習近平はなぜそこまで台湾にこだわるのか? 舛添要一が読み解く「中国屈辱の近代史」と「北洋艦隊壊滅の地」に立った男の執念 | きばいやんせ!鹿児島

習近平はなぜそこまで台湾にこだわるのか? 舛添要一が読み解く「中国屈辱の近代史」と「北洋艦隊壊滅の地」に立った男の執念

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2025年10月30日、韓国・釜山で会談に臨んだアメリカのトランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席(写真:AP/アフロ)

2018年6月、習近平国家主席は青島でのサミットを終えると、山東省の威海へと向かった。そこはかつて李鴻章が率いる北洋艦隊の拠点があった地であり、日清戦争で日本軍の攻撃を受けて壊滅した「屈辱の象徴」である。習近平は船で劉公島に渡り、甲午戦争(日清戦争)博物館で展示物の説明を受けた。

なぜ習近平は、多忙なサミット直後にこの地を訪れたのか。その行動が示すのは、台湾統一への並々ならぬ執念である――。中国近代史を知り尽くす著者・舛添要一氏が、習近平の「台湾統一」への執念の深層を読み解く。

※本稿は『中国の逆襲──習近平の戦略』から一部抜粋しています。

1949年に毛沢東が建国した中華人民共和国は、鄧小平の改革開放政策によって経済発展を遂げた。そして今、彼らに続く3人目の「皇帝」習近平のもとで、アメリカに並ぶ世界強国となった。習近平は、次にどういう手を打つのだろうか。

習近平が抱く「夢」と「成果」

2012年11月15日に中国トップの座に就いた習近平はナショナリズムを高揚させ、中華民族の栄光を再興することを第一のスローガンに掲げた。前章でも触れた「中華民族の偉大な復興」は今に至るまで、習近平の重要演説のほぼすべてに登場する。

習近平は2012年11月29日、李克強(1955〜2023年)・王岐山(1948年~)らと共に、北京の中国国家博物館で開催中の「復興の道」展示会を見学した。同展示会は、中国人が民族復興のために歩んできた道程を振り返るものである。以下は、その際に行ったスピーチの一部である。

近代以降、中華民族は苦難の連続で、多くの犠牲を払ってきた。……改革開放以来、われわれは歴史的経験を総括し、絶えず粘り強く模索を重ね、ついに中華民族の偉大なる復興の実現に至る正しい道を探り当て、世界の注目を集める成果を挙げた。この道のりこそが、中国の特色ある社会主義にほかならない。

……アヘン戦争以来、170余年の奮闘を続け、中華民族の偉大な復興は、明るい未来を見せている。現在、われわれは歴史上のどの時期よりも、中華民族の偉大な復興の目標に近づいている。歴史上のどの時代よりも、この目標を実現させる自信と能力を持っている。すべての人が追い求めるものを持っており、皆自らの夢を持っている。

現在、皆が中国の夢について語っているが、私は中華民族の偉大な復興を実現することこそが、中華民族が近代以来抱き続けてきたもっとも偉大な夢であると思う。……ひとりひとりの前途・運命はすべて国と民族の前途・運命と密接につながっている。国と民族が繁栄してこそ、人民ひとりひとりの未来は明るくなるのである。中華民族の偉大な復興の実現という栄えある、しかし困難極まる事業を成し遂げるには、幾世代にもわたる中国人が共に努力していく必要がある。

……中国共産党創立100周年を迎えるまでに小康社会を全面的に達成するという目標と、新中国成立100周年を迎えるまでに富強・民主・文明・調和の社会主義現代国家を築き上げるという目標を必ず達成することができ、中華民族の偉大な復興の夢は必ずかなえられるということを、私は固く信じている。

習近平は「アヘン戦争」に触れ、170余年の「奮闘」の歴史を回顧している。そして、改革開放政策の実行以来、目覚ましい発展を遂げたことを誇るのである。

この演説から2026年2月までに13年の年月が経過したが、中国は年率5%以上の経済成長を続け、先端技術の開発で世界をリードし、軍事力も拡大して人民元の国際通貨化も進んだ。習近平は、着実に「中国の夢」を実現してきている。その意味では、この現代の皇帝は公約を果たしていると言えるだろう。

屈辱の歴史の象徴・台湾

台湾の対岸にある福建省で17年間勤務した習近平は、台湾には特別の思い入れがある。「中華民族の偉大な復興」を実現するには、台湾を統一することは不可欠の条件である。「一つの中国」は毛沢東以来、中国の政権の主張であり、それは日米両国をはじめ国際的にも認められている。習近平からすれば、台湾独立など論外である。

