鉄道も国道もない「ないないの町」と自称する宮崎県 木城町きじょうちょう には毎春、遠方から数百人ものバイク乗りたちが訪れる。国内外で人気のホンダ製小型バイク「スーパーカブ」などの愛好家が集う「カブ 主爽会ぬしそうかい 」。10回目の節目となった今年も、小旗を振る町民に見守られて町内をパレードした。町や警察も全面的に協力し、豊かな自然や人情をアピールする機会となっている。(小園雅寛)
カブに乗り、パレードに出発する参加者ら(4月5日、宮崎県木城町で)
町の面積の84%は森林・高齢化率38%
町は面積の84%を森林が占め、人口は約4400人(5月1日現在)。高齢化率は約38%と高く、移住施策に力を入れている。
4月5日、そんな町がにわかににぎわった。町ふるさと振興協会が運営する「木城温泉館 湯ゆ らら」の駐車場には、好みの部品を装備した色とりどりのカブ約300台がずらり。ナンバーは九州に限らず、愛媛県や神奈川県など様々。日本一周の途中で立ち寄ったという人もいた。
協会は2010年、地域おこしを目的に、昭和までに製造されたバイクを展示する「昭和のバイク展」を始めた。ただ、派手な大型バイクが注目されがちで、自身もカブを愛用する同協会の河野聖也・常務理事(61)ら参加者が「身近なカブに光を当てたい」と、18年に独立する形でスタート。参加は約60台だったが、回を重ねるごとに「カブ主」の支持を集め、「聖地」とも呼ばれるようになった。「臨時会」を含めて10回目となり、毎秋にも別にツーリングイベントを開催している。
自治体と警察が全面的に協力「全国的にも特異な例」
人気のわけは、町や地元警察が一緒になって盛り上げてくれる一体感だ。
春のメインイベントは、カブが連なって町内約7キロを走るパレード。この日も、町を管轄する高鍋署の白バイに先導され、山間部ののどかな道路をゆっくり走ると、沿道の町民らが手旗を振って歓迎した。
駐車場に戻ると、「カブ主爽会」の議事が始まる。議長役を務めるのは、 半渡 はんど 英俊町長(72)。「カブを大事にして、各地域でカブの魅力を広める」との議案が決議され、SNSに写真を載せてPRするよう求める呼びかけもあった。運転操作を競う競技には署員も参加して盛り上がった。
カブミーティングを始めた先駆けとされる奈良県の任意団体「奈良カブミーティング」で運営に携わる奥田浩司さん(51)によると、イベントは各地で開かれているが、「自治体と警察が全面的に協力している全国的にも特異な例。それが多くの参加につながっているのでは」とみる。
奥田さんらは独自に「カブの駅」を認定しており、全国約90施設が認められた。木城温泉館も20年に認定され、九州ではほかに、福岡、熊本、大分、鹿児島県にもある。
リピーター多いが、宿泊施設がほとんどなく
参加者にはリピーターも多く、カブと同時に町の魅力も満喫している。
4回目の参加という鹿児島県霧島市の病院職員(38)は「カブは自由にカスタマイズできるのが魅力。手を加えるほど愛着がわく。自然の中で仲間と走らせることができて、町の人たちが歓迎してくれるのもうれしい」と笑顔で話した。
町民にも定着しており、小学生の子どもたちと沿道で手を振った会社員(36)は「カブは形がかわいらしく、音が響かないのもいい。町がにぎやかになってうれしい」と話す。半渡町長は「小さな町がアットホームな雰囲気で歓待しているところが受け入れられていると思う。これからもバックアップしたい」と力を込める。
駐車場に集結したカブ。思い思いの部品などを装備し、色も様々だ(4月5日、宮崎県木城町で)
一方、町には宿泊施設がほとんどなく、観光振興につなげきれていないのが課題だ。奈良ミーティングには約1万台が集まり、飲食店や物販店の出店でにぎわう。振興協会の日高大・専務理事(49)は「参加者が町内や近隣に宿泊し、より長く滞在してもらえるような仕組み作りを進めたい」と11回目以降を見据えている。
◆スーパーカブ =1958年に販売が始まった。使い勝手や燃費の良さから通勤・通学の足として広く浸透し、アジアなど海外でも人気を集めて、1億台以上が生産された。世界で最も売れたバイクとされる。ホンダは一時、中国に生産を移管したが、2017年に熊本製作所(熊本県大津町)で再開し、約5年ぶりに国内に戻した。昨年11月からの排ガス規制強化の影響で排気量50cc以下の生産を終了し、原付き免許で運転できる110ccを発売した。

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