度のある原油に比べ対策に残された時間は少ない。

 すでに影響は出始めている。日本経済新聞などは、石油元売り大手の出光興産が基礎化学原料エチレンの設備(エチレンプラント)を止める可能性があることを取引先に伝え、三菱ケミカルグループは減産に動いたと報じた。ホルムズ海峡の封鎖でナフサの調達ができなくなったからだ。

 ホルムズ海峡を通り、中東から日本などへ専用船で運ぶのは原油やLNGだけではない。中東各国で精製され、石油製品として石油化学産業が原料に使うナフサもそのひとつだ。

 原油は製油所で精製され、さまざまな石油製品になる。国内では自動車燃料のガソリンや軽油、航空機のジェット燃料、農漁業や小型のボイラーに使うA重油、火力発電所や船舶の燃料になるB重油、C重油などだ。

 石油連盟のまとめで、2024年に精製された製品のうち、ナフサは全体の10%弱を占めた。そのナフサを分解して基礎原料のエチレンが製造され、そこから主にポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール樹脂といった合成樹脂が作られる。

 経済記者として初めて石化産業を担当すると、まず、カタカナを使った専門用語の多さに戸惑う。ただ、こうした石化製品を利用して最終的に作られる製品は私たちの生活に身近なものばかりだ。しかも、裾野が広い。

 具体的に挙げてみよう。

 自動車ではシートやバンパーといった内外装、ガソリンタンクのような基幹部品からタイヤ、さらにはエアバッグ、シートベルトといった安全装置にも使う。

 家庭にあるテレビや白物家電を見てほしい。あちこちにプラスチック部品が使われている。浴槽や浄化槽、断熱材がなければ住宅も作れず、水道管といったインフラ整備にも欠かせない。

 食品トレイや包装材、ペットボトルなどドラッグストアやスーパーの店頭も石化製品なしでは成り立たない。医療では注射器やチューブ類、手袋、X線フィルムなど現場を支えている。

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 鉄鋼や非鉄金属、紙・パルプ、窯業製品(ガラスやセメント)といった素材産業の中でもこれだけ多くの分野で消費されるのは石化だけだ。

ナフサは6割を輸入に頼る

 先に述べたように、原油を精製しナフサを取り出すわけだが、工業国の日本ではナフサ需要が非常に大きいため、国内の原油精製過程で得られるものでは足りず、不足分を輸入している。

 以前は今よりも精製能力が高かったが、ガソリンの販売量が減少を続けたことで、精製能力が削減され、連産品として得られるナフサは、より輸入品に依存する構図ができていった。石油化学工業協会の統計によると、24年はナフサの4割が国内生産、残り6割が輸入ナフサだ。

 輸入先を国別で見ると、アラブ首長国連邦(30.4%)、クウェート(21.6%)、カタール(15.4%)、サウジアラビア(3%)などの中東諸国が73.6%を占めた。こうした国々の積み出し地はホルムズ海峡の先のペルシャ湾沿いにある。輸入依存度が6割、輸入の中東依存度が7割なので全体で4割強のナフサ調達がホルムズ海峡の封鎖で止まったことになる。その衝撃は大きい。

 価格急騰で大騒ぎになっている原油は、輸入の中東依存度は9割に達するが、官民合わせて254日分の備蓄があり、まだ時間的な余裕がある。LNGは電力・ガス会社の在庫頼みであるものの、LNGの最大輸入先はオーストラリアで分散調達ができている。

 一方のナフサは、原油ほどではないにせよ中東依存度が高く、在庫はLNGと同じ3週間分程度しかないとみられる。もちろん、いざとなれば254日分ある備蓄原油を精製すればいいのだが、ナフサだけを大増産することは不可能だ。

 たしかに中東以外の輸入先を探す手はある。しかし、アジア地域の石化産業も余裕はない。

相次ぐ「不可抗力(フォースマジュール)」宣言

 インドネシア石油化学最大手のチャンドラ・アスリ・パシフィックは中東からの原料輸送中断で販売先への供給義務を免れる「不可抗力(フォースマジュール)」条項を宣言。ブルームバーグ通信によれば、不可抗力の期間は不透明だという。同じ化学大手のPCS(ペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール)も宣言に踏み切った。こうした事態を受け、すでにアジア市場のナフサ価格は高騰している。

 石化製品の供給に制約が生まれると幅広い分野に激震が走る。そこに石化ショックの深刻さがある。

 ありとあらゆる産業・サービス活動にブレーキがかかるのが想像できるだろう。

 半導体不足で自動車の減産を強いられた時期があったが、石化製品の不足は各産業でこうした事態を同時多発で起こしてしまう。原油価格や天然ガスの価格高騰は世界経済に打撃であることは間違いないが、さまざまな分野で部材が足りなくなる石化ショックは異次元の脅威になり得る。

ホルムズ封鎖が続けば、月内にはペルシャ湾岸からの輸入が途絶

 ナフサを原料にする日本などと異なり、米国や中東諸国の企業は豊富な天然ガスを原料に石化製品を製造している。三菱ガス化学は3日、同社が間接出資するサウジ企業からメタノールを調達できなくなっていると発表した。天然ガスから製造するメタノールも合成樹脂や合成繊維、塗料などに使われる。

 9日のニューヨーク市場では戦争の早期終了を示唆するトランプ大統領の発言が伝わって原油相場が反落した。位置情報を発信しない状態でホルムズ海峡を通過するタンカーが出てきたとの情報もある。だが、同海峡周辺では船舶への攻撃も続いており、正常化の見通しは立っていない。

 トランプ大統領が言っているように、航行するタンカーを米海軍が護衛し、保険が提供されたとしても海運企業が「それなら安心」と考えるかは、疑問だ。すでに2年にわたってリスクの高いスエズ運河〜紅海航路を避け、遠回りの喜望峰ルートを多くの海運会社が選択している現状を踏まえれば、長期化も覚悟して対策を練らなければならない。

 米国をはじめ、代替の調達先を確保できるかどうか。さらには輸送船の確保も必要になる。企業が連携して原料、中間素材の在庫がどれだけあるかの情報を集約し、対策を急ぐ必要がある。

 ペルシャ湾から日本まで海上輸送にかかる日数はおよそ20日(マラッカ・シンガポール海峡を通れない超大型船はさらに3日程度)だ。ホルムズ海峡の封鎖前に出発したタンカーはまだ航行中のものも多いが、封鎖が続けば、月内にもペルシャ湾岸からの輸入が途絶えてしまう。サプライチェーンは多様であり、原油やLNGにとどまらず、石化ショックのようなリスクが急浮上する。

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