定年後の男性が社会的孤立を深め、孤独死に至る背景には何があるのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは「男性は弱音を吐くことや助けを求めることが苦手な傾向があり、そのことが孤立を深める要因になっている。退職後こそ新しい居場所づくりが必要だ」という――。(第2回)
※本稿は、佐藤優『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる〈実践・成功編〉』(Hanada新書)の一部を再編集したものです。
未婚男性は平均より15歳も寿命が短い
定年後の人たちの問題は、収入の減少だけではない。かつての会社の部下たちから相談をされることもなくなり、寂しさを感じるようになる。そんなときは、周囲が決める他律的な評価で生きることをやめて、自律的な価値観を持ちつつ交友関係を再構築することだ。
そのためには、趣味の会、小中高校の同窓会、大学時代のサークル仲間との会合など、価値観を共にする人々が集つどう居場所の確保が必要となる。そして、それまで仕事に注ぎ込んできたエネルギーを、定年後は同好の士たちに向けるのだ。
一生付き合うのはリアルに会える人である。まず手始めに、しばらく疎遠になっていた友人たちを、リストアップしてみてはどうだろうか。それは孤独死を避けるためにも必要になることだ。特に男性の孤独死は、日本における深刻な社会問題の一つであり、孤独死全体の約8割(83.3%)を男性が占めるという調査結果もある(日本少額短期保険協会、2025年)。
特に50代後半から60代の男性に高いリスクが見られ、厚生労働省の人口動態調査(2020年値分析)などを基にした推計では、未婚男性の死亡年齢の中央値は約67.2歳である。日本人男性の平均寿命より約15歳も低いのが現状だ。
弱音を吐けないことが孤独を招く
このように男性の孤独死が多い背景と現状には、以下のような特徴がある。
①社会的孤立と相談相手の不在:定年退職や離職によって社会(会社)との接点がなくなると、急速に孤立する傾向がある。また、男性は孤独感を自覚しにくく、周囲に助けを求めるのが苦手な人が多いことも要因とされる。
②発見までの日数と住環境:先の日本少額短期保険協会のデータによると、孤独死の発見までの平均日数は19日。異変に気づくきっかけは、近隣住民による異臭や害虫の通報、あるいは家賃や公共料金の滞納によるものが多く、室内が「ゴミ屋敷」化しているケースも少なくない。
③死後の責任と費用:賃貸物件などで孤独死が発生した場合、特殊清掃や遺品整理の費用(原状回復義務)は、原則として法定相続人が負担することになる。
ここで想起されるのが、かつて自殺の問題として1980年代から1990年代にかけてよく語られた「筑波病」だ。茨城県つくば市の研究学園都市としての構造的な要因が指摘された。つくば市では、1980年代後半、研究学園都市としての開発が進むなか、移住してきた研究者やその家族のあいだで、抑鬱よくうつ状態や自殺が目立つようになった。
東京には愚痴を吐き出せる場所がいっぱい
背景には、人間関係の希薄さがあった。急激な都市開発によって、地元のコミュニティと新住民(研究者たち)のあいだに溝が生じたことが、孤立しやすかった状況の一因とされている。また、生活環境の変化も背景にある。それまで住んでいた東京など都市部との環境の違いや、娯楽・交流施設の不足によるストレスも指摘された。
加えて、単身赴任と家庭の問題がある。多くの研究者が単身赴任や家族を伴う移住を行ったが、不慣れな土地での生活環境の変化が家族全体のメンタルヘルスに影響を与えた事例も見られた。そのような事情もあってか、20代から60代の男性、および高齢層で、自殺や抑鬱の割合が高いことが報告された。
研究学園都市のような、人工的に造った街には、東京でいえば新橋や新宿や浅草のような、いわば「一杯飲み屋」や「立ち飲み屋」が辻々にあるような地域がない。上記のような街には歴史が作り上げた辻々があるが、人工的に造った街には、それがない。
私はここに遠因があるように思えてならない。私は前著で、かつて東京都下のガード下などにある「立ち飲み屋」に寄るのを習慣にしていたと書いた。そこで聞くビジネスパーソンたちの話は、だいたいが上司や会社に対する悪口や不満だった。
自分から積極的に話しかける姿勢を持つ
でも、彼らは店を出るとき、さっぱりとした顔をしていたものだ。こうした場所が、研究学園都市には存在しなかったのではないか?
孤独・孤立対策として、政府は専用の対策推進室を設置し、自治体やNPO法人による見守り活動や、当事者同士がつながるためのサロンの運営などといった支援を進めている。孤独死を予防するためにも、紹介する具体策を実践してほしい。
こうした孤独死に陥らないためにも、定年後の日本人は、会社以外で新しい友人や人脈を作らなければならない。そのためには、能動的に行動を変容させることだ。そして仕事での肩書を捨て、地域や趣味に飛び込んでいくことが重要となる。
自分から積極的に、気さくに話しかける姿勢も大切だ。そして相手の話に共感し、自分ばかりが話さないように意識する。すると良好な関係を築きやすくなる。加えて、同性だけでなく異性の友人も持つことができれば、思考の幅や楽しみが広がる。
なお、「絶対に友だちを作らなければ」などという義務感を持たず、自分のペースで楽しむことも大切だ。まずは近所の公民館や市民センターのプログラムを確認してみることを勧めたい。具体的には、次のようなアプローチが効果的だ。
収入も友人も得られる「お得」な方法
①習いごとやサークル活動:絵画、料理、スポーツ、音楽など、興味のある分野の教室に通うことで、趣味を共有する仲間と出会える。
佐藤優『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる〈実践・成功編〉』(Hanada新書)
②地域のイベント・自治会:お祭りや防災訓練などの地域活動に参加すると、近所に住む人たちと顔見知りになれる。共通の目的を持つ場所には、自然と会話が生まれる。
③ボランティアや社会貢献:清掃活動や防災活動、あるいはゴミ拾いや子ども食堂など、ボランティアは同じ目的や問題意識を持つ人たちの集まりなので、自然と会話が活発になる。社会貢献を目指すならNPO活動があるが、それらは先述の「activo」などのサイトで見つけることができる。
④セカンドキャリア研修:ハローワークのセミナーや民間企業のセカンドキャリア研修に参加し、同じ境遇の同年代と出会うのも手である。その後、少しだけ働いて社会とのつながりを維持し、収入と友人の両方を得るのだ。
アプリでマッチングするのも一手
⑤SNSやアプリを活用した交流:物理的な距離にかかわらず、共通の趣味でつながることができるし、そのあとにリアルな交流もできる。「ジモティー」で地域活動のための仲間を募集したり、「X」「インスタグラム」「フェイスブック」などを使って自分の趣味を発信して、同じ趣味を持つ人と交流したり、あるいは「オンラインゲーム」で世代を超えた交流もできる。また、シニア向けの友だちづくりマッチングアプリもある。
⑥ペットを通じた交流:公園で散歩させる際に犬好き同士が交流したり、保護犬や保護猫の一時預かりボランティアなどに参加したりすると、自然と交友関係が深まっていく。
⑦既存の縁:友人関係をゼロから作るのではなく、過去のつながりを掘り起こすのも有効。同窓会に参加したり、学生時代の友人に久しぶりに連絡を取ってみたりすると、そこから新しい人間関係が広がる。
⑧シニア向けの学び直しの場:市民大学、コミュニティカレッジ、大学の公開講座、語学教室などが提供するシニア向けの「学び直し」の場は、知的な刺激とともに、新たな友人と出会う機会になる。
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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