よく当たる「世界10大リスク」
2026年は、日本も含めた世界が「動」の年になり、2027年は「乱」の年になると私は見ている。
そんな中、ユーラシア・グループの「2026年世界10大リスク」が発表された。ユーラシア・グループは、ニューヨークに本部を置く独立系のシンクタンクで、1998年に政治学者のイアン・ブレマー氏が設立した。
毎年の年初に、その年の「世界10大リスク」を発表することで知られる。私はもうかれこれ20年くらい、毎年年初にチェックしている。
当初は、アメリカのシンクタンクのよくある予測の一つくらいに捉えていた。ところが、世界がコロナ禍に見舞われる前あたりから俄然、的中するようになった。
「世界10大リスク」には、私の専門分野である中国もよく入るのだが、私が漠然と思い描いていた突飛な予測が、理論づけられて書かれていたこともあった。ともかく、いまでは「世界10大リスク」に対して、「信奉」に近い信頼を寄せている。
今年の「世界10大リスク」は、以下の通りだ。計51ページにわたって詳述されている。
① 米国の政治革命
② 「電気国家」中国
③ ドンロー主義
④ 包囲される欧州
⑤ ロシアの第二の戦線
⑥ 米国式国家資本主義
⑦ 中国のデフレ
⑧ ユーザーを食い尽くすAI
⑨ USMCAのゾンビ化
⑩ 水の武器化
思えば、昨年は「10大リスク」のうち、半分の5つが直接的な「トランプ・リスク」だった。間接的なものも含めれば、7つに上った。
今年は、①③⑥⑨が直接的な「トランプ・リスク」にあたり、依然、ドナルド・トランプ米大統領が世界を振り回す「台風の目」であることが分かる。以下、今週と次週の2回にわたって見ていく。
今週は「アメリカ編」である。すなわち、1月20日に就任1周年を迎えたトランプ大統領に関する①と③の記述を中心に見ていく。
米中対立はリスクではない
「リスクNo.1」の前に、総論にあたる「はじめに」が約1ページ分入っている。要約すると、こんな内容だ。
<2026年は転換の年だ。地政学的な不確実性が極めて高い年になる。米国と中国という2大国の間に世界規模の紛争が起きようとしているからではない。それは今年の10大リスクにすら入らず、「リスクもどき」にすぎない。また、欧州で戦争が激化しているが、米国主導の秩序に対するプーチンの長年の不満の結果として米国とロシアの間の緊張が制御不能に陥る恐れもない。
米国は自ら、自らが作り上げた国際秩序を解体しつつある。世界最強の国が政治革命の真っただ中にある。我々が生きてきた中で、政治体制、ひいては米国の世界における役割を変えることにこれほど強くコミットし、かつそれを実行できる能力を持った米国大統領を見たことはない。ドナルド・トランプ大統領の革命が成功するか失敗するか、そしてそれが米国と世界に及ぼす影響は、一世代にわたって続くだろう。
世界中の他の国々にとって、米国は予測不可能で信頼できない存在となった。この新たな現実に適応することは、喫緊の地政学的課題となっている。
その過程で、我々は多くの不安定を目にすることになる。今日の世界では約60の紛争が進行中であり、これは第二次世界大戦後で最多だ。一部が停戦に至ったとしても、安定にまでこぎ着けるものはほとんどない。混乱の時代にあっては、どの国も自らの秩序維持を最優先するからだ。
これらすべては、驚異的な技術革命の真っただ中で起きている。人工知能(AI)ブームは、人類がこれまでに生み出した最大の機会であると同時に最大の危険でもあるが、統治、連携、調整はほとんど存在しない。何という時代に我々は生きていることか>
まず今年、「米中紛争はない」と言い切っている。私も同意見だ。トランプ大統領と習近平主席の首脳会談は、4月の北京、後半のアメリカ、11月の深圳APEC、12月のマイアミG20と、最大4回予定されている。両首脳は相思相愛では決してないが、互いを必要としている。
続いて、「第二次世界大戦後最多の約60の紛争が世界で起こっているが、安定にまでこぎつけるものはほとんどない」と断言している。ブレマー代表は、「Gゼロ時代」(誰も統括者のいない世界)の到来を2011年に予測したが、まさに世界はその方向に向かって進んでいる。実際、2013年9月には、バラク・オバマ米大統領が「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と断言した。
リスク№1「米国の政治革命」
リスク№1「米国の政治革命」では、約8ページにわたって「トランプ分析」を綴っている。前半は、トランプがこの1年で行ったことを総括する。
<米国は政治革命のただ中にある。ドナルド・トランプ大統領は、自らの権力に対する抑制を組織的に解体し、政府機構を掌握し、それを敵に対して武器化しようとしている。
第1次トランプ政権では持ちこたえていた安全装置の多くが今や崩れつつあり、この革命が終わった時に米国がどのような政治システムになっているか、もはや確信を持って語ることはできない。
