ついに1986年の水準まで下落した「円」、状況は当時よりも危うい | きばいやんせ!鹿児島

ついに1986年の水準まで下落した「円」、状況は当時よりも危うい

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日本はこの40年間、1986年を忘れようとしてきた。だが、円相場はアジア2位の経済大国をその年へと引きずり戻した。日本でそれを喜んでいる人はほとんどいない。

6月29日、円相場は1ドル=161.95円を下回り、1986年12月以来39年半ぶりの円安水準に下落した。1986年と言えば、バブル期の日本を題材にした映画『ガン・ホー』や、トム・クルーズの出世作となったオリジナルの『トップガン』が劇場公開された年だ。当時、日本は前年の「プラザ合意」による余波に揺れていた。ニューヨークのプラザホテルで結ばれたこの合意を機に円は急騰し、その影響で日本経済は1986年第1四半期にマイナス成長に沈んだ。

ただし、当時と現在は方向が逆だ。1986年はドルが急落し、円が急騰していた局面だが、いまはドルが急騰し、円が急落している。そして多くの点で、2026年の円安は1986年の円高よりも危険である。理由はインフレだ。日本は現在、生活水準を大きく圧迫するかたちで急速にインフレを輸入している。

プラザ合意はたしかに「ニッポン株式会社」を大きく揺さぶった。円相場は1ドル=242円から153円前後まで跳ね上がり、輸出依存型の経済に深刻な打撃を与えた。それはのちに「失われた10年」と呼ばれることになる長期停滞の下地をつくった。日本銀行は経済成長が腰折れしないように積極的に金融緩和を実施したが、その結果、資産バブルが膨らみ、のちにはじけた。

だが、日本が現在立たされている苦境はもっと深刻だ。日本経済はスタグフレーション(景気停滞下のインフレ)に陥っている。日銀によれば、2026年の実質国内総生産(GDP)成長率が0.5%にとどまる見通しである一方、政策要因を除いた4月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比2.8%上昇している。つまり、成長率は物価上昇率の5分の1足らずだ。イランをめぐる紛争がくすぶり続けるなか、日本はその影響を非常に受けやすい立場にある。米国とイスラエルがイランを攻撃する前、日本は原油の95%を中東から輸入していた。しかも、いまは価値がますます下落している通貨でそれを賄わないといけない。

こうした状況は、日銀と高市早苗首相率いる政府をともにジレンマに追い込んでいる。対処すべきは「スタグ(景気停滞)」か、それとも「フレーション(物価高)」か。高市政権は前者を重視し、景気を浮揚させたがっている。一方、日銀の植田和男総裁は後者に傾注し、物価上昇率を2%の目標まで引き下げようとしている。

日本政府にとって最も大きな懸念事項のひとつは、実質賃金が2025年度も前年度から減り、4年連続でマイナスとなっていることだ。月ごとの統計には多少の振れがあるものの、傾向ははっきりしている。日本の現下の賃金環境では、GDP成長率を2%超へ押し上げるだけの個人消費を生み出せそうにない。

円相場が1986年の水準まで下落したことは、こうした不安をさらに強めている。市場では、財務省・日銀が円安を食い止めるため再び為替介入に動くのではないかという噂が飛び交っている。だが、為替介入は対症療法にすぎない。日本は人口が減少するなかで、依然としてGDP比で200%超という世界最大級の公的債務を抱えている。

円安の進行は心理的にも家計に消費よりも貯蓄を選ばせる理由になる。他方、最近7万2000円を突破し、その後7万円を割り込んだ日経平均株価についても、ファンダメンタルズ(基礎的条件)から乖離して高騰しているのではないかという疑問が生じている。円建て資産への強気な見方はなお根強いものの、経済動向の基調を踏まえると、その楽観論は行き過ぎている可能性もある。

もっとも、日本株は足元でもまだ米国株ほど割高ではない。また、自由民主党政権がこの10年ほど取り組んできたコーポレートガバナンス(企業統治)改革と自己資本利益率(ROE)向上は、ようやく実を結びつつある。

とはいえ、株価の上昇を持続させるために必要な改革はまだ道半ばだ。日本の資本市場改革は一段と強化していく必要がある。2026年上半期の新規株式公開(IPO)件数は過去15年で最少となり、上昇相場が途切れずに続くと信じる投資家に警告のサインを発した。

同じことは日本経済全体についても言える。日本経済に詳しい専門家の間でも、27年にわたりゼロ近辺ないし1%に抑えられてきた政策金利は、メリットよりもデメリットのほうが大きかったと認める声が増えている。超低金利で調達できる「フリーマネー」は、日本のアニマルスピリットを蘇らせるどころか鈍らせてしまった。規制緩和、能力主義に基づく労働市場の構築、スタートアップの育成、生産性の向上、男女間の賃金格差縮小、シンガポールや香港に集まる多国籍企業に東京への拠点移転を再び検討してもらうこと──こうした改革を急ぐ切迫感も失わせた。

ゼロかそこらの金利は企業経営者も甘やかしてきた。チープマネーで楽に現状維持を続けていけるのなら、どうして痛みを伴う事業再編を断行したり、イノベーションに精力を注いだりする必要があるのか。

コーポレートガバナンス改革は日経平均の最高値更新に寄与したが、収益性の改善だけでは、日本企業が中国企業に市場シェアを奪われる流れを止めることはできない。また、1980年代にニッポン株式会社が世界のライバル勢に挑んだように、中国電気自動車(EV)の比亜迪(BYD)やAI(人工知能)のDeepSeek(ディープシーク)に立ち向かう原動力にもならない。日本は中国のEV攻勢やAIの飛躍にも、あるいは世界的な半導体競争にも、成功する見込みのある対抗策をいまだに持ち合わせていない。
日本を世界のテクノロジーと金融の頂点へ押し上げた1980年代半ばの勢いが多少なりとも戻るのなら、それはある意味、歓迎すべきことだろう。しかし、現在の円安は違うメッセージを発している。投資家は、日本政府には解決しなくてはいけないはるかに大きな問題がいくつもあると考えているのだ。

William Pesek | Contributor

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