「隠れうどん県」で人気の、老舗うどんチェーンの魅力とは?(写真:筆者撮影)
出張先で立ち寄りたいチェーン店を紹介する本連載、第28回はフリーライターの三角園いずみ氏が「三角茶屋 豊吉うどん」を紹介。
「うどん県」といえば香川県の愛称だが、実は宮崎県も隠れた「うどん県」であることをご存知だろうか。県内各地、それぞれの地域に根付いたうどん店があり、その多くが「早い、安い、うまい」の三拍子がそろい、地元民の生活に寄り添う。
一説によると、宮崎は江戸時代から四国との交流があり、明治以降に四国からの移住者が多くやってきたことでうどん文化が根付いたという。しかし、コシの強い讃岐うどんとは違い、柔らかくふわふわとした麺こそが宮崎うどんの特徴だ。
そんな宮崎うどんの名店といえば、宮崎市にある「三角茶屋 豊吉うどん」だろう。1932(昭和7)年に、故・奥野豊吉氏によって創業された老舗のうどん屋である。もはや宮崎市民の食卓の延長線上にあると言っても過言ではなく、開店から閉店まで客足が途切れることはない。学生時代から10年以上宮崎市に住んでいた筆者も、どれだけお世話になったか数えきれないほどだ。市外に住む今も、宮崎市を訪れ「豊吉うどん」の看板を見つけるたびにふらふらと出汁のにおいに誘われてしまう。

宮崎市民は愛着を込めて「豊吉」と呼ぶ(写真:筆者撮影)
スタッフの手際の良さに見惚れる
宮崎市内に6店舗展開している中で、今回訪れたのはJR宮崎駅店。駅構内に店舗を構え、地元の人々だけでなくビジネスパーソンや観光客も多く訪れる。スーツケースを引いている出張者と思しき人々も少なくない。ちなみに、ミスタードーナツ、ケンタッキー、マクドナルドと同じエリアに並んでおり、時に我々は「マックにするか、豊吉にするか」という選択に頭を悩ませることもある。有名ファストフード店と隣り合ってなお、その存在感は色褪せることはない。
まずは、券売機で食券を購入。昼時などは行列ができることも多いため、直前で慌てないためにも、事前にメニューを決めておくと安心だ。

入ってすぐの場所にある券売機(写真:筆者撮影)
券売機すぐ横のカウンターにはエプロンに三角巾姿のスタッフが待機している。食券を渡すと、一瞥をくれるやいなや、あらかじめ一人前ずつ深めのザルに用意された麺をぐらぐらと沸いたお湯の中へ投入。うどん釜の周りには、きつね揚げや肉、天かすなどの具材が配置され、その場からほとんど動くことなく商品提供を可能にしており、さながら小さなコックピットである。長い年月をかけて洗練されてきたオペレーションとレイアウト、スタッフの手際の良さもひとつの魅力だろう。

調理場も見どころ(写真:筆者撮影)
湯気がもうもうと上がるできたてのうどんをお盆に乗せてもらったら、席を探す。テーブル席はもちろん、カウンター席も充実しているので、おひとり様でもスムーズに着席できる。調理場前にもカウンター席があり、まるでライブキッチンのようだ。

JR宮崎駅前店はカウンター席が多め(写真:筆者撮影)
大人気なのは「天玉かうどん」?
筆者が注文したのは、「天玉かうどん」500円(税込)。何やら耳慣れないメニューだと思われるかもしれないが、天ぷら(さつま揚げ)と玉子、天かす(たぬき)の定番3品をトッピングした人気メニュー。“天”ぷら、“玉”子、天“か”す、で「天玉か」というわけだ。このユニークなメニュー名は、豊吉うどんのスタッフと常連さんとの会話から生まれたのだそう。ごはんメニューからは、「みそおにぎり」80円(税込)をチョイスした。

天玉かうどんとみそおにぎりで合計580円(税込)(写真:筆者撮影)
どんぶりはたっぷりのネギと天かすで覆われ、つやつやとした玉子と天ぷらがその下から顔を覗かせる。透明感のある琥珀色の出汁に泳ぐ麺はふっくらとしていて、見るからに柔らかそうだ。
いりこ(煮干し)と昆布、かつお節で取られているという出汁はやさしく、すっきりとした味わい。それでいていりこの風味が際立ち、コクも感じられる。飽きのこないシンプルな味で、気づけば「もうひとくち、もうひとくち……」と、無心でレンゲを口に運んでしまう。
麺は、宮崎うどんの身上である柔らかさを持ってはいるが、それは決してふにゃふにゃで伸び切っているという意味ではない。モチっとした食感とプリッとした歯切れが心地よい、絶妙な柔らかさなのだ。喉越しもよく、忙しいときに手早く食べられる上、子どもからお年寄りまでおいしく食べられる。