トランプは自身と仲間に対する主要な脅威は、国外ではなく国内にあると見ており、報復を行う権限を得たと信じている。政権はこのプロジェクトを民主主義への攻撃ではなく、その回復であると考えている。つまり、深く腐敗したエスタブリッシュメントに支配され、彼らに対して武器化されていた政府の「必要な浄化」であるという認識だ。
2025年、政権は国家の政治化に動いた。「権力官庁」、特に司法省と連邦捜査局(FBI)はウォーターゲート事件以来彼らを保護してきた業務上の独立性を剝奪され、完全にホワイトハウスの政治的武器となった。メディア企業、法律事務所、大学は、服従を強いることを目的とした調査、訴訟、脅迫に直面することになった。
議会はほぼ政権の方針に従った。民主党は分裂し、リーダー不在で、効果的な抵抗を展開するのに苦労している。共和党内の反対派になる可能性のあった議員のほとんどは、予備選での対立候補擁立や政治的追放の脅しに屈した。
企業メディアは報復を恐れて自己検閲を行い、報道を軟化させた。大手メディアやテック企業は、報復を受けるよりも、勝てるはずの訴訟でトランプ側に数百万ドルを支払って和解することを選んだ。経済界や金融界のリーダーたちは、不快感を抱きつつも、発言することによるリスクを嫌い、沈黙を守った。そして、行政権に対する最も効果的で強力な抑制機関の一つである最高裁判所は、トランプの革命推進をしばしば容認した>
アメリカ版文化大革命
まさに、無理が通れば道理が引っ込む。私が昨年のトランプ大統領の振る舞いを見ていて連想したのは、中国の文化大革命である。まさか1960年代の「悪夢」が、2020年代半ばのアメリカで復活するとは思わなかった。
それでは、今後とも「アメリカの文化大革命」は続くのか。レポートは4ページにわたって詳述しているが、要旨は以下の通りだ。
<2026年も革命は続く。任期が残り3年しかなく、民主党の下院奪還が有力視される中、トランプと側近たちは、機会が狭まる前に大統領の権力を固め、レガシーを定着させようと、リスク回避的になるどころか、よりリスクを取るようになるだろう。
ホワイトハウスを批判する経営者は標的にされ、民主党に寄付をする財団は、非課税資格をめぐる長期の争いに巻き込まれるリスクを負う。結果として、トランプに対し公の批判や反対をすることのコストが高くなる。
大手法律事務所は、トランプの政策に異議を唱えようとするクライアントを断り、政権のために数十億ドル相当の仕事を無償で行っている。メディア企業は訴訟や規制上の脅しによってさらに萎縮するか、あるいはトランプ寄りの投資家が主要プラットフォームを買収する当局の承認を得て、政権に好意的な報道をすることになるだろう。
(11月の)中間選挙が近づくにつれ、政権は選挙の戦場を自陣に有利な方向に傾けようとするだろう。最悪のシナリオでは、投票率を抑えるために緊急権限を発動し、投票所に連邦軍を配備しようとするかもしれない。そのような権限は存在しないが、すでにさまざまな口実で州兵が「青い州(民主党支持の強い州)」の都市に派遣されている。トランプは「まず行動し、裁判所のことは後で心配する」という姿勢を示しているのだ。
こうしたあらゆる努力にもかかわらず、共和党は依然として11月の中間選挙では下院で敗北する可能性が高い。トランプの支持率は低く、有権者は経済に不満を抱いている。ニュースの関心は、トランプ弾劾の試み、政権への監視公聴会、そして政治的膠着へと移るだろう。トランプの支持は衰え、抗議活動は拡大し、勢いは失われるだろう。
世界の独裁者を勢いづける
しかし民主党が下院を掌握しても、革命を止めるためにできることは限られている。民主党が上院でも過半数をとればもう少し影響は大きいだろうが、そうなる可能性は低い。また、民主党が上下両院で過半数を獲得しても、大統領の拒否権を覆せる3分の2の議席がなければ、議会を完全に無視しようとする大統領を完全に阻止することはできない。ただし、摩擦を増やし、抵抗が広く支持され、正当かつ実現可能であると示すことで、革命が失敗する確率をさらに高めることはできるだろう。
トランプは、支持率の低下から11月の中間選挙での敗北に至る国内の挫折に対し、2020年の大統領選敗北時と同じように反応する可能性が高い。つまり、さらなる強硬策に出るのだ。自らと同様に敗北が許されない忠実な部下たちに囲まれた「レームダック」として、党の選挙の将来をほとんど気にせず、一か八かの勝負に出ようとする衝動はより強くなるだろう。
トランプの政治革命は、最終的には成功するよりも失敗する可能性の方が高い。しかし、以前の状態に戻ることはない。トランプは、権限拡大と制約の弱体化を2029年まで定着させ、それを次期大統領は引き継ぐことになる。トランプ主義をあおった不満は解消されないまま残るだろう。