2018年6月12日、上海協力機構(SCO)の青島サミットを終えた習近平は、山東省を視察した。午前中に青島海洋科学・技術試行国家実験室を訪ねたあと、列車で発ち、威海(旧・威海衛)に到着した。同地は李鴻章が率いる北洋艦隊の拠点があったところで、日清戦争で日本軍の攻撃を受けて1895年2月、北洋艦隊は壊滅した。その後、清は敗北し、下関条約で台湾を日本に割譲したのである。

習近平は船で北洋艦隊の母港のあった劉公島に向かい、甲午戦争(日清戦争)博物館展示館で、展示物の説明を受けた。劉公島は屈辱の歴史の象徴とされ、中国近代史を学ぶ場所になっている。劉公島訪問も、前述した北京の中国国家博物館での「復興の道」展示会見学と同様に、屈辱の近代史を見つめ、「中華民族の偉大な復興」の必要性を国民に認識させる行動である。

そして、彼は甲午戦争博物館展示館で、「長く警鐘を鳴らし、歴史の教訓を銘記する必要がある。13億あまりの中国人は発奮して強くなる必要がある」と述べた。

では、習近平が台湾問題についてどのように考えているか、彼の演説から見てみよう。2017年10月18日、第19回党大会で報告したが、その報告から引用する。

台湾問題の解決、祖国の完全統一の実現は、中華民族のすべての人々の共通の願いであり、中華民族の根本的利益にかかわるものである。「平和的統一、一国二制度」という方針を引き続き堅持して、両岸関係の平和的発展を推進し、祖国の平和的統一の歩みを進めていかなければならない。一つの中国の原則は両岸関係の政治的基礎である。

一つの中国の原則を体現している「92年コンセンサス」は、両岸関係の根本的な性質をはっきりと定義しており、両岸関係の平和的発展を確実に保証する鍵である。

……われわれは、国家の主権と領土保全を断固として守り、国家の分裂という歴史的悲劇が繰り返されることを断じて許さない。……「台湾独立」勢力のいかなる形の分裂活動も打ち破る断固たる意志、あふれる自信と十分な能力がわれわれにはある。中華民族の偉大な復興を実現することは、すべての中国人の共通の夢である。

「一つの中国」平和的統一は可能か?

ここで言及された「92年コンセンサス(九二共識)」とは何か。

これは、中国と台湾の窓口機関(中国・海峡両岸関係協会、台湾・海峡交流基金会)が、1992年に香港で行った協議で、「一つの中国」という原則について口頭で確認したとされる共通認識のことである。

しかし、その解釈は、中国と台湾では食い違っている。中国が「一つの中国」の原則(一中原則)を堅持するのに対して、台湾は「一つの中国」が中国を指すのか台湾を指すのかは各自が解釈する(一中各表)という。

92年コンセンサスは、主権問題を棚上げにして交流を進めるための政治的知恵であったが、台湾の民進党政権は92年コンセンサスの存在を認めていない。したがって、民進党政権下では、92年コンセンサスが台湾問題の解決に役立つことはない。

2025年12月23日、アメリカ国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告書を公表し、「2027年末までに中国が台湾に侵攻し、勝利する能力を持つ」と分析した。中国は現在、約600発の核弾頭を保有しているが、2030年までに1000発以上になると予測している。さらに、2035年までに空母を9隻体制にしようとしているという。これに対して、現時点で米軍が保有する空母は11隻であり。国防総省は危機感を露わにしている。

台湾の武力統一のコストについて習近平は十分に認識しており、基本的には平和的統一を目指すだろう。先に引用した演説でも「平和的統一、一国二制度」と強調している。

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しかし、1997年にイギリスから返還されて中国に統一された香港では、「一国二制度」のもと、高度の自治が認められたはずだが、次第に中国本土化が進められている。

特に、2019年の大規模デモをきっかけに、中国政府は2020年に香港国家安全維持法を施行し、民主化勢力を弾圧している。それは一国二制度ではなく、一国一制度への歩みである。

2025年12月7日に行われた香港の立法会(議会。定数90)選挙では、親中派が議席を独占した。2021年の選挙法改正で、香港政府に忠誠を誓う「愛国者」以外は立候補できなくなったからである。そうして、35人の現職議員が立候補を断念した。投票率も31.9%にとどまっている。

このような香港の現状を見れば、台湾の人々が、中国が「一国二制度」を維持することはないと結論づけるのは当然である。習近平が喧伝する「平和的統一、一国二制度」の信頼性は高くない。そうなると、武力統一という選択肢も排除されないことなる。そのような事態にならないよう、日米を中心に国際社会は中国との対話を継続せねばならない。

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