スズキがついに投入したEV「eビターラ」。国内のEVシェアが伸び悩む中、このクルマが注目される最大の理由は、その衝撃的な「価格」にあります。
補助金を活用すれば実質200万円台から購入可能という設定は、ハイブリッド車からの乗り換えを現実的にするものです。
なぜスズキはこれほど安くEVを作れたのでしょうか?
その秘密である電池の特性や、充電の注意点、ライバル車との詳細な価格比較について、カーライフ・ジャーナリストの渡辺 陽一郎さんが解説します。
EVが売れない日本市場を変える? スズキの「本気」と「安さ」
日本ではEV(エンジンを搭載しない純粋な電気自動車)の販売が低調です。2025年1~12月に国内で販売された乗用車のうち、EVの販売比率はわずか1.4%でした。ハイブリッド(マイルドタイプを含む)は47%でしたが、EVはほとんど売れていません。
EVが売れない背景には複数の理由がありますが、その筆頭は車種の数が少ないことです。トヨタは上級ブランドのレクサスを含めると、小型/普通車市場で50%以上の国内シェアを誇りますが、乗用EVはトヨタ bZ4Xとレクサス RZだけです。ほかの日本メーカーもEVには消極的です。
その中でスズキがEVの「eビターラ」を2025年に発表して、2026年1月から販売を開始しました。スズキ フロンクスなどと同様、インドで生産されるスズキ製の輸入車です。
2026年1月に発売された、eビターラのグレード別の車両本体価格は以下の通りです。
グレード
駆動方式
価格
X
2WD
399万3000円
Z
2WD
448万8000円
4WD
492万8000円
※国のCEV補助金(127万円/2025年度実績見込み)を活用すれば、Xは実質272万3000円、Z(4WD)でも実質365万8000円から購入可能です。
メインは欧州向け! それでも日本で発売するワケ
開発者にeビターラを最も多く販売する地域を尋ねると「ドイツ、フランス、イギリスなどの欧州です」と返答されました。欧州のEVをめぐる状況は急速に変化していますが、それでも一番力を入れている地域です。
そこでeビターラも、生産総数のうち、70%前後は欧州で売るようです。インドなども含まれるため、eビターラの生産総数に占める日本の販売比率は10%程度でしょう。
それなら日本では、eビターラはどのような人達に売れているのでしょうか。
販売店に尋ねると「スズキの関係者が多く、それ以外は輸入車を所有する方を含めて、さまざまなお客様が興味を示されています。日産 リーフを所有するお客様もおられます」とのことです。
実は「国内2位」の大メーカー! だからこそEVが必要だった
スズキは、軽自動車メーカーの印象が強いですが、今の国内販売状況を見ると22%を小型/普通車が占めています。
スズキは2025年1~12月に、1か月平均で約1万3400台の小型/普通車を登録しており、この売れ行きは、マツダ、三菱、スバルの国内販売総数を上まわります。主力の軽自動車まで含めると、スズキの国内販売台数は、トヨタに次ぐ2位です。
国内の大規模メーカーであり、企業別平均燃費方式による2030年度燃費基準を達成するためにも、二酸化炭素を含めた排出ガスを生じさせないEVの導入が不可欠でした。スズキよりも国内販売台数の少ない日産やホンダが既にEVに取り組んでいることを考えると、スズキは対応が遅かったともいえます。
安さの秘密は「電池」にあり! メリットと弱点を解説
eビターラの開発者に特に重視した点を尋ねると「お客様の意見を聞いて、欠点を感じさせないクルマにすることを目指しました」と返答されました。日産リーフの開発者も、同様のことを述べています。
「欠点を感じさせないEVにすること」を重視する背景には、初代リーフの評判があります。
初代リーフが発売された時のリチウムイオン電池は、総電力量が24kWhと少なく(現行リーフは55kWhと78kWh)、しかも劣化が進みやすい傾向にありました。そのために購入して数年を経ると「1回の充電で100kmを走れない」と指摘されました。
この後、リチウムイオン電池などの改善が行われ、2代目(先代)リーフの後期型からは、航続可能距離の不満も大幅に解消されました。それでも悪評は消えず、今でも「EVは数年を経ると走れる距離が短くなる」といわれます。
このようなエンジン車と比べた時の欠点は、販売低迷に直結するため、eビターラ、リーフともにリチウムイオン電池の性能には十分に注意しています。
eビターラが使うリチウムイオン電池は、「リン酸鉄」と呼ばれるタイプです。三元系リチウムイオン電池に比べてバッテリーの寿命が長く、発火を抑える安全性も優れ、価格は割安といわれます。
その代わり、リン酸鉄は三元系に比べてエネルギー密度が低いです。そのために総電力量、つまり電池容量が同じなら、リン酸鉄は電池のサイズが三元系よりも大きく、重くなります。
急速充電は苦手? 購入前に知っておきたい充電の注意点
eビターラの取扱説明書には「頻繁な急速充電は避ける」という注意書きがあります。開発者は「(バッテリーの劣化を防ぐために)1か月に一度は、普通充電によって100%まで充電して欲しい」とコメントしました。急速充電器では80%までの充電なので、普通充電で満充電にするわけです。
そうなるとマンションなどに住んでいて、自宅に普通充電の設備がなく、急速充電に頼るユーザーはeビターラを所有しにくくなります。
ただ、近年は商業施設などでも普通充電器(200V)の設置が増えています。自宅外でも、長時間駐車するついでに充電できる環境があれば、運用のハードルは下がります。
【価格・スペック比較】 eビターラ 上級グレード「Z」をリーフ 上級グレード「B5 G」と比較