終着点がどこであれ、今後1年の被害は相当なものになる。この不安定さは外へと波及する。外部の紛争が沈静化したとしても、2026年には米国自身が世界的リスクの根源となる。関税の脅しは、昨年ほど自由奔放ではないにせよ、貿易および非貿易上の譲歩を引き出すために引き続き利用されるだろう。
軍事力は、特に西半球において、より独断的に行使されるようになる。同盟への関与は大統領の気分次第で変化する。ソフトパワーは衰退し、米国は同盟関係を構築したり世界の才能を引きつけたりすることが難しくなる。米国の多国間協力からの撤退は、より断片化し紛争が起きやすい世界のGゼロ化を深化させる。
次に世界的な危機が起きた時、「世界を救う委員会」は存在しない。そして、米国で起きることは米国だけにとどまらず、米国における民主主義の後退は、他国の独裁者を勢いづかせることになる>
まさに、ディストピア(暗黒世界)である。トランプという「アメリカのゴジラ」を、いかにして創出させてしまったのか、いずれ検証もなされるだろう。中国で文革の総括がなされたように。
リスク№3「ドンロー主義」
つづいて、リスク№3「ドンロー主義」に移ろう。
ドンロー主義とは、最近は人口に膾炙(かいしゃ)するようになったが、ドナルド・トランプと、ジェームズ・モンロー第5代アメリカ大統領の主義を合わせた、トランプ大統領の造語である。レポートでは、こう解説している。
<米トランプ政権は、西半球への支配権を主張するために、モンロー主義の論理を復活させ、再解釈している。19 世紀のモンロー主義が域外勢力によるアメリカ大陸への介入を警告したのに対し、ドンロー主義はその概念を広げている。西半球における中国、ロシア、イランの影響力を抑え込むだけでなく、軍事的圧力、経済的強要、選別的な同盟構築、そしてトランプ個人の私的報復を組み合わせて、積極的に米国の優位性を主張しようとしている。2026年、この姿勢は政策の行き過ぎと意図せぬ結果のリスクを高めるだろう>
またもや、悲観的な予測である。実際、トランプ政権は新年早々、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拉致して政権を転覆させるという「暴挙」に出た。
次は一体、どの国が「標的」となるのか? レポートでは、キューバ、コロンビア、メキシコの3ヵ国のリスクが高まると指摘する。
<トランプのベネズエラでの実験が直ちに裏目に出ないなら、次はキューバが標的になるかもしれない。マルコ・ルビオ国務長官は、マドゥロの追放がキューバに崩壊をもたらすと信じており、トランプは対ベネズエラの作戦で始めたことを完遂する好機と見るかもしれない。
近い将来の軍事行動は考えにくい。とりわけ、部隊は再配置するのに時間がかかるし、依然としてベネズエラに必要だからだ。だが、キューバを経済的に締め上げるために石油封鎖を拡大する可能性はある。それは地域関係をさらに緊張させるだろう。メキシコはすでに、米国によるベネズエラの石油流通の混乱後、キューバに石油を送るために介入している。
キューバは経済的に脆弱で、報復能力も事実上ない。だが体制は国に深く根を下ろしており、米国の圧力を生き延びてきた長い歴史がある。フロリダから 150キロの地点での混乱は、新たなリスクをもたらすだろう。
コロンビアとメキシコの危機
ドンロー主義はコロンビアにも影響を及ぼす。同国は、米国の治安活動における最大の地域拠点であり、ベネズエラの混乱に最もさらされている国でもある。トランプは昨年、グスタボ・ペトロ大統領を公然と嘲笑することに多くの時間を費やし、米財務省はカリブ海での船舶攻撃を批判したとしてペトロ個人に制裁を科した。
ペトロが選んだ後継者は、米国の助けがあろうとなかろうと、今年の選挙で敗北する見通しだ。保守政権になればトランプにより友好的になるだろう。しかし、米国の圧力が続き、隣国での体制転換の混乱が、ナショナリズムをあおり、反米感情を深め、この地域にとって極めて重要な時期に麻薬対策協力を悪化させる可能性がある。特に新大統領が就任する前の時期が危うい。
トランプの方針は、メキシコにとってもリスクを生み出す。クラウディア・シェインバウム大統領との関係は予想外に強固で、両国間の治安協力も活発だ。メキシコの協調は今のところ維持されているが、それはトランプがメキシコの主権を尊重するかどうかにかかっている。
メキシコ領内のカルテルに対する米国による直接攻撃の可能性は依然として残っている。
トランプは昨年の任期開始直後にこの選択肢を検討していた。ベネズエラでの成功は彼を勢いづかせるかもしれない。シェインバウムのレッドラインを越えれば、関係は破綻し、不安定な米メキシコ間の貿易のバランスを脅かすことになる>
トランプ大統領は、先月4日に公表した「国家安全保障戦略」(NSS)で、「西半球の支配」を強化する意志を見せた。そして、有言実行でベネズエラを侵攻したわけだが、今後の道のりは、前途多難のように思える。


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