「好景気でも実感がない?」企業が賃上げを渋り、政府が減税で肩代わりする"ココが変だよ日本" | きばいやんせ!鹿児島

「好景気でも実感がない?」企業が賃上げを渋り、政府が減税で肩代わりする"ココが変だよ日本"

image

コロナ禍を除けば、日本経済は2012年12月からずっと好景気が続いています。現在の景気拡大も20年6月から始まって、26年7月時点まで74カ月も続いています。しかし、NHKの世論調査では、景気が良くなっている実感がないと答えた人は全体の78%に上っています。なぜでしょうか?

企業部門は過去最高益を更新

簡単に言えば、日本は企業が好景気でも、家計部門は違うので、個人に聞くと、そのように答えるのです。実際、12年以降、企業部門の景気は極めて良好です。経常利益は12年度から25年度まで、48.5兆円から124.8兆円まで2.6倍に増え、過去最高益を毎年のように更新しています。

経常利益率も劇的に上昇しています。1975年度から12年度まで、経常利益率は1~3%台の範囲を推移していましたが、25年度の経常利益率は7.3%まで上昇しました。この結果、内部留保は12年度に比べて2.2倍の654.8兆円まで膨らんでいます。

(出所)法人企業統計調査より筆者作成

「好景気は大企業だけだろう」とよく言われますが、そうでもありません。大企業ほどではなくても、中小企業の経常利益も大きく増えています。12年度から25年度の間に、中小企業の経常利益は2.0倍に、同期間の内部留保は1.8倍に増えています。

一方の家計部門はどうでしょうか。経常利益は2.6倍に増加しているのに対し、人件費は1.2倍しか増えていません。金額ベースでは、経常利益の76.4兆円の増加に比べ、人件費は36.1兆円の増加です。同期間中に雇用が増えていますので、平均給与を見ると、12年度に比べて、わずか1.13倍の増加にとどまっています。

さらに期間を長く取れば、バブル崩壊後の93年度から経常利益は6.1倍になっていますが、平均給与は1.1倍と、40年以上ほとんど変わっていないのです。

(出所)法人企業統計調査より筆者作成

利益が増えたのに、賃上げを抑制することにより、労働分配率は企業の規模にかかわらず大幅に低下しています。これが家計部門が好景気を実感できない要因です。

内部留保の使い方が問題

こうした状況下で、内部留保の増加を問題視する人がいます。しかし経済学の観点からは、その指摘は正しいとは言えません。内部留保は単に過去の利益の蓄積にすぎないので、それ自体に良いも悪いもありません。問題はその使い方です。

内部留保が増え、企業がそれを積極的に投資に充てれば、将来の期待成長率は高まります。内部留保が増えて、現・預金が減るケースは経済にとって好ましいシナリオです。ネガティブシナリオは、内部留保が増える過程で現・預金がため込まれることです。企業が投資をせずに現・預金をため込むと、設備投資が不足し、労働分配率が下がれば、経済の最大の柱である個人消費も低迷します。一方、現・預金は眠っているだけなので、家計部門のマイナスを相殺するような成長は生み出されません。

実際にこうした悪影響が出ていることは確認できます。特に中小企業の状況は非常に不健全です。12年度から内部留保が90.7兆円も増えているのに対し、現・預金を82.2兆円もため込んでいます。

(出所)法人企業統計調査より筆者作成

一方、大企業は、投資家の圧力があるためか、259.6兆円の内部留保の増加に対し、現・預金の増加は64.4兆円のみです。結果として、内部留保に対する現・預金の比率は中小企業が88.7%を占めるのに比べ、大企業は29.4%のみです。

もっとも、これをもって大企業を評価してはいけません。大企業の場合は、配当を大きく増やしているという側面があるからです。当期利益が増えても、配当を増やした分、内部留保は増えません。上場している大企業は、配当支払いの圧力がかかり、無駄に現・預金を増やせないガバナンスが効いているとも解釈できます。

