先延ばしにしがちな実家じまいですが、段取りと費用を抑えるコツを知れば、今やるべきことが見えてくるはず! 専門家がわかりやすく解説します(構成:村瀬素子)
空き家のままでいいことは一つもない
親の家を子ども世代が整理・処分することを「実家じまい」といいます。具体的には、今後誰も住む予定のない家を売却したり、解体したり、賃貸に出したりすること。しかし、不動産会社、税理士などとの多数の手続きが発生するため、複雑に感じられ、なかなか一歩を踏み出せない方は少なくありません。
私は長年不動産業界に携わるなかで、家の終活を総合的にサポートする体制の必要性を強く感じてきました。そこで、各分野の専門家と連携しながらアドバイスを行う会社を立ち上げ、これまで多くの実家じまいを支援してきたのです。この経験をもとに、「実家じまい」では何をすればいいかを順序立ててお話しします。
まず大切なのは、実家じまいを検討すべきタイミング。それは雨漏りや外壁がはがれているなど、建物の老朽化のサインが見えたときです。修繕のために見積もりをとったら、思いのほか高額だったということもあるでしょう。老朽化した家に修繕費をつぎ込むより、売却したほうがいい場合も。
ただ本来であれば、物忘れが増えるなど、親自身に老いがみえ始めたときが検討すべきタイミング。親が認知症になっても、原則、家の売却やリフォームの契約を子どもが代わって行うことはできません。親の意思を確認できないまま、死後に子が決断を下さなければならず、手間も精神的な負担も増加。親が元気なうちに準備を始めることが大事です。
●実家じまいの3つの選択肢(図を拡大)
とはいえ現実は、親が亡くなってからやっと考え始める……という方も多いはず。けれど、空き家をそのままにしていると、さまざまなデメリットが出てきます。
たとえば親亡き後の空き家を相続して放置したままの場合、固定資産税、水道光熱費の基本料金など維持費が発生し続けます。人が住まない家は老朽化の進行が早く、資産価値が落ちて売却価格は下がる一方。庭木や雑草が繁茂して害虫が発生するなど、近隣トラブルを招くこともあります。
周囲に悪影響を及ぼすと判断された空き家は、法的な措置の対象になる場合も。自治体から改善するよう勧告され、従わないと「特定空家」として、固定資産税が最大6倍に増額されることもあるのです。空き家のままにしておいて、いいことは何一つありません。
次にお話しするのは、実家じまいでおさえるべき4つのポイント。スムーズに進められる順番にご説明しますので、少しでも早くとりかかりましょう。
また冒頭に申し上げた通り、親が元気なうちに始めることをおすすめしますが、親が亡くなった後で取り組むという場合も、ステップ1から4までの流れは同じです。

(イラスト:古谷充子)
実家じまいを遂行する4つのステップ
【ステップ1】現状確認
初めに行うべきは、家の情報を集めること。固定資産評価証明書、不動産登記簿などの権利関係、公共料金契約、火災保険証券など、重要書類の保管場所を親に聞き、内容を把握する。
家の所有者は父だと思っていたら、登記名義人が祖父のままだった……というケースもあります。
住宅の現状もチェックを。雨漏りや壁のひび割れ、シロアリ、扉や床の傾き、水回り設備の劣化などを調べましょう。売却できる家かどうか、今後の方向性を決める判断材料になります。
家の市場価値を知るためには、不動産会社が無料で行う査定を依頼するとよいでしょう。今すぐに売ることを考えていなくても、方針の決定のために相場を知っておくことは大切です。
【ステップ2】家族会議
調べた情報をもとに、実家を今後どうしていきたいかを話し合います。親や、相続人である自分のきょうだいと、話し合う場を設けましょう。正月など家族が集まる機会を利用するのがおすすめ。
話し合いの場では、まず親の希望を聞きます。最期までわが家に住み続けたいのか、施設への入居や子世代との同居も視野に入れているのか。
あらたまって聞くと親は身構えてしまいます。「芸能人のAも終活をしているらしいね」など、家のことを考えるきっかけになる話題を共有し、「お母さんの考えも知りたくて」と聞く姿勢を見せるのが本音を引き出すコツ。
また、きょうだい間で揉める典型例が「実家じまいをする」「そのまま残す」という意見対立。実家近くで親を支える子は「管理が大変だから、実家じまいをしたい」、遠方の子は「実家がなくなるのは寂しい」というのが、よくあるパターンです。こういう場合感情論で戦うのではなく、数字を示すことが合意への近道。
「空き家になった場合、維持費が年X万円。誰が負担する? 売却相場はX万円だよ」と、ステップ1で下調べした具体的な数字を挙げることで、現実的に考えられます。大切なのは、家族みんなが情報を共有したうえで結論を出すことです。

