「日本最後の砦」自動車産業の異変
一時はキオクシアやソフトバンク、MUFGに逆転されたものの、この記事の執筆時点では、トヨタが日本企業の時価総額トップの座を取り戻しています。
イラン紛争の発生以降、世界ではガソリン価格が高騰し、BEV(電気自動車)のシェアが拡大しています。そんな逆風のなかでも、トヨタは今年、3兆円規模の純利益を稼ぐ見込みです。
トヨタ自動車の豊田章男会長 Photo/gettyimages
日本企業として見れば、まさに圧倒的な収益力です。
しかし世界に目を向けると、いまやトヨタが1年間かけて稼ぐ利益を、わずか1ヵ月で叩き出す企業が複数登場しています。
まず、日本の製造業の現状から見てみましょう。
とりわけ厳しいのが日産
円安が続いているにもかかわらず、国際競争力を落としてきた半導体や電気製品の輸出額は、それほど伸びていません。
いま日本最大の輸出産業となっているのが、自動車を中心とした輸送機器です。日本の輸出全体のおよそ25%を占めています。
日本は現在も世界有数の自動車輸出国です。日本自動車工業会によると、2024年には約422万台を輸出しました。
一方、BEV(電気自動車)を主力とした中国は2025年に約710万台を輸出し、さらに差を広げています。
イラン紛争以降、ガソリン価格が世界的に高騰しました。その一方で、欧州や東南アジア、オセアニアではBEVへの需要が堅調に推移しています。
この追い風を受け、中国の自動車輸出台数は今年、1000万台を超えるとの見方も出ています。
欧州では、日本メーカーのシェアはすでに中国メーカーに逆転されました。
さらに、これまで日本車の牙城だった東南アジアやオセアニアでも、BEVの普及によって日本メーカーはシェアを落としています。中東向け輸出も大きく減少しており、日本の自動車大手は今年、軒並み減益を予想しています。
とりわけ厳しいのが日産です。
基幹工場の一つである追浜工場の閉鎖に加え、万人単位のリストラまで発表しています。
そのなかで、なお圧倒的な強さを見せているのがトヨタです。
通年の販売台数こそ前年を下回る可能性がありますが、グループ全体では1000万台以上の販売を維持し、増収も確保する見込みです。
純利益についても前年を下回るとはいえ、2026年度で3兆円のラインを守ると見られています。
日本企業として考えれば、3兆円という利益は途方もない金額です。
ところが海外には、その「トヨタの年間利益3兆円」を、ほぼ毎月稼いでしまう企業が現れています。
3ヵ月で9兆円を稼ぐ
その代表が、世界最大級の時価総額を誇るエヌビディアです。
エヌビディアはもともと、ゲームなどのCG処理に使われるGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を手掛ける企業でした。
その運命を一変させたのが、ここ4年ほどで爆発的に普及した生成AIです。
Photo/gettyimages
生成AIの開発には、膨大な計算処理が必要になります。その処理を担う高性能GPU市場でエヌビディアが圧倒的な地位を築いたことで、売り上げも利益も文字通り桁違いに膨らみました。
ちょうどこの原稿の執筆時点で、エヌビディアは2026年第2四半期(5~7月)の決算を発表しています。
3ヵ月間の売上高は約960億ドル、約15.3兆円。前年同期比で約106%増と、2倍以上に膨らみました。
さらに驚くべきは純利益です。
約600億ドル、約9.5兆円。こちらも前年同期比で約126%増となりました。
つまり、3ヵ月間で9兆円以上の利益を稼いだことになります。
単純計算すれば、1ヵ月あたり約3兆円。
日本で最も稼ぐ企業であるトヨタが1年間かけて得る利益を、エヌビディアはほぼ1ヵ月で稼いでいるわけです。
しかも、成長はここで終わりそうにありません。
エヌビディアはこの決算発表で、来年度に向けて売上をさらに70%伸ばす見通しを示しました。
事前に予想されていた45%増を大きく上回る内容で、市場もこれを好感しています。
粗利率については、今期の75%からいったん71~72%まで低下し、その後、来年にかけて72~73%に回復する見通しです。
ただ、粗利率が数%動くことよりも、売上そのものが70%増えるインパクトのほうがはるかに大きい。
このペースが続けば、来年以降、エヌビディアが「1ヵ月で5兆円」の純利益を稼ぐことすら、決して荒唐無稽な話ではありません。
そして、怪物企業はエヌビディアだけではありません。
「巨額の富」は誰に渡っているのか…?
もう一つの例が、韓国のサムスン電子です。
トヨタはかつて、アジア企業で最大の時価総額を誇っていた時期もありました。しかし現在では台湾のTSMCがその座を安定して占め、サムスン電子もアジアを代表する巨大企業となっています。
サムスン電子は、Androidスマートフォンの製造から、「ファウンドリー」と呼ばれる半導体の受託製造まで、幅広い事業を展開しています。
なかでも、現在の圧倒的な稼ぎ頭がメモリ半導体です。
生成AIブームの初期には、AIを「学習」させるための計算能力が必要とされ、エヌビディアのGPU需要が爆発しました。
しかし生成AIを実際に使う人が増えるにつれ、今度はAIが質問に答えたり画像を生成したりする「推論」の需要が急増しています。
そこで重要性を増しているのがメモリです。
この1年ほどでAI向けメモリ需要は一気に膨らみ、その影響はAI以外の分野にも波及しました。メモリ価格そのものが上昇し、サムスン電子や韓国のSKハイニックス、米国のマイクロンなどの業績と株価を押し上げています。
そして、このAI半導体ブームがもたらした衝撃は、企業の利益だけでは終わりません。
サムスンでは、ある事業部の社員たちに、日本の大企業ではほとんど考えられないほど巨額のボーナスが支払われることになりました。
一方で、別の事業部では、その100分の1近い水準にとどまるケースもあります。
さらにエヌビディアでは、自社株の高騰によって、普通の会社員だったはずの従業員たちが「超富裕層」へと変貌しているともいわれています。
生成AIが生み出した巨額の富は、いったい誰の手に渡っているのか。
そして、日本の製造業と働く人々との間には、どれほどの「富の格差」が開き始めているのでしょうか。
後編『ボーナス「7000万円」って…!世界で「毎月3兆円」を稼ぐ企業に生まれた社員格差「100倍」の衝撃と「異次元の分配」のヤバすぎる中身』では、その驚くべき実態を見ていきます。


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