12年度から25年度までの期間、大企業の当期利益は合計614.6兆円にのぼりました。同期間の配当は累計325.2兆円と、当期利益の52.9%を占めました。中小企業の場合は、累計当期利益の166.9兆円に対し、累積配当は32.8兆円と、当期利益の19.6%しか占めていませんでした。

別の観点から、人件費に対する配当総額を見ると、大企業の場合は75年度から01年度まで、平均して5.5%でした。それが25年度には、49.8%にまで上昇しています。さらに、上場企業が25年度に実施した自社株の買い戻しは22.1兆円にも上りました。

(出所)法人企業統計調査より筆者作成

このように大企業は人件費をほとんど増やさずに、配当だけを大幅に増やしてきました。これには2つの大きな問題点があります。

まず、配当にばかりお金を回すことで、投資に使えるお金を減らしています。次に、配当を得ている投資家の消費性向と、一般の日本人の消費性向のどちらが高いかです。一般論として、労働者の消費性向は高いとされていますので、企業は投資を十分にせず、社員にも分配せず、投資家に厚く配当を出しているので、経済成長にはマイナスの影響になると考えられます。

日本企業の25年度の当期利益96.6兆円の使い道を見ると、日本経済を良くするための投資などに充てられたのは、たったの14.6兆円でした。

(筆者作成)

経営者のもっともらしい言い訳

一般的に、企業が現・預金をため込んでいる理由は、

①リスク回避のため
②日本の将来に対する不安

と言われます。

しかし①の言い分には矛盾があります。将来訪れるかもしれない不況のためにためておきたいならば、なぜ大企業は配当を増やしているのでしょうか。また、現・預金が03年度から毎年増えて、今や315兆円に達しても、さらにいつまで現・預金を増やすのか、どれほどの水準になればリスク回避ができると考えているのでしょうか。

②に関しては、日本の場合は少子高齢化や財政赤字の問題を抱えているため、確かに、不安はあります。しかし、経営者が投資をしなければ、将来はますます見通しにくくなります。国内市場に成長機会がないからといって投資を抑制すれば、本当に日本経済は成長しなくなり、自分の予想した通りの結果になります。これでは悪循環です。

また経営者の平均年齢が世界一になっていることも、リスクを過剰に恐れている要因の一つかもしれません。いずれにしても、企業が利益を増やして現・預金をため込み、一方で給与をほとんど増やさず、設備投資を抑制していては、日本経済の将来を殺すことになります。

本来は少子化だからこそ、各企業はビジネスモデルを大幅に変えて、今まで以上にイノベーションのために設備投資を推進しなければなりません。生産性が向上して、賃上げをすれば、国内経済は伸びます。日本経済の生産性は先進国最下位であることを忘れてはいけません。

企業の利益が増えるとGDPの計算(所得面)に企業の利益が含まれるので、GDPの増加要因となりますが、企業部門の利益増加による経済成長は弱く、中・長期的な持続性も弱いとされています。

政府が食品の消費税減税をするのは筋違い

こうして議論を踏まえると、食料品の消費税減税と給付金の話はおかしく見えてきます。家計は苦しいうえ、日本の対GDP比の政府債務残高は世界2位という状況です。その主因は企業が従業員に分配しないことなのにもかかわらず、代わりに政府が減税をしたり、給付金を出そうとしているのです。

こうした政府の政策は、企業の過去最高の経常利益をたたき出している傍らで、多額の配当を出したり、現・預金をため込んだりしている最悪の経営戦略の悪影響を緩和するためのものです。企業には今年46兆円の配当を出す余裕があるのに、政府は5兆円の消費税減税のために、財政赤字を拡大するような真似をしています。

本来、政府がすべきことは、企業にイノベーションと賃上げを強く働きかけることです。高市政権の「戦略17分野」は方向性としては正しいと言えます。足りない分野は、安倍政権がずっと要望していた賃上げなのです。

 

コメント