お別れの日が近いと感じているならあなたと大切な人が「家」で一緒に過ごせるようにしてほしいのです(写真:kouta/PIXTA)
人生の最期に過ごす場所は大きく「病院」「施設」「家」の3つ。5000人以上の看取りを行ってきた在宅医療専門クリニックの創設者で医師の安井佑さんは、できるなら、最後の時間に一定期間「家」を入れてほしいと言います。その理由と方法、そして実際に家を選んだ人が過ごした幸せな時間について聞きました。
※本稿は『大切な人が亡くなる前にあなたができる10のこと』から一部抜粋・再構成したものです。
「最後の時間」をどこで過ごすのか?
大切な人に残された時間について考えるとき、問題になるのが「最後の時間を、どこで過ごすのか?」ということでしょう。
この点について、すごくざっくり言うと「病院」「施設」「家」の3択になります。
私がお勧めしたいのが、最後の時間に必ず、一定期間「家」を入れることです。
とはいえ、これは「最後を家で看取ってください」ということではありません。
大切な人の人生の最終幕の舞台を、いったん「家」に設定したとしても、経過を見ながら、最後は病院や施設で……でも構いません。逆に、それまでは施設や病院に入っていても、亡くなる少し前に家に戻って来てもらう……でもいいと思います。
とにかく、お別れの日が近いと感じているなら、1カ月でも、2カ月でもいいんです。短い期間でも構わないので、あなたと大切な人が「家」で一緒に過ごせるようにしてほしいのです。
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最後の時間に人生の主導権を医療側に預けっぱなしにしてしまうと、最後は患者さんの誰も彼もがベッドの上でただジッと過ごすだけの、似たようなエンディング期間を過ごすことになります。
でも、本来であれば、同じ病気にかかったAさん・Bさん・Cさんがいたとして、彼らに残された時間が同じく3カ月だったとしても、異なる人生を歩んできた彼らの最後の過ごし方はまったく違っていいはずです。これまでの人生で大事にしてきた想いや人が、それぞれ違うんですから。
患者さんは、自分の好きなことのために生きていい。
家族や友人のために生きてもいい。
仕事ややりがいのために生きたっていい。
残り時間の過ごし方は、人それぞれであっていいはずです。
そして、家族はそうしたければ、去り行く人の最後を好きな形で応援することもできます。
だって、人生の主人公は、医療者ではなく、自分たちなんですから。
極端なことを言えば、最後はもう自分たちの好きにしていいのです。
「いい時間」は、そうした自由な時間の中にこそ、たくさんつくれます。
「いい時間」は、個人の人生の延長線上にある
ところで、自分たちらしい最後の「いい時間」とは、どんなものでしょうか?
ここで、人生の舵を取り戻した、あるご家族の話をしましょう。
私がお見送りに立ち会わせていただいた、ご夫婦の話です。
都内に暮らすヒロコさん(70代)は現役の美容師で、肺に持病がありました。
そんな彼女がある日、肺炎を起こして入院。さまざまな合併症が重なって、入院期間は半年を超え、ベッドから自力で立ち上がることができなくなりました。
「もう先は長くなさそうだ。妻をこのまま病院で……」と、ご主人は当初、考えていたそうです。ところが、ヒロコさんは「絶対に家に帰る!」と譲りません。
根負けしたご主人は、私たち在宅医療チームのサポートを得て、一時的にではありますが、奥さんを家に迎える準備を始めました。
ただ、2階建ての自宅は狭く、1階は美容室です。介護ベッドを置くスペースは美容室にしかなく、そこに入れた介護ベッドでヒロコさんは生活することになりました。鏡もタイル張りの床も美容室をやっていたときのまま。かなりユニークな光景です。
美容室のドアは、ヒロコさんがお店をやっていたときのように、日中は開けたまま。すると、常連さんやご近所さん、美容師仲間がふらりと立ち寄って、おしゃべりしていくようになったのです。どうしても自宅に帰りたかったヒロコさんが望んだのは、この時間でした。
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「うちのやつが大事にしてきた場所で、最後の時間を過ごさせてやれた。最初はとんでもないと思ったよ。でもあいつが『帰る』って譲らないから、やってみた。そしたら、あいつのやってきたことが見られたし、楽しそうだったからよかったな。俺も楽しかったよ」と、ご主人はのちに私に語ってくれました。
自宅に帰ってきてから2カ月後、奥さんは再び入院し、そのまま静かに旅立ちました。
いかがでしょうか?
奥さんが息を引き取ったのは病院でしたが、それまでにヒロコさんもご主人も、実に自分たちらしい、特別な時間を過ごされました。
「いい時間」とはこんなふうに、本人やご家族のこれまでの人生の延長線上にある、とてもプライベートなものだと私は思います。
家に戻ると、人生の主導権も戻ってくる
しかし、現在の日本では、ヒロコさんたちのような、「その人らしい」エンディングを迎えるのは、なかなか難しいと言えます。7〜8割の患者さんやご家族は、病院に入院したまま、最後まで医療側に人生の舵を預けっぱなしにしたまま亡くなってしまうからです。
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特に病院に入院して病衣を着ていると、人は必然的に「病人」の役割を演じることになります。そのせいで、ますます「残り時間は、好きなように生きていいんだ」という当たり前の事実を思い出せなくなってしまうのです。
けれど、病院を出て「家」に戻ると、その人は病を抱えただけの「生活者」に戻れます。すると、病気を治すために生きるのではなく、自分の人生をどう生きるかを、ごく自然に考えられるようになります。
これが、医療が主導権を持つ場所から、自分たちが主人公でいられる「家」に戻ってくることの効能です。
そう、「家」に戻ってくるだけで、人生の主導権がとても自然に、患者さんやご家族の側に戻ってくるんですね。
こうなると、患者さんもご家族も「今日は何をして過ごそうかな」「来週はどうしようかな」と自分たち主導で考えられるようになります。
これは、患者さんが病院ではなく、施設から戻ってくる場合でも同じです。
私が、たとえ一定期間であっても、あなたと大切な人が過ごす最後の舞台を「家」に設定してほしい、と言うのはそのためなんです。
というわけで、一緒に過ごせる残り時間がわずかで、そのとき患者さんが病院や施設にいるなら、ぜひあなたから「いったん家に帰ってみない?」と提案してあげてください。
そして、患者さんが「帰る」と言うなら、数週間でも、数カ月でも、受け入れる側が可能な範囲で構わないので、家で一緒に過ごせるようにしてあげてほしいと思います。
そんな舞台を最後に、あなたが用意してあげられれば、大切な人は人生の最終章を自分らしく、そして安心して迎えられるのではないでしょうか。



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