高市首相が胸を張るほど〈経済成長〉と〈財政の持続可能性〉の両立は望めない…都合よく金利を設定した内閣府試算 | きばいやんせ!鹿児島

高市首相が胸を張るほど〈経済成長〉と〈財政の持続可能性〉の両立は望めない…都合よく金利を設定した内閣府試算

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6月24日に開催された経済財政諮問会議・日本成長戦略会議合同会議で、内閣府は、「日本成長戦略の下での中長期的な経済・財政の姿に関する試算」を公表した。例年、内閣府は年に2度「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)を出しており、夏には「骨太方針」を閣議決定した直後に改訂された中長期試算を、マクロ経済指標を詳細に示して公表しているが、今回はそれに先立って粗い試算を公表した形だ。

今年は、「骨太方針」とともに、「日本成長戦略」も閣議決定する予定である。

「骨太方針」では、これまでのプライマリーバランス(基礎的財政収支:PB)の黒字化目標は外して、「債務残高(国・地方の公債等残高)対GDP比の安定的低下」を財政運営の目標の中核と位置付ける方向で調整されている。

「日本成長戦略」では、人工知能(AI)・半導体などの戦略17分野で2040年度までに官民で総額370兆円超もの投資を実行する「官民投資ロードマップ」など盛り込む予定である。

筆者は、国内投資の促進も経済の持続的成長も大切だと考えている立場である。

内閣府の試算結果について、公表翌日の25日に開催された経済財政諮問会議で、高市早苗首相は、「内閣府の試算では、日本成長戦略の経済効果が十分に発現した場合、一定の追加的な財政支出の下で、債務残高対GDP比が、おおむね安定的に低下する姿となり、『経済成長』と『財政の持続可能性』の双方が実現できるとの見通しが示されました」と胸を張った。

では、その試算結果はどのようなものだったか。

「投資効果が発現すれば、債務GDP比は低下」というが…

試算では3つのシナリオを設定し、通常の中長期試算よりも試算期間を長くとって40年度までの経済財政状況について示した。

成長戦略実現ケース①は、これまで補正予算に盛り込まれていた歳出を当初予算で計上することや、高市内閣が注力しようとしている危機管理投資や成長投資などによって生じる追加財政支出による需要増加のほか、官民投資ロードマップに基づく投資の効果等に加えて、研究開発投資や生産資源配分の効率化等の効果が十分に発現するシナリオとして設定されている。

加えて、成長戦略の効果の発現度合いが①より小さい成長戦略実現ケース②と、成長戦略の効果がほとんど発現せず過去のトレンド並みにとどまる現状投影ケースも設定した。

成長戦略実現ケース①では、30年代には実質成長率が2%近くまで上昇し、名目成長率も3%台半ばに達して、40年度にはGDPは1100兆円に近付くという。そして、国・地方の公債等残高対GDP比は、26年度の約187%から40年度には170%近くまで低下し続ける結果となっている。

この結果をもって、高市首相は前掲のような発言をした。経済は成長し、財政運営の目標の中核と位置付ける国・地方の公債等残高対GDP比は安定的に低下するから財政は持続可能である、と。

抜け落ちた「金利データ」、財政赤字が増えても低下する債務GDP

ただ、この内閣府の試算は、粗い試算である点でやむを得ない面はあるものの、詳細なデータは本稿執筆時点で公表されていない。とくに、金利に関する情報は一切載っていない。中長期試算では綿密に金利に関する分析がなされているのにもかかわらずである。

内閣府の試算では、前述した追加財政支出は、毎年度実質ベースで10兆円と仮置きしている。でも、その財源は、天から降ってはこない。税収では足りなければ国債を発行せざるを得ない。国債発行額の試算結果は示されていないから、いくら増額になるかはわからない。

しかし、試算結果で公表されている財政収支対GDP比をみると、26年度は1.5%程度の赤字だが、40年度には約4%の赤字へと、赤字が拡大し続けている。財政赤字対GDP比が拡大しているということは、分母のGDPは前述のように増え続けるが、それ以上に財政赤字が増えているということだ。

