近年の医療・介護制度では、生産年齢人口が激減する「2040年」を視野に入れた見直し論議が本格化している。これまでは人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上を迎える「2025年」を意識した制度改革が目指されていたため、一つの節目を迎えたことになる。さらに、最近の物価上昇で医療・介護事業所は経営難となっており、これまでとは違う施策も展開されようとしている。本連載では、「分水嶺」を迎えつつある医療・介護制度の見直し論議や現場の動向を追う。
本稿では、今年の特別国会で成立した改正介護保険法のうち、利用者の相談に応じる給付である「ケアマネジメント」に関わる部分を取り上げる。具体的には、今回の法改正では、医療的ニーズの高い中重度者を受け入れる一部の住宅型有料老人ホーム(以下、住宅型)を対象に、新たな相談支援の類型が創設されるとともに、利用者から料金を徴収することが決まった。
この見直しの背景を理解する上では、「現在は利用者負担を取っていないケアマネジメントの有料化論議」「住宅型を対象にした訪問看護の不適切な事案の適正化」という2つの流れを意識する必要がある。
本稿では前者に着目し、財務省の問題提起に端を発したケアマネジメント有料化を巡る議論を振り返りつつ、財務省の意見の妥当性を問いたい。
介護保険の「入口」、ケアマネジメントは何を担っているのか
まず、ケアマネジメントから整理する。通常、病気などで高齢者の心身に不具合が発生した場合、高齢者や家族は中学校区単位で設置されている地域包括支援センターなどに相談する。その後、介護保険サービスが必要になりそうな場合、図表1の流れを経る。

つまり、「市町村による要介護認定」「ケアプラン(介護サービス計画)の作成」という2段階の流れである。
このうち、1つ目の市町村による要介護認定では、74項目に及ぶ聞き取り調査を通じて、ケアの手間暇度合いが数値化され、最終的に7段階(要支援1~2、要介護1~5)に区分される。
その後、2つ目のケアプラン作成に至る。一般的な流れでは、要支援認定を受けた人は地域包括支援センターで、要介護1~5の認定を受けた人で在宅サービスを受ける場合には居宅介護支援事業所(以下、ケアマネ事業所)で、それぞれケアマネジャー(介護支援専門員)にケアプランを作成してもらい、介護保険サービスなどを受けることになる。
その際、ケアマネジャーは高齢者の家族のニーズや人となり、趣味、居住環境などを勘案しつつ、ケアプランを作成する。こうした手続きが総称され、「ケアマネジメント」と呼ばれている。
しかし、利用者から見ると、手続きが煩雑に見える。医療の場合、頭痛などで病院を受診すると、多少の待ち時間が必要になるとはいえ、医師の診断や検査を受けることができるのに対し、介護は「要介護認定→ケアマネジメント」という2段階を経る。
これを医療と対比させると、介護の特色が見える。医療の場合、多くのケースで病気やケガが治れば、原則として医療機関に足を運ばずに済むが、介護の場合はいったん、要介護認定を受けると、亡くなるまでサービスを使い続けることが多い。さらに、利用者や家族の生活支援に関わるニーズも膨大であり、介護保険制度を作る時、どこかで保険給付の範囲を設定する必要があった。これが要介護認定の発想である。
なぜケアマネだけ自己負担ゼロ? 制度創設時に込められた狙い
わざわざ要介護認定とケアマネジメントを切り離したのは、制度創設の経緯が影響している。
つまり、2000年度に介護保険が作られる以前の仕組みでは、市町村がケアの必要性やサービスの中身を判定していた。この仕組みでは高齢者がサービスや生活環境を選べないとして、介護保険制度では制度創設時から高齢者の自己選択が重視されるに至った。
ここで1つの問題が生まれた。すなわち、市町村が介護の必要性を判定する際、ケアの内容まで決定すると、それ以前の仕組みと変わらなくなってしまう。そこで、要介護認定ではケアの必要性の判定にとどめる一方、ケアの内容はケアマネジメントで決めることとし、「居宅介護支援」という形で介護保険サービスの一部に組み込まれた。
言い換えると、要介護認定とケアマネジメントを切り離すことで、高齢者の選択権を担保し、ケアマネジメントを通じて高齢者の意思決定を支援する形が採用されたのである。
その際、図表2の通り、ケアマネジメントは無料とされ、全額を保険給付で賄うことになった。介護保険サービスの「入口」に相当するケアマネジメントを無料にすることで、サービス利用を促すことが意図されていた。

