なぜロシアはウクライナに侵攻したのか ソ連崩壊の裏にあった10年にわたる「秘密工作」 | きばいやんせ!鹿児島

なぜロシアはウクライナに侵攻したのか ソ連崩壊の裏にあった10年にわたる「秘密工作」

image

ロシアのプーチン大統領(写真/代表撮影/ロイター/アフロ)

 1980年代、世界最強の超大国だったソ連は、なぜ崩壊したのか。社会主義の失敗が背景にあると語られることが多いが、その裏では米国と西側諸国による知られざる秘密工作が進行していたという。なぜロシアは西側への対抗を強め続けるのか。その原点となった冷戦の舞台裏とは。ソ連崩壊からプーチン政権の誕生、そしてウクライナ侵攻に至るまでを「スパイと情報戦」という視点から読み解いた朝日新書『世界を変えたスパイたち』(春名幹男)から、一部抜粋して紹介する。

*  *  *

はじめに

 日本ではソヴィエト連邦(ソ連)崩壊は社会主義が失敗した当然の結果、とみられてきた。実はその裏で、米国が対ソ連秘密工作を仕掛けていた事実はまったく知られていなかった。「Google Scholar」で検索しても、そうした研究論文や著作はまったく見当たらない。

 それではソ連はなぜ、どのようにして崩壊したのか? そしてその31年後、ロシアはなぜウクライナを侵攻したのか?

 本書(『世界を変えたスパイたち』)はこれら二つの疑問を解くことに集中した。そのため米国とソ連・ロシアの「主役」たちや舞台裏で蠢くスパイたちの動向を徹底追及してきた。

 振り返れば、世界の大変動が始まったのは1981年だったと判断できる。

 この年、先進国では2人の大統領が誕生した。フランスのフランソワ・ミッテラン大統領と米国のロナルド・レーガン大統領である。この2人がソ連に対する秘密工作で協力し合い、世界を変えたことは、日本では知られていない。

 ミッテランは社会党で、大統領選挙で協力した共産党員4人を閣僚に任命した。左派の大物政治家である。対するレーガンは元俳優で、カリフォルニア州知事を経て、現職のリベラル派で正直者と言われたジミー・カーター大統領を破った。保守の対ソ連強硬派だ。

 その2人が7月のカナダ・オタワでの先進国首脳会議(サミット)で初めて顔を合わせた。信じられないかもしれないが、2人はその場でソ連に対する強硬策で一致した。

 事前に計画があったわけではないが、2人を結び付けたのは、当時世界最大のソ連情報機関、国家保安委員会(KGB)の秘密工作員(スパイ)だった。彼はフランス情報機関にリクルートされ、KGBが西側先進国から大量のハイテク技術をひそかに獲得している、との極秘情報が記された文書をフランスのスパイに渡していた。

 ミッテランは、フランス情報機関が得たこの機密情報の概要を初対面のレーガンに伝え、米国はソ連を出し抜く巧みな秘密工作を練り上げた。レーガン政権による対ソ連秘密工作はそれ以後約10年間にわたった。時期的には重なるが、次の四つの工作でソ連は消耗し、1991年に崩壊する。

 第一期 ソ連が西側先進国から得たハイテク技術に細工を施して、ソ連を混乱に陥れた
 第二期 ソ連のアフガニスタン侵攻に対してイスラム戦士を動員し、戦わせた
 第三期 米戦略防衛構想(SDI)は技術的確証なく、ソ連に財政負担を強いる狙い
 第四期 石油増産で価格を急落させ、ソ連の外貨収入を激減させた

 ミッテランとレーガンの出会いは、ソ連崩壊に向けた第一歩を印した。その裏でスパイたちが世界を動かしたのである。

プーチンの報復

 それ以後の激しい展開に、世界は今も「なぜだ?」と首をかしげているかもしれない。

 1991年に「ソ連崩壊」で東西冷戦が終わり、一時的に世界は平和になった。にもかかわらず、21世紀は新たな冷戦の時代に入り、スパイたちの攻防がより激化した。

 ソ連を引き継ぎ、クレムリン宮殿を本拠にするロシアは、かつてKGB工作員だったウラジーミル・プーチンが大統領になって以後、反欧米の攻勢を強め奇手を繰り出してきた。

  • 2016年、英国の欧州連合(EU)からの離脱をめぐる国民投票で「賛成」をひそかに後押しした。
  • 同年の米大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプ陣営をテコ入れし、元側近の故エフゲニー・プリゴジンが運営する民間の情報機関を使って、プーチンが望むトランプ当選に向けて情報工作を展開、米国社会を「分断」させた。
  • ウクライナ侵攻は、米軍および米中央情報局(CIA)がウクライナを味方に取り込んだことに対して、ロシアがウクライナを取り戻そうとして起きた。侵攻前に、米露のスパイたちの暗闘があったことは日本ではほとんど知られていない。
  •  プーチンは対西側情報工作や軍事作戦は、「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大」に対する対抗策だと何度も示唆している。現実に西側は、ソ連の崩壊に続き、NATOを東方へ拡大させた。ソ連を崩壊させNATOを拡大した西側に対して、プーチンが報復しているのだ。

     プーチンの意図は、ソ連が抱えた弱点を敢然と修正した彼の施策からもよく分かる。

     ソ連が崩壊した原因は明らかだ。石油・天然ガスなどの天然資源の輸出で外貨を稼ぎ、その外貨で食料を輸入して国民生活を維持するという脆弱な経済体制を衝かれたからだ。

     プーチンはその弱点を修正した。石油輸出では石油輸出国機構(OPEC)側に付いて「OPECプラス」の一員となり、石油価格の操作に自ら関与してきた。食料供給では小麦輸出量が世界一となり、自国での消費に加え、「グローバル・サウス」の国々にも輸出、友好国を増やすことに成功した。

     イランと北朝鮮には武器を供給させた。特にミサイル技術などで援助する北朝鮮との関係は緊密の度を加えている。次に、北朝鮮が米国東海岸に到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術的完成に向けてどれほどの技術援助をするか、注目されている。

     習近平が国家主席に就任して以後の中国はロシアに加勢し、対米秘密工作を強化している。中国はすでに、CIA要員も含めて、米国民の約半数の個人情報を掌握した。

     2015年には、中国のハッカー攻撃で米連邦政府人事管理局(OPM)のデータベースから、2210万人の現職・元職の連邦職員などの情報が盗まれた。2017年には米大手調査会社から米国民1億4500万人の個人情報や企業情報が流出した。この事件では、アトランタの連邦大陪審は2020年、中国人民解放軍「第54研究所」所属の中国人ハッカー4人を起訴した。両事件の被害者を合わせると、1億6710万人で、2020年の米国の総人口3億3100万人の半数を上回る。本書では米中スパイ戦争の現状にも少し触れる。

     今や世界を分断して影響力を競いあう東西冷戦の時代が復活してしまった。米中露が直接衝突すれば核戦争の危機が高まる。同時に、スパイ同士のせめぎ合い、情報戦争がさらに激しくなりそうだ。

    (朝日新書『世界を変えたスパイたち』から一部抜粋)

    【AERA Books MEMO】
    春名幹男『世界を変えたスパイたち』
    冷戦終結の真実、レーガンの戦略、トランプ大統領の秘密、ウクライナ侵攻の次は……。世界を揺るがす事件の裏側には、必ず“スパイ”が暗躍している。ソ連崩壊の真相を初めて暴露! 情報機関の裏側に迫る。

    コメント