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補助金による家計支援に前のめりな姿勢を続けてきた高市首相だが…(写真:共同通信社)
電力各社の料金が10月(請求は11月)に軒並み過去最高を記録した。エネルギー輸送の大動脈であるホルムズ海峡が事実上閉鎖され、原油相場が高騰した影響がタイムラグを経て電力・ガス料金に波及し始めたからだ。政府の補助が10月になくなったことも重なった。折しもトレーなど石油化学製品の高騰が波及して9〜10月は食品の値上げラッシュが起き、記録的な長雨と日照不足の影響でレタスなどの生鮮野菜も高騰し始めた。政府による補助も限界に近づき、家計の負担急増が個人消費を直撃する。
ウクライナ危機を上回る水準に
政府の認可を受けた電力各社の家庭向け「規制料金」は、標準モデルで10月使用分が9月分と比べ835〜1578円引き上げられ、電力10社全てで過去最高となった。
東京電力を例にとると、10月請求分は8275円(政府の補助が反映される前の料金は9185円)だった料金が11月には9561円と1286円も跳ね上がり、ウクライナ危機時の水準を超えた。

読者の皆さんは電気料金がどのように決まっているかをご存知だろうか?
毎月の請求書を見て、支払額(請求予定金額)と使用量をチェックするくらいの人が多いかもしれない。たまに明細を見て、「再エネ賦課金」ってこんなに取られるんだと思うこともあるだろう。
電力会社には、原油や天然ガス、石炭の価格が上がり、火力発電コストが増えれば、いちいち交渉しないで消費者に請求する電気料金を上げられる仕組みがある。全体の7割ほどを占める火力発電に使う燃料価格の変動に合わせて電気料金を自動的に調整できる燃料費調整制度だ。
ガス会社にも原料費調整制度があり、基本的な仕組みは同じ。国際緊張などの外部要因で燃料費が大幅に上昇する事態から事業者の経営を守り、電力・ガスの安定供給を確保する狙いで1996年に導入された。
もちろん、燃料費が上がったからといって、いくらでも値上げできるわけではない。家庭向けの規制料金では制度で上限が設定されており、その水準を超えたコストは電力会社やガス会社が負担する。
「遅れてやってくる」電気料金の値上げ
一方で、話は少しややこしくなるが、家庭向けでも電力システム改革によって販売が自由化され、「自由料金」が選べるようになった。自由料金は法人向け(高圧)とともに燃調制度の上限がない。また、電力10社以外の新電力では市場価格に連動したプランもある。ウクライナ危機時に寒冷地で冬場の請求額が月20万円になったという話題が注目を集めたが、これが一般家庭であれば自由料金や市場連動型プランであった可能性が高い。つまり、家庭向けだからといって、契約プラン次第で燃調制度による値上げ上限があるとは限らないのだ。
ウクライナ危機時には規制料金でも上限を超え、各社の自己負担(赤字)が拡大。電力7社(関西、中部、九州電力以外)は約3〜5割の引き上げを申請した。電力・ガス取引監視等委員会の審査で経営を効率化して上げ幅を圧縮することになり、23年に14〜42%の引き上げが実現した。圧縮されたとはいえ、ウクライナ危機前に比べ7社の電気料金は上昇余地が大きくなっている。
電気料金の変動にはもう一つ、大きな特徴がある。
それはガソリンのように「すぐには上がらない」ことだ。ニュースなどで目にする「原油相場」は欧米の先物相場や、スポット(随時契約)市場での取引価格を指す。日本の石油会社が長期契約で原油をサウジアラビアなどの中東産油国から調達する場合、スポット市場の値動きを基準に実際の価格が決まり、その原油を海上輸送で1カ月近くかけて運んでくる。
さらに、日本の電力源で最も多い(およそ3分の1)天然ガスを液化天然ガス(LNG)として長期契約で輸入する場合の価格は、「JCC」と呼ばれる日本が輸入した原油の平均価格を基準に決める仕組みが多い。その結果、天然ガスを通じて電気料金に波及するルートでは上昇のタイミングがさらに遅くなる。
燃調制度で10月請求分の電気料金は、5〜7月の燃料価格の平均、11月請求分は6〜8月の平均というように、過去3カ月分を1カ月ずつずらして決まる。電力中央研究所が今年4月に公表した検証(規制料金が対象)によれば、原油相場の高騰が実際の電気料金に反映されるまでには原油ルートで4〜9カ月、天然ガスルートでは7〜13カ月のタイムラグがあることが分かった。

暖房需要が増える冬場から春先にかけ、さらなる値上げか
政府が電気・ガス料金の補助を打ち切った理由は、もともと高市早苗政権が打ち出した今回の政策が、猛暑でエアコンなどの使用が多くなる7~9月の電気・ガス代を支援し、国民の命と暮らしを守るための「期間限定の措置」だったからだ。実際、涼しくなってきたことで電力使用量は減り、11月以降の支払額は一時的に少なくてすむ可能性がある。
しかし、原油高が電気料金に波及していくタイムラグを踏まえると、現在はまだ3月の原油高騰の影響が出始めた段階に過ぎない。遅れて押し寄せる津波は暖房需要が増える冬場から来年春先に最も大きくなり、原油相場が9月に再び高騰したことで来年の影響も避けられなくなった。
しかも、今も原油高が収束する気配はない。先述したように、LNG調達価格の基準になるJCCには、代替調達コストも反映される。それだけ、原油高の影響はウクライナ危機時よりも構造的なものになっている。
ホルムズ危機が長期化する中で、いつかは補助を削減したり、止めたりする決断を迫られる時期が来る。継続すれば市場に財政規律を疑われ、長期金利の上昇や円安が加速しかねないからだ。
ガソリンや灯油などの価格高騰を抑える緊急的激変緩和措置も同じだ。10月1日以降はガソリン、軽油、灯油、重油が1リットル50.7円(8日以降は42.4円)、航空燃料には同40.5円(同33.9円)が石油元売りに支給されている。この措置がなくなると、資源エネルギー庁によれば、全国平均が170.2円だった10月5日時点のガソリン価格は過去最高値圏の221円近くにまで上昇する。
電気代は、政府の補助という「防波堤」がなくなったことで、ホルムズ危機の深刻さを消費者が実感することになる。
「物価はなお上振れの可能性」とエコノミスト
これは省エネを促す構造改革にもつながり、中長期的に見ればプラス面もある。実際、9月末には10月の電気料金が過去最高になるとのニュースとともに、エアコンや冷蔵庫の使い方を見直し、電気代の節約方法を伝える情報も多かった。世界各国では化石燃料の価格高騰を受け、電気自動車の販売が回復するという変化も生まれている。
ただし、目先は家計負担の増加で節約志向が強まり、消費が冷え込むリスクも高まる。
悪い事は重なるもので、記録的な長雨と日照不足の影響でレタスなどの生鮮野菜まで高騰し始めた。第一ライフ資産運用経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは「既往のコスト上昇の川下への波及、企業の価格転嫁姿勢の強まり、電気・ガス代補助の終了、燃料価格上昇が電気・ガス代へ遅れて反映されること、資源価格の高止まりリスクなどを踏まえると、物価はなお上振れの可能性を意識しておく必要がある」と指摘する。


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