私たちの税金はどのように使われているのか? 会計検査院って何をする機関なのか?
注目の新刊『税金はどこへ行くのか――元会計検査院長が見た「日本の財政」』では、世界的経営学者ドラッカーの弟子にして会計検査院長を務めた著者が、「アベノマスク予算1000億円の行方」「給付金が誰にいくら配られたのか」「複雑なガソリン補助金」「多重下請けの実態」といった」「お金の流れ」を解き明かしている。
日本銀行元総裁 白川方明氏推薦!
「深刻な財政赤字をかかえる日本。財政支出の検証は健全性維持の出発点だ。読者は会計検査院の仕事の重要性を知るだけでなく、良きパブリック・サーバントの姿も発見するだろう。何よりも、読みやすい良書である」
(本記事は、田中弥生『税金はどこへ行くのか』の一部を抜粋・編集しています)
Go Toとは何だったのか
令和2年度、3年度、そして令和5年度報告の3回にわたり、Go Toキャンペーン、Go Toトラベルの検査報告をしている。
Go Toキャンペーンは、売上等に甚大な打撃を被った観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業を対象に消費を喚起し、商店街等の賑わいの回復を目的に行われた事業である。旅行支援あるいは飲食支援のクーポンが配られたことを覚えている方も多いだろう。令和2年度の予算額2兆7470億円、支出額は9431億円で、執行率は34.3%に留まっているが、緊急事態宣言で何度も活動が停止したことが影響している。
印象に残ったのは、農水省によるGo Toイート事業だ。同省はイート事業全体を総括する事務局業務を外注せず、同省自ら、各業者への委託契約事務を実施していた。その結果、作業の遅れが目立っていたのだ。農水省が外部委託せず自ら実施したのは、委託費用が多額に及ぶことを国会等から批判されたことなどが背景にある。だが慣れない業務をすべて自前で行うことで過度に負荷がかかり、業務の遅延を招くことが示唆されている。
多重委託問題が厳しく批判される中、世論を配慮して、外部委託を避けたのだろうが、過度な負担なく円滑に業務を進めるためには、外部委託も必要だったのではないか。
また、Go Toトラベル事業は令和3年4月から令和5年12月まで、県民割支援、全国旅行支援とその適用範囲と名称を変えながら継続されてきた。財源が多岐に及び、実施主体が多数いることから複雑な執行構造となっていた。予算総額は約1兆1193億円、執行額は約9907億円で、約1285億円が不用額として国庫に返納されている。
補助金が病院の収支改善に寄与していた
令和4年度には「病床確保事業」の検査を行っている。コロナ感染症患者が急増する中、入院先の病院が見つからず、十分な手当てを受けられずに患者が亡くなる事態が発生した。コロナ感染症患者を受け入れることによって大きなリスクを負うため病院側も受け入れに慎重であったのだ。
こうした中で講じられたのが病床確保事業であった。コロナ患者を受け入れるための病床を確保すると補助金が支払われる制度だ。具体的にはコロナ感染症患者専用に病床を確保した場合、1病床あたり1日43.6万円の補助金に加え、1500万円の補助金が1回限りで支給される。また、感染症患者を受け入れると同室の他の病床を使えなくなる。そこで、同室の休止する病床にも同額の補助金が支給された。
世間では「幽霊病床」と揶揄することがあった。患者がいないのに補助金が支給されることに違和感があったためだろう。だが、この制度はあくまでもコロナ患者を受け入れるために病床をあらかじめ確保するための補助金である。
令和2年度、3年度で3500の医療機関に対して、約3兆2940億円の補助金が講じられた。
会計検査院は病床確保後のコロナ患者の受け入れ状況を調べ、受け入れ率が5割以下の場合にはその理由を尋ねた。すると、院内クラスターの発生、専門性のミスマッチ等、それぞれの現場の事情が見えてきた。
また、この補助金のおかげで病院の財務状況が改善していると言われていた。そこで、病院の収支データを入手して、補助金と医業収支の関係を統計的に解析した。すると補助金が収支改善に寄与していることが明らかになった。
さらに、1病床あたり1日43.6万円の補助金の価格設定が妥当であるのかについても調べた。病床に支給される資金は患者を受け入れ治療を始めると病床確保のための補助金から診療報酬に切り替えられる。そこで、同一病床について、診療報酬額とこの補助金額を比較した。その結果、補助金がより高いことも、低いこともあり、一概に補助金が高額であるとは言えなかった。
ワクチン、ゼロゼロ融資……
令和4年度報告の「コロナワクチン確保・接種事業」にも着目してみよう。当時、ワクチン確保を巡って熾烈な国際競争となり、日本政府もワクチン確保に躍起になっていた。では、この国はいくらで何回分のワクチンを購入したのか。
予算は約2兆4000億円で、8億8200万回分のワクチンを購入していた。仮に1人4回接種したとしても多すぎないか。厚生労働省に尋ねても最後まで積算の根拠が出てこなかった。会計検査院は今後、ワクチン購入にあたっては算定根拠を保管するように求めている。初めてこの事実を知ったとき、まさか、2.4兆円分のワクチンの算定根拠がないとは思わず、驚いたことを覚えている。
ちなみに、ワクチン接種のためには、ワクチン購入以外に、会場や冷蔵庫の確保、医師や看護師の人件費などの費用を要する。これらに投じた総額は4.2兆円であった。
令和2年度、4年度、5年度と3回にわたり検査をしているのが、ゼロゼロ融資である。これは、コロナ感染症の影響により一時的に業況が悪化している中小企業者等に対する資金繰り支援として、無利子・無担保で貸付を行う制度である。
会計検査院は、貸付が始まった時期、元利金の返済が本格化する時期などを意識し、複数回にわたり検査を行った。
令和5年度末時点の貸付実績は127万件、20.6兆円である。このうち、返済に問題があるとされるリスク管理債権は1.19兆円、返済不能として償却されたのは2178億円である。ただし、これで完了したわけではない。貸付残高は12兆4014億円で、そのうち9割程度は、元金返済中または据置期間中の貸付債権であるので、今後も検査を実施する必要があるだろう。
本記事の引用元『税金はどこへ行くのか』では、アベノマスクから給付金、補助金、補正予算、賃上げ税制まで、私たちの税金がどう使われているのかを多くのデータを用いながら徹底解説している。
『税金はどこへ行くのか』
田中 弥生
東京大学公共政策大学院客員教授
元会計検査院長

コメント