しかし、財務省はケアマネジメントを有料にする必要性を2018年5月から主張し始めた。その後、有料化の是非は3年に一度の制度改正で必ず焦点となったが、厚生労働省の審議会では利用者や業界団体の代表委員から「低所得者などの利用控えにつながる」という反対意見が続出。2021年度、2024年度の2回も結論が先送りされ、決着は2027年度の見直し論議に持ち越されていた。
こうした中、利用者の「囲い込み」や過剰請求の疑いなど、一部の住宅型を舞台に訪問看護の不適切な事案が報じられたことで、適正化策の検討が急ピッチで進んだ。その一環として、相談業務、つまりケアマネジメントを有料にする案が浮上し、今回の決着につながった。住宅型を巡る経緯や論点は別稿に譲るとして、今回はケアマネジメント本体の有料化に関する経緯を振り返るとともに、財務省の主張を細かく検討したい。
500億円削減、在宅・施設の均衡…財務省「4つの主張」を検証
まず、筆者自身としては、利用控えの懸念について、本質的な問題とは思っていなかった。この状況を防ぎたいのであれば、低所得者の負担を減免すれば済むためである。実際、厚生労働省が2025年11月、有料化の選択肢として、低所得者に考慮する案を示す一幕もあった。
むしろ、有料化に関する財務省の主張には論理的ではない部分が含まれるなど、大きな問題があった。これらの点については、なぜか審議会では真正面から論じられなかったが、財務省の主張の妥当性を検証することで、筋の悪さを浮き彫りにしたい。
財務省の主張は変遷を重ねているものの、筆者は以下の4つに大別できると考えていた。
1:利用者負担を取ると、税金(公費)や保険料の抑制につながる
2:利用者負担を取らないと、在宅と施設の均衡が図れない
3:利用者負担を取らないと、ケアマネジメントの質が向上しない
4:すでに制度が定着しており、他の介護保険サービスと同じように利用者負担が必要(特例的な取り扱いは不要)
このうち、1つ目は有料化を通じて、全体として約500億円の給付費を抑制できる点が注目されており、最近の国政選挙で「社会保険料の抑制」が話題になっている点を踏まえると、決して無視できない論点である。
しかし、公共サービスの見直しはコストカットだけを考えれば済む話ではない。つまり、「コスト削減で失われそうなものはないか」といった比較考量の視点が欠かせない。財政の論理だけで政策を決定できるのであれば、わざわざ人間が意思決定を下す必要はなく、AI(人工知能)に判断を委ねれば十分である。
ここでいう「ケアマネジメントの有料化によって失われそうなもの」は4点目で後述することにして、財務省の残りの主張を見ていく。
2つ目については、図表3の通り、特別養護老人ホーム(特養)など施設サービスではケアマネジメントに関わる費用が介護報酬に組み込まれているのに対し、訪問介護などの在宅サービスではケアマネジメントは無料、他のサービスが原則1割負担、高所得者は2割または3割となっており、在宅サービスで利用者負担を取らなければ、施設と在宅の均衡を保てないという主張である。

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ここも制度的な説明として間違いではないが、在宅のケアマネジメントではさまざまな選択肢からサービスなどを決定する必要があるのに対し、施設のケアマネジメントは介護施設という閉じられた生活空間を対象としており、同列に議論できない。このため、現場の実情に沿った意見とは言えず、この財務省の主張を現場のケアマネジャーに紹介すると、失笑を買うことが多かった。
3点目に関しては、財務省の主張は下記のように整理できる。利用者負担を取っていない現状では、利用者のチェックが効きにくい。このため、ケアマネジメントが果たすべき役割が軽視されており、ケアマネジャーに期待される公平性や中立性が失われている。その結果、ケアマネジメントを有料にすれば、質が上がる――。
つまり、「有料化→利用者のチェックが機能→質の向上」という経路を期待する意見であり、財務省は図表4のような資料を出し続けた。