財政赤字が増えているのに、なぜ国・地方の公債等残高対GDP比は安定的に低下し続けるのか。

財政収支の定義に即せば、財政収支赤字=PB赤字+利払い費である。利払い費が増えれば、財政収支赤字は増える。ただ、PBが黒字ならば、それは国・地方の公債等残高対GDP比は低下要因となる。

現に、内閣府が示した成長戦略実現ケース①では、PBは28年度以降継続して黒字が増え続けており、40年度には対GDP比で1%近くの黒字となっている。

だから、財政収支赤字対GDP比が拡大しても、PB対GDP比の黒字が拡大し続けることで、国・地方の公債等残高対GDP比は安定的に低下し続けるという試算結果になる。ただ、財政収支赤字対GDP比が拡大する裏側では、利払い費が拡大し続けていることを意味する。

では、成長戦略実現ケース①では、どのような金利想定になっているか。内閣府は、本稿執筆時点でなぜかいっさい公表されていない。やましいことでもあるのだろうか。

内閣府が前提とする金利を割り出してみた

そこで、本稿では、その金利想定を探る。筆者は、本稿を執筆するにあたり、内部資料もインサイダー情報もいっさい持っていない。内閣府の実務担当者からの事前説明もいっさいない。あるのは、6月24日に公表された前掲資料のみである。

内閣府の試算結果は、名目経済成長率、国・地方の公債等残高対GDP比、PB対GDP比、財政収支対GDP比のグラフだけが示された。各年度の詳細な数値はない。そのため、筆者はPDFファイル上で物差しを当てておおよその数値を測った。これらの数値がわかれば、政府の予算制約式(歳入=歳出)から数値と整合的に算出できる金利が明らかとなる。

この金利は、予算制約式上の金利であって、市場での長期金利とは異なる。この金利で、前年度の国・地方の公債等残高対GDP比から今年度の国・地方の公債等残高対GDP比が割り出せるかも検算している。

その金利を示したのが、図1である。

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図1の赤線が、成長戦略実現ケース①と整合的な金利である。市場での金利が上昇したからといって直ちに既発債の利払費が増えるわけではない。各年度で新規発行する国債や、かつての低金利期に発行された国債が償還され借り換えられる国債によって次第に置き換わり、徐々に金利が上昇してゆく。

ただ、近年では年限をあらかじめ定めて発行する国債のほぼ半分は2年以下の国債だから、市場での金利が上昇すれば以前に比べて早く利払い費に影響する金利は上昇する。

図1の赤線をみると、30年度には2%を超え、34年度には3%を超えて、40年度には約4%にまで上昇すると見込んでいるようである。

ところが、中長期試算の本稿執筆時点での最新版である26年1月試算の成長移行ケースで、同じように金利を算出したのが、図の紫線である(試算は35年度まで)。成長戦略実現ケース①の赤線は、26年1月の中長期試算の成長移行ケースの紫線とほとんど変わらない。

「国債増発するのに、金利はほぼ同じ」という甘い想定

これをみると、成長戦略実現ケース①は甘い想定と言わざるを得ない。26年1月の成長移行ケースでも、先行きの経済について相対的に楽観的なシナリオである。それでも、金利上昇は織り込んでいた。

成長戦略実現ケース①は、26年1月試算の成長移行ケースよりも、前述した追加財政支出を出すために財政赤字を拡大させる、つまり国債をさらに増発することとなっている。さらに国債を増発するにもかかわらず、金利想定がほぼ同じというのは、都合のいい試算と言わざるを得ない。

しかも、成長戦略実現ケース①の試算では織り込まれていない国債の増発も予定されている。

成長戦略実現ケース①の試算では、危機管理投資・成長投資のための「新たな投資枠(高市首相はこれを『「強く豊かな日本」投資枠』と名付けた)」のうち、別枠管理する部分を、将来に確保する償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」の発行によって資金を確保しようとしている。まさに、この「つなぎ国債」は、成長戦略実現ケース①の試算では、財政赤字として織り込まれていない国債の増発である。