(写真:stock.adobe.com)
冒頭で申し上げたように、「実家じまい」には、主に3つの選択肢があります。(1) 家ごと売却する。(2) 家を解体し、更地にして土地を売却する。(3) 賃貸に出す。この3つの方針のどれを目指すかまで、この時点で話し合っておくのがいいでしょう。
とはいえ、1度や2度の話し合いでは、全員が納得する結論は出せません。その場合は保留にして、「来月また話そうよ」と、月1回など定期的に「家族会議」を開くのがおすすめ。「2年以内に決断」といった期限の目安を設け、話した内容を記録しておきます。
(1)~(3)の選択肢の中でどれがいいかは、物件の条件と親族の意思次第。ですが私は、借り手がつきやすい都会のマンションなどの物件でない限り、(3) の賃貸はおすすめしていません。リフォームで多額の初期費用がかかる可能性が高く、人口の少ない地方では借り手が見つからないリスクもあるからです。売って現金化したほうが、相続の際にも分けやすいでしょう。
ちなみに3つの選択肢のほかに、「古家付き土地」として不動産会社に買い取ってもらう方法も。その場合、売却価格は土地だけを売るよりも低くなりますが、解体の費用と手間が省けるのがメリットです。
【ステップ3】モノの整理
ステップ2で決定した方針に合わせ、モノを整理します。
親が存命であれば、親自身の手で残すモノと捨てるモノを仕分けるのが一番です。子が勝手に捨てるのは、トラブルのもとになるのでやめましょう。
スムーズに進めるコツは、何を捨てるかではなく、「何を残すか」を先に決めることです。日常生活に必要なもの、思い出の品、今後も使うもの、など大まかに分類すると判断のスピードが上がるはず。また一気に片づけようとせず、一部屋ずつなど範囲を限定して行うのが鉄則です。
「家族会議」と「片づけの日」は別日に設定しましょう。同じ日に進めようとすると疲れてしまい、どちらも中途半端になりかねません。
【ステップ4】処分・活用
ここからは、親の施設入居や死去によって、実際に人が住まなくなった後の話。いよいよ実家じまいのフィナーレです。
売却する場合は、不動産会社に買い手を探してもらう「仲介」と、不動産会社に直に買い取ってもらう「買取」という方法があります。
一般的に、買取は仲介による売却相場の7割程度と価格が低い傾向が。一方、仲介は買い手が見つかるのに時間がかかり、売れるまでに長い年月を要することもあります。
更地にして売却する場合は、解体業者に依頼して建物の解体工事が必要です。
賃貸に出す場合は、まず不動産会社に相談し、必要に応じてリフォーム業者に依頼しましょう。その後、不動産会社と協議し、家賃のほか入居条件などを決め、入居者を募集するという流れになります。
構成: 村瀬素子
イラスト: 古谷充子
出典=『婦人公論』2026年8月号
小泉寿洋住まいの終活相続アドバイザー/賃貸経営コンサルタント
1972年静岡県生まれ。賃貸不動産会社勤務、不動産仲介・建築工事・終活サポートの会社経営を経て、ここりんくす株式会社代表取締役。賃貸経営・賃貸管理・終活に関するコンサルティング、講師として活動



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