くったりとした麺。「麺柔らかめで」と注文していたお客さんもいた。やはり宮崎人にとって、うどんは柔らかくてなんぼなのかもしれない(写真:筆者撮影)
また、盛りの良さも魅力で、どんぶりの中には麺がたっぷりとひしめき合っている。時間帯によっては、高校生がテーブル席で一心にかき込んでいることも多く、食べ盛りの若者たちの腹もしっかり満たす。「安い・早い・うまい」に「盛りが良い」も加わり、四拍子そろう。
隠れた人気メニュー「みそおにぎり」
「天玉か」のひとつ、天ぷらは大きめにカットされたものが4切入っており、しっかりと出汁を吸っているからか、むっちりとした食感で、麺との対比も楽しい。かみしめるたびに魚肉のうまみが広がるが油っぽさはなく、さっぱりと食べられる。玉子には調理の際に上から出汁がかけられるので、ちょうどよく固まっている。早めに割ってうどんに絡ませるもよし、最後までとっておいて出汁に溶かすもよし。新鮮なネギの香りと、天かすのサクサクとふにゃふにゃの入り混じった食感もアクセントになって、あっという間にどんぶりは空になる

宮崎で「天ぷらうどん」といえばさつま揚げが乗っているのが一般的(写真:筆者撮影)
そして、個人的に欠かせないのがみそおにぎり。おにぎりに特製みそが塗られた一品で、やさしい甘さが、さっぱりとした出汁と相性が良いのだ。そう感じているのは筆者だけではないらしく、取材に訪れた日も多くの人が注文していた。

おばあちゃんが作ったおにぎりのような懐かしさ(写真:筆者撮影)
ちょっと行儀が悪いが、軽く出汁に浸してから食べるのもまたおいしい。おにぎりはあらかじめ作り置きされているので温かくはないが、その方が熱が加わらず、みそのおいしさが引き立つような気がする。最後に、添えられたたくあんで口直しをしてごちそうさま。セルフサービスなので、返却口へ食器を戻して店を出る。
周囲を見ると、筆者が来たときよりも席は埋まり、入り口の行列が長くなっている。それを見ていた女性のグループが「どうせすぐ席空くもんね」などと言いながら、列の最後尾についていた。確かに、昼時の忙しい時間帯でも手際よく提供され、サッと食べ終えられるのだから、多少行列が並んでいても何の問題もないだろう。

平日だったが、正午になる頃には長い行列ができていた(写真:筆者撮影)
早朝6時から開店!「朝うどん」文化が根付く
JR宮崎駅店のほかは、ロードサイドもしくはショッピングモール内に展開している豊吉うどん。発祥の地である本店はいわゆる「南宮崎エリア」にあり、1975(昭和50)年に現在の場所にオープンしたという。「三角茶屋」の名にふさわしく、三角形をした特徴的な造りが目を惹く。店内にはテーブル席とカウンター席に加えて座敷もあるので、小さな子ども連れも気軽に寄りやすい。駐車場も広々としており、車での移動が多い方は本店にも訪れてみてほしい。

本店の外観(写真:筆者撮影)
また、早朝からの営業も豊吉うどんの魅力のひとつだ。本店と吉村店は6時から、JR宮崎駅店は7時からオープンしている。「朝うどん」という平日の朝限定のメニューもあり、「玉子」「わかめ」「たぬき」から好きな具材を2つ選び、さらにおにぎり2個もしくはごはんを選ぶことができる。出勤前に立ち寄る人も多いと聞き、「朝うどん」は宮崎の食文化として根付いている。
宮崎ならではのぬくもりに満たされる
創業者の奥野豊吉は50歳にして開店し、97歳でこの世を去る直前まで店に立って働き続けたという。うどんにかける並々ならぬ情熱は確かに受け継がれ、変わらぬ味わいを求める人々のお腹と心を満たし続けている。

創業者・奥野豊吉氏についてのパネル(写真:筆者撮影)
ぜひ宮崎を訪れた際には、「豊吉うどん」の看板を探してほしい。柔らかな麺はおおらかでのんびりとした宮崎人の気質を象徴しているようでもあり、その温かな一杯をすするとき、きっと宮崎ならではのぬくもりに満たされるはずだ。


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