トランプ政権は2月12日、温室効果ガスの排出が人の健康を害するという「危険性認定」の撤回を発表しました。あわせて、全ての車両を含む連邦の温室効果ガス排出基準も廃止するとして、衝撃が走っています。
2009年に環境保護庁(EPA)が定めたこの危険性認定は、1963年のクリーン・エア法に基づく、温暖化ガス規制を支えてきた法的根拠でした。その撤回は単なる「規制緩和」にとどまりません。気候変動を公衆衛生上のリスクと位置付けてきた科学的判断の破棄であり、今後の気候政策や規制そのものを根底から弱体化させる、決定的な転換といえます。
トランプ政権はこれまでも、気候科学に対して懐疑的な姿勢を繰り返してきました。トランプ大統領自身が国連の場で、気候変動対策を「まやかし」と呼んだことは象徴的です。今回の規制撤廃についても「消費者の経済負担を減らすため」と説明していますが、国内外からは「化石燃料産業を優先する姿勢」との激しい批判が噴き出しています。
さらに注目すべきなのは、実はもう1つ重要な発表をしていたことです。EPAは大気汚染規制により「何人の命が救われたか」「医療費がどれだけ減ったか」を数字と金額で示してきましたが、これを廃止するという決定です。それによって人の健康=経済価値という前提は覆され、汚染者(企業)側のコストを主眼に置く方向へのシフトが可能になりました。
気候変動は、もはや「人命を守るために規制すべき問題」ではなくなりました。この決定は、世界、そして日本にとってどんな意味を持つのでしょうか。
ざっくり言えば、気候変動が「健康問題」ではなくなれば、各国は排出削減を義務ではなく選択肢として扱いやすくなります。特に日本では、LNG・石炭火力使用の正当化により、電気料金・産業コスト上昇への圧力緩和が期待できます。しかし、ルールが弱まると得をするのは、あくまで資源の生産国です。資源を輸入し、しかも高齢化で医療コスト増大が避けられない日本のような国は、長期的に見て不利になります。
世界が協調していた気候政策を一気に覆すアメリカの決定が、今後どう波及していくのか、注意深く見つめる必要があります。


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