eビターラの価格はスペックに対して割安です。eビターラ 「Z」グレード(2WD)は、リチウムイオン電池の総電力量が61kWhで、1回の充電によりWLTCモードで520kmを走行できます。
さらに装備も充実しており、衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能に加えて、後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットモニター、運転席の電動調節機能、ガラスルーフ、インフィニティ・プレミアムサウンドシステム、電力消費量を抑えるヒートポンプ式の空調システムなども採用しています。
装備は「リーフ上級グレード」と同等以上! それでも補助金込みで実質321万8000円と割安
eビターラ Zは、これだけの性能と充実装備を兼ね備えながら、価格は448万8000円です。国から交付される補助金額の127万円を差し引くと321万8000円です。
ライバルとなる日産 リーフ 55kWhの上級グレード「B5 G」と、スペックや価格を比較すると以下のようになります。
eビターラ Z
リーフ B5 G
電池容量
61kWh
55kWh
航続距離
520km
469km
車両本体価格
448万8000円
564万8500円
CEV補助金
▲127万円
▲129万円
実質購入価格
321万8000円
435万8500円
リーフ「B5 G」グレードはeビターラ Zと同等の装備を採用しています。
eビターラ Zは、リーフ B5 Gに対して電池容量と航続距離(+51km)で上回っているにも関わらず、車両本体価格は116万円以上も安く設定されています。
補助金を差し引いた「実質価格」で見ても圧倒的な差があり、装備内容が同等であることを踏まえると、eビターラは明らかに購入しやすいです。
【価格・スペック比較】eビターラ エントリーグレード「X」をハイブリッド車と比較
eビターラで安さをさらに重視するなら「X」グレードがあります。
運転席の電動調節機能、ガラスルーフ、インフィニティ・プレミアムサウンドシステムは省かれますが、安全装備や運転支援機能に差はありません。
eビターラ Xのリチウムイオン電池は、総電力量がZよりも小さい49kWhで、1回の充電で走れる距離も433kmなのでZに比べて87km短いです。
eビターラ「X」とヤリスクロス「ハイブリッドZ」を比較
人気のコンパクトSUV、トヨタ ヤリスクロス の「ハイブリッドZ」グレードと価格を比較してみましょう。
eビターラ X
ヤリスクロス HEV Z
パワートレーン
電気自動車
ハイブリッド
車両本体価格
399万3000円
288万7500円
CEV補助金
▲127万円
対象外
実質購入価格
272万3000円
288万7500円
eビターラ Xの価格は399万3000円で、国から交付される補助金額の127万円を差し引くと実質272万3000円です。この金額はヤリスクロス ハイブリッドZの288万7500円よりも少し安いです。
この背景には、先に述べた「お客様の意見を聞いて、欠点を感じさせないクルマにすることを考えました」という開発者の考え方があります。
補助金を含めると、価格を割高に感じさせず、ユーザーが同サイズのハイブリッドと同じ感覚で購入できるように配慮しているのです。
【参考】価格配慮は他社も同様! bZ4X「Z」とプリウス「Z」の比較
この発想は、bZ4Xが2025年10月に実施したマイナーチェンジと同様です。bZ4X「Z」(2WD)グレードは、マイナーチェンジで、1回の充電で走れる距離を従来型の1.3倍に相当する746kmに拡大しながら、価格は50万円値下げして550万円に抑えました。
これを、同じトヨタの人気ハイブリッド車「プリウス Z」と比較してみましょう。
項目
bZ4X Z (EV)
プリウス Z (HEV)
車両本体価格
550万円
387万500円
主なオプション
標準装備
約30万円※
CEV補助金
▲130万円
対象外
実質購入価格
420万円
約417万円
※プリウスには、bZ4Xで標準のパノラマルーフやデジタルキーなどをオプション装着した場合の概算。
bZ4X Zの国から交付される補助金額は130万円なので、この金額を550万円の価格から差し引くと420万円です。人気のハイブリッド車となるプリウス Zグレードは387万500円で、bZ4X Zが標準装着するパノラマルーフやデジタルキーをオプション装着すると、購入価格がbZ4X Zとほぼ等しくなります。
このように今のEVは、eビターラ、リーフ、bZ4Xまで、全車が「ほかのカテゴリーと比べて欠点を感じさせないクルマにすること」、つまり1回の充電で走れる距離を伸ばし、補助金を差し引くと売れ筋のハイブリッドと同等の価格になることを目指して開発されています。
eビターラはこんな人におすすめ
結論として、eビターラは「EVに興味はあるけれど、価格の高さや電池の寿命が心配で踏み出せなかった人」にとって、間違いなく有力な選択肢です。
特に以下のような条件に当てはまるなら、購入を検討しても良いでしょう。
eビターラをおすすめする人
・自宅に充電設備(または設置可能な環境)がある人
・普段は通勤や買い物など、近~中距離の移動がメインの人
・最新のEVをヤリスクロスなどのハイブリッド車と同じ予算で手に入れたい人
ハイブリッド天国の日本において、eビターラはその常識を覆す安さと使い勝手の良さを持った、EV普及の起爆剤となるクルマです。








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