長期金利の上昇に歯止めをかけたいのはわかるけど…高市政権がすがる個人向け国債「税制優遇」という悪手 | きばいやんせ!鹿児島

長期金利の上昇に歯止めをかけたいのはわかるけど…高市政権がすがる個人向け国債「税制優遇」という悪手

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「骨太の方針」に明記

看板政策である積極財政を推進しながら、長期金利の上昇にも歯止めをかけたい。そんな政治的思惑から、高市早苗政権が個人向け国債への税制優遇に前のめりになっている。

日銀が金融政策の正常化の一環で国債の購入額を大幅に減らす中、1100兆円超の現預金を持つ家計を新たな「受け皿」にして国債の需給安定化を図ろうとする目論見である。

政府が7月に策定した「骨太の方針」には「個人向け国債の魅力向上による国内投資家層の拡大を図る」と明記された。具体的には新NISA(少額貯蓄非課税制度)の対象に国債を追加したり、相続税を減免したりする案が浮上している。年末の税制改正の目玉となるとみられる。

インフレと賃金上昇に対応し、日本銀行が短期金利を0.25%から0.5%に引き上げた際の本店庁舎。Photo by Gettyimagesイメージギャラリーで見る

国債発行残高の過半を保有する日銀に代わる新たな買い手探しは難航している。銀行や生命保険会社は国際的な金融規制への対応の観点から、日銀の利上げ打ち止めが見通せず、金利変動リスクが大きい中では国債購入額を大幅に増やすのは難しい。

逃げ足の速い海外投資家に依存すれば、長期金利の上昇リスクをかえって高めることになりかねない。市場での取引を前提とする機関投資家と異なり、満期まで持ち続けるケースが大半の個人の国債投資が増えれば相場の安定につながるのは確かだ。

ただし、個人向け国債の税制優遇策には問題が多い。まず利子を非課税にすれば、その分、税収が減る。いわば「行って来い」の関係だ。目先は個人の国債投資急増で長期金利を多少抑制する効果があるかもしれないが、税収減が大きくなれば、その分を新たな国債発行で賄う矛盾を来しかねない。

これまで進めてきた資産運用立国政策の理念にもそぐわない。政府は「貯蓄から投資へ」をキャッチフレーズに2024年に新NISAを導入。銀行やゆうちょ銀行に預貯金として滞留する個人の資金を証券や投資信託にシフトさせて、企業へのリスクマネーの供給を円滑化させることを目指してきた。そうして経済の活性化と個人の資産形成を後押しする好循環を目指すと、うたってきたはずだ。

預貯金よりもお得

だが、国が元本を保証する国債は預貯金と同様に安全資産とされる金融商品である。個人にどれだけ売ったところで、滞留先が変わるだけで、企業活動や経済の活性化を支えるリスクマネーにはなり得ない。

資産運用立国政策の「生みの親」を自任する岸田文雄元首相は日経新聞のインタビューで(10月13日付)、個人向け国債を新NISAの対象に追加する案について「貯蓄をリスクマネーに振り向けていくという取り組みとの整合性はどうなのか。慎重に検討する必要がある」と苦言を呈している。

もっと深刻なのは、金融システムを混乱させるリスクがあることだ。国の信用をバックに今でも預貯金より優位な金融商品である国債に税制優遇措置まで講じれば、銀行からの資金流出を招きかねない。

個人向け国債は、満期までの期限に応じて「固定3年物」「固定5年物」「変動10年物」の3種類が売り出されている。3年物と5年物は発行時から満期まで利率が変わらないが、10年物は半年ごとに利率が変わる設計だ。

日銀の利上げや長期金利の上昇などを背景にいずれの国債商品も足元の利率は2%前後となっており、同じ満期期間の銀行の定期預金と比べて1%程度高い水準にある。すでに「預貯金より安全で利回りも高いお得な貯蓄手段」として、個人の間で国債購入ニーズが高まっている。26年度の個人向け国債の発行額は過去最多だった05年度(7.2兆円)を大きく上回り、10兆円の大台に達すると見込まれているほどだ。

金融界では早くも「政府の優遇策をきっかけとして高齢者を中心に預貯金から国債に資金を移し替える動きが雪崩を打って広がるのではないか」(関東地方の地銀首脳)と懸念する声が出ている。

預金の流出が加速すれば、地銀などの貸し出し原資が細り、地元企業に十分な融資を行えなくなるからだ。預金をつなぎとめるには大幅な利率の引き上げが必要になるが、収益力の弱い地域金融機関は経営的に耐えられず、資金繰り破綻に追い込まれる恐れすらある。

金融危機の引き金に?

実際、大手シンクタンクの試算によると、新NISAへの追加などの税制優遇措置が導入された場合、10年間で預貯金から国債に100兆円規模で資金が移動する可能性があるというから、銀行経営へのインパクトは甚大だ。

「貸出原資となる預金から(個人向け国債への)資金シフトが過度かつ急速に進めば、成長資金の供給に影響が出ることに留意する必要がある」。全国銀行協会の加藤勝彦会長(みずほ銀行頭取)は9月の記者会見で国債販売拡大に逸る高市政権の動きにこうクギを刺した。

あえて「成長資金」という言葉を使い、サナエノミクスへの悪影響も考慮して慎重に対応するよう迫った形だが、長期金利を抑えたい一心の高市首相がどこまで聞く耳を持つかは分からない。

党内や金融界から異論が噴出しているにもかかわらず、高市政権が個人向け国債の税制優遇策をごり押ししようとしているのは、積極財政の資金繰りに苦労しているからにほかならない。

消費税減税やサナエノミクスの成長投資、防衛費の増額など大規模な歳出メニューが目白押しの一方、明確な財源を手当てできていない。日銀の財政ファイナンスにも頼れない中、国債の大幅増発懸念を払拭できず、長期金利上昇の大そこで税制優遇措置という「ニンジン」をぶら下げて個人マネーを一気に惹き寄せ、目先の国債市場の安定につなげよう魂胆だ。だが、政治が手前勝手な都合で金融ビジネスに介入すれば、カネの流れを大きく歪め、金融危機の引き金となるリスクがある。

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