それまでも加わるわけだから、国債金利は1月試算の想定よりも上がることはあっても下がることはない。

そこで、筆者が成長戦略実現ケース①と整合的な金利(図1の赤線)よりも金利が0.5%ないしは1%上昇した場合の試算を行った。前述の通り、市場の金利が上昇しても遅れて予算制約式上の金利は上昇するから、直近の国債のデュレーションに近い7年後に成長戦略実現ケース①と整合的な金利よりも0.5%ないしは1%上昇すると仮定して試算した。金利が0.5%上昇した場合を図2の緑線、1%上昇した場合を図2の青線で表している。

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この金利上昇が、高市首相が気にする財政の持続可能性にどう影響するかをみよう。

金利が0.5%上ぶれれば、債務GDP比は反転上昇する

もちろん、金利が上昇すれば、民間経済にも投資の鈍化などの影響が及ぶが、ここでは名目成長率は変化しないと仮定する。金利が上がっても経済成長は鈍化しないが、財政面で利払い費が増えてそのぶん国・地方の公債等残高が減らせない(より大きく増える)という形で影響を測ってみよう。

繰り返すが、成長戦略実現ケース①では、高成長も寄与して、国・地方の公債等残高対GDP比が低下し続けるという試算結果だった。では、国債の増発が引き金になって、金利が0.5%ないしは1%上昇した場合その結果はどうなるか。

それをみたのが、以下の図3である。

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図3の赤線は、内閣府も示している成長戦略実現ケース①の試算結果である。しかし、金利が0.5%上昇した場合の緑線は、33年度までは低下し続けるが、その後に反転上昇している。金利が1%上昇した場合の青線は、31年度を底に反転上昇し、37年度には26年度の国・地方の公債等残高対GDP比を上回ってしまうのである。名目成長率が成長戦略実現ケース①で想定している水準を維持してもである。

これでは、財政運営の目標の中核と位置付ける国・地方の公債等残高対GDP比の安定的低下は、絵に描いた餅である。金利が少しでも上がると、高市首相が目指す経済成長と財政の持続可能性の両立は実現しないのである。

内閣府の成長戦略実現ケース①が、いかに微妙な金利と成長率の関係の上に成り立っているかがわかる。

名目成長が想定を0.5%下回れば、債務GDPは反転上昇

加えて、内閣府が示した試算結果をみると、成長戦略実現ケース①よりも各年度の名目成長率が0.5%前後低い成長戦略実現ケース②では、国・地方の公債等残高対GDP比が35年度以降反転上昇する結果が示されている。名目成長率が0.5%前後低下しただけでも、経済成長と財政の持続可能性の両立は実現しないのである。これを示したところに、内閣府の良心が垣間見える。

それでも、経済成長と財政の持続可能性の両立を目指したいのならば、まだ方法がある。それは、PBの黒字をもっと確保することである。

成長戦略実現ケース①の名目成長率が実現するとして、40年度における国・地方の公債等残高対GDP比を、内閣府も示している成長戦略実現ケース①の試算結果(図3の赤線)と同水準にするためには、金利が0.5%上昇した場合はPB黒字を対GDP比で追加して約0.7%増やせば(トータルで約1.5%)実現できる。

金利が1%上昇した場合はPB黒字を対GDP比で追加して約1.3%増やせば(トータルで約2.2%)実現できる。PB黒字の確保がいかに大切かがわかる。

PB黒字化目標を軽んじた結果、成長戦略実現ケース①で不十分にしかPB黒字を確保できず、ちょっとした金利上昇に直面しただけで、経済成長と財政の持続可能性が両立できないという羽目になる。

ついでにいえば、高市内閣の下で出された26年1月の中長期試算での成長移行ケースでの国・地方の公債等残高対GDP比は、図3の紫線である。これをみると、高市内閣はほぼ半年前の1月段階で35年度には160%近くまで低下するシナリオを見ていた。

それと比べると、日本成長戦略を踏まえた成長戦略実現ケース①の国・地方の公債等残高対GDP比の下がり方は、40年度でも170%近くまでしか下がっておらず、志の低さが露になっている。

PB黒字をもっときちんと確保しなければ、「日本成長戦略で経済成長と財政の持続可能性の両立可能」は望み薄である。

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