ドイツの総債務がビッグ7の中で最も低位に留まっている理由とは?(写真:sweettomato/PIXTA)
「誰が借金を背負うか」によって国家の命運は劇的に分かれる。政府債務で家計を支える日本、他国の借金で潤うドイツ、そして企業融資で爆走した中国。主要国のバランスシートを分析すれば、それぞれの国が選んだ「成長の代償」が浮き彫りになる。私たちは、終わりのない「負債の階梯(かいてい)」を上り続けるしかないのか。このたび刊行されたリチャード・ヴェイグ著『世界は負債で回っている』をもとに、異なる3つの道とその先に待ち受ける危うい未来を解剖する。
「ビッグ7」が進める異なる3つの成長パス
現代の世界経済を理解する鍵は、主要国の「バランスシート」にある。
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アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、フランス、インドのいわゆる「ビッグ7」は、世界全体のGDPの約3分の2、世界全体の債務の75%を占めている。
これらの国々は、決して同じ道を歩んでいるわけではない。それぞれの国は、意識的か無意識的かを問わず、独自の経済運営の「モデル」に従っている。
筆者が提唱する「負債の経済学」の視点に立てば、家計の純利益と純資産を押し上げるための戦略は、大きく3つのモデルに集約される。
それは「政府債務と支出モデル」「純輸出モデル」、そして中国特有の「企業債務と支出モデル」である。
どの部門が最大の損失を計上し、それによってどの部門の利益を支えているかを知れば、その国の経済構造の本質が見えてくるのだ。
ビッグ7のうち5か国(アメリカ、イギリス、フランス、インド、日本)が採用しているのが、「政府債務と支出モデル」である。
これは、政府が赤字を計上し、その支出が家計や企業の純所得を押し上げるという枠組みだ。
このモデルの「未来」を先取りしているのが日本である。日本はビッグ7の中で総債務が最高水準にあり、その主役は民間債務から公的債務へと入れ替わった。
1980年代後半、日本は異常なペースの民間融資によって不動産と株式のバブルに沸いた。
しかし、1990年代初頭の崩壊後、日本は「失われた数十年」と呼ばれる停滞期に突入した。民間部門が債務削減(デレバレッジ)に走る中で、政府は巨額の財政出動を繰り返し、民間債務がもたらす損失を政府債務で相殺してきたのである。
日本の教訓は、一度債務が異常な高水準に達すると、債務の増加が資産価値を押し上げる力が低下するという「収穫逓減」の事実を示している。
今や日本は、政府債務の増加によって家計所得を底上げし、中央銀行による資産買い入れで金融市場を下支えし続ける、ありがたくない「先駆者」となったのである。
ドイツの「独り勝ち戦略」に忍び寄る影
一方、ドイツは全く異なる「純輸出モデル」を武器にしてきた。アメリカなどとは対照的に、ドイツで最大の純損失を計上しているのは「海外(世界のその他の国・地域)」である。
ドイツの貿易相手が巨額の純損失を計上し、不足分を借金で賄うことで、ドイツの民間部門は国内の債務増加に頼ることなく、潤沢な利益と成長を享受してきた。
これがドイツの総債務がビッグ7の中で最も低位に留まっている理由である。
しかし、この「独り勝ち」の戦略には危うさがある。ドイツの繁栄は、他国の借金と、そして近年の中国による爆発的な需要に支えられてきた。
2022年以降、エネルギーコストの上昇や地政学的リスク、そして中国の成長鈍化が顕在化する中で、ドイツの貿易上の優位は揺らぎ始めている。
もし輸出が減退すれば、ドイツもまた、アメリカや日本のように巨額の政府支出と債務増加に依存する道を選ばざるを得なくなるだろう。
中国が陥った「企業債務と支出の罠」
中国の戦略は、世界でも類を見ないほど特異である。政府債務でも純輸出でもなく、非金融企業部門の巨額の損失と債務に依存して家計所得を押し上げる「企業債務と支出モデル」を採用しているからだ。
中国の非金融企業、とりわけ不動産ディベロッパーは、健全な与信基準を逸脱した融資を受け、膨大なビルやインフラを建設し続けてきた。
その過程で支払われる給与が家計所得を高め、GDPを急成長させたのである。その象徴が、3000億ドルもの負債を抱えて破綻した「恒大集団」である。
このモデルの結果、中国全土には数千万戸から1億戸に及ぶ「空き家」が放置されることとなった。人口減少が始まっている中国において、これらの過剰な供給が合理的な期間内に解消される見込みは薄い。
中国の政策立案者は、企業債務への依存を減らそうと試みているが、それはそのまま家計所得の減速とGDP成長の鈍化を意味する。
中国がこの「罠」から脱するには、中央政府が債務を肩代わりして大胆な財政出動を行うか、あるいは前例のない規模の債務救済に踏み切るしかない局面に立たされている。
「負債なしの成長」はありえるのか
理論上は、企業や個人が互いに稼ぎの範囲内で売買する「自己完結型民間部門モデル」も考えられるが、歴史上、このモデルで持続的な成長を遂げた国は存在しない。
現代の経済システムにおいて、GDPの成長は新たなマネーの創出に依存し、そのマネーは新たな負債によってのみ生み出される。
つまり、私たちは「借金による成長」という、終わりのない負債の階梯(かいてい)を上り続ける宿命にあるのだ。
各国のモデルが異なるのは、誰がその負債の重荷を背負い、誰がその果実を手にするかという「配分」の違いに過ぎない。政府、企業、家計、あるいは海外。どこかの部門が借金を積み上げなければ、経済は回り続けないのである。
債務は経済を繁栄させる「創造者」であるが、行き過ぎれば「破壊者」へと変貌する。
私たちが向き合うべきは、借金をゼロにすることではなく、この負債がもたらす「格差」と「過剰」という不都合な真実を直視し、破局を防ぐための新たな舵取りを見出すことなのである。
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リチャード・ヴェイグ 実業家、元・米ペンシルバニア州銀行・証券局長官



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