しかし、この資料を見ると、財務省がケアマネジメントの構造を理解しているとは到底思えなかった。例えば、図表4を見ると、「法人・上司からの圧力により、自法人のサービス利用を求められた」「事業者の都合により、同一住宅・ホーム内の利用者のケアプランが画一的」という回答が約4割に達していることが紹介されており、「質を高めるために有料化が必要」という論拠にされている。
もちろん、こうした事象が起きていることは現場の関係者から耳にしているし、改善する必要があるが、これらの事象の原因は全く別の点にある。
具体的には、多くのケアマネ事業所が独立しておらず、他の介護サービス事業所に併設されているため、ケアマネジャーの判断が親会社の判断に左右されていることで起きている。このため、ケアマネ事業所の独立性や中立性を高める見直しの方が大事だったはずだが、こうした議論は全く聞かれなかった。
保険外サービス拡大と矛盾、財務省が見落としたケアマネの役割
最も問題含みだったのは4点目である。つまり、「制度がすでに定着しており、利用者負担を取らない特例的な取り扱いは不要であり、他のサービスとの均衡を図るため、利用者負担を取ることが必要」という財務省の考え方である。
この点を理解する上では、「ケアマネジメントの範囲」、あるいは「ケアマネジャーの業務範囲」を整理する必要がある。ケアマネジメントの範囲、あるいはケアマネジャーの業務範囲は図表5の通り、介護保険サービスの調整にとどまらず、家族からの相談、仕事と介護の両立支援、保険外サービスの紹介などもカバーしている。

例えば、「年寄り扱いされたくない」と言って通所介護(デイサービス)の利用を拒否している男性高齢者に対し、ケアマネジャーは近所の健康マージャン教室や配食サービスなどを紹介している。このため、ケアマネジャーの業務は明らかに介護保険の枠からはみ出ている。
それにもかかわらず、ケアマネジメントを「介護保険サービスと同じ扱い」という判断の下、その費用を有料にするのであれば、介護保険の外にはみ出した部分は無視してもいいというメッセージになりかねない。その結果、保険外サービスの紹介も進まなくなる危険性がある。
その傍らで、財務省は「保険外サービスの拡大」も提唱しており、主張は矛盾を孕んでいた。しかも、保険外サービスの拡大に関して、財務省の資料ではケアマネジャーの役割に一切言及されておらず、むしろ「保険」「保険外」を線引きする規制の見直しという極めて些細な問題に着目していた。おそらくケアマネジャーが現場の最前線で保険外サービスを拡大できる可能性に気付いていないと思われる。
さらに、近年は「8050問題」(80歳代の親と50歳代のひきこもりの子どもが同居)への対応や、仕事と介護の両立支援などの相談支援業務の強化も論点になっており、介護保険からはみ出た部分の対応を含めて、ケアマネジメントやケアマネジャーの役割は大きい。
しかし、ケアマネジメントを「介護保険サービスと同じ扱い」という財務省の主張に沿って、その費用を有料にした場合、こうした役割が軽視されることになりかねない。要するに、相談支援業務を強化する流れとも逆行していた。
これらが「ケアマネジメントの有料化によって失われそうなもの」であり、実行されていた場合、500億円の給付抑制効果と引き換えに顕在化する可能性があった。
住宅型の限定有料化をケアマネ負担の「蟻の一穴」にしてはならない
以上のように考えると、ケアマネジメントの有料化に関する財務省の主張は的外れであり、強引な部分も多く散見された。その意味では、中重度者を対象とした住宅型だけでケアマネジメントを限定的に有料化する決着になったのは当然の結果と言える。
実際、上野賢一郎厚生労働相は国会答弁で、「自宅などの一般的な在宅で介護サービスを受ける方に対して利用者負担を求めることは予定していない」と強調している。
筆者も今回の介護保険改正に関する参院厚生労働委員会の参考人として、2026年6月に招かれた際に「高齢者と一番身近に接しているケアマネジャーは大変重要な社会資源」「ケアマネジャーにどういう形できちんと働いてもらえるような環境を作るのか。その方が本質的」「これ以上、無駄な有料化の議論に時間を費やさないで欲しい」といった意見を述べさせていただいた。
複雑・困難なケースが増えている中、目先の給付抑制額を考えるよりも、なり手不足が深刻化しているケアマネジャーの処遇改善や負担軽減、学びの場の確保などを検討する方が重要と考えるためである。
しかし、数年先に財務省が同じような主張を展開しないとは限らない。再び筋悪な議論が持ち出されないか、その動向を注視する必要がある。今回の住宅型の見直しを「蟻の一穴」としない対応が欠かせない。


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