フェルメール『真珠の耳飾りの少女』、描かれているのは一体誰? | きばいやんせ!鹿児島

フェルメール『真珠の耳飾りの少女』、描かれているのは一体誰?

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「名画」と呼ばれる絵画には、思わず誰かに話したくなるような物語が存在します。本記事では、世界中の名画の“裏話”を紹介した『ムンクは何を叫んでいるのか?』(井上馨 著/サンマーク出版 刊)から、一部を編集・抜粋してお届けします。

この少女は誰? 『真珠の耳飾りの少女』(1665年頃)

作者:ヨハネス・フェルメール/所蔵:マウリッツハイス美術館
  • 『ムンクは何を叫んでいるのか』(サンマーク出版)<br>写真提供:Bridgeman Images/アフロ

    『ムンクは何を叫んでいるのか』(サンマーク出版)
    写真提供:Bridgeman Images/アフロ

  • こちらを振り返る少女。潤んだ瞳、わずかに開いた唇、そして耳元で静かに光る真珠。世界で最も有名な肖像画の1つであり、「北方のモナ・リザ」とも呼ばれるこの作品を、見たことがある人は多いだろう。

    しかし、この少女が誰なのか、知っている人はどれくらい、いるだろうか。

    肖像画というからには、モデルがいるはずだ。フェルメールの娘だろうか。それとも恋人だろうか。あるいは、裕福な商人の令嬢が依頼して描かせたのだろうか。この印象的な眼差しの持ち主は、一体誰なのか。答えを言おう。

    彼女は、誰でもない。これは特定の人物を描いた肖像画ではないのだ。

    この作品は「トローニー」と呼ばれるジャンルに分類される。トローニーとは、特定の誰かではなく、ある特徴やタイプを持った想像上の人物を描いた絵画のことだ。

    異国風の衣装を着た人物や、特定の表情を浮かべた人物など、画家の想像力から生まれた存在をトローニーでは描く。

    この絵の少女は、トルコ風のターバンを巻き、大きな真珠の耳飾りをつけている。どちらも当時のオランダでは「異国情緒」を感じさせるモチーフだった。

    彼女は実在の誰かではなく、フェルメールが思い描いた、理想の少女なのである。

    だからこそ、彼女の眼差しはこれほど神秘的なのかもしれない。現実の誰かではないからこそ、見る者それぞれが、彼女の中に何かを見出すことができる。

    ところで、この絵にはフェルメールの超絶技巧が隠されている。少女の耳元で輝く真珠を、よく見てほしい。拡大すると驚くだろう。この真珠の光は、わずか二筆で描かれているのだ。左上の明るいハイライトと、下側に映る白い襟の反射光。たったそれだけで、フェルメールは真珠の輝きを完璧に表現している。

    レオナルド・ダ・ヴィンチであれば、何千もの薄い絵の具の層を重ねて真珠を描いたはずだ。しかしフェルメールは、最小限の筆致で最大限の効果を生み出した。それがこの画家の凄みである。

    これほどの傑作が、かつて二束三文で売られていたことをご存じだろうか。

    1881年、この絵が最後にオークションにかけられた時、落札価格は「2ギルダー30セント」だった。現在の日本円にして、数万円である。

    なぜそんなことになったのか。当時、この絵は汚れがひどく、フェルメールの作品だと認識されていなかった。

    そもそもフェルメール自身が、長い間忘れられた画家だったのだ。

    19世紀にフランスの美術評論家トレ=ビュルガーによって「再発見」されるまで、フェルメールの名はほとんど知られていなかった。

    回顧展が開かれ、研究が進み、評価が高まり、現在では数百億円の価値があるとも言われている。

    誰でもない少女が、世界で最も愛される少女になった。

    忘れられた画家が、巨匠と呼ばれるようになった。

    この絵の物語は、美術の世界がいかに移ろいやすいかを、物語っている。

    Summary
    『真珠の耳飾りの少女』は特定の人物の肖像画ではなく、作者が想像して描いた理想の少女。

    『ムンクは何を叫んでいるのか?』(井上馨 著/サンマーク出版 刊)

    ムンク『叫び』、フェルメール『真珠の耳飾りの少女』、ゴッホ『ひまわり』、モネ『睡蓮』など……

    誰もが知っているあの名画のときにせつなく、ときにミステリアスで、ときに驚きに満ちた、誰かに思わず話したくなる物語。

    世界には、数えきれないほどの絵画がある。

    その正確な数は、誰にもわからない。

    ただ、1つだけ確かなことがある。

    それは、描かれた絵の数だけ描いた人の人生があり、そして、絵の中にいる人物の数だけ語られていない物語がある、ということだ。

    そして、我々はそのほとんどを知らない。

    知らないまま、「美しい」「考えさせられる」と言い、分かったつもりで絵を見ているのだ。

    だが、額縁の外に目を向けると、そこにはときに、せつなく、悲しく、目を背けたくなるほど壮絶な物語やときに愚直で、切実な愛の物語が隠れている。

    ノルウェーの画家・ムンクが描いたかの有名な『叫び』もそのひとつである。

    多くの人は、あの絵はムンク自身が頬に手を当てながら叫んでいる絵だと思っている。

    ところがあの絵に描かれたムンクは何も叫んでいない。

    あれはムンクが耳を塞ぐ様が描かれた絵なのだ。ムンクは叫んだわけではなく、聞いたのである。彼にしか聞こえない「何か」を……。

    本書で紹介するのは、そんな絵には描かれていない48の謎に満ちた物語だ。

    作者が背負っていた運命。言葉にできなかった思い。

    そして、描かれた人物たちが、その一瞬を迎えるまでに歩んだ時間。

    それらを知ったとき、あなたはもう以前と同じようにそれらの絵を見られなくなるだろう。

    まったく違う絵に見えることすらあるかもしれない。

    そしてその話を、あなたは誰かに話さずにはいられなくなるはずだ。

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