南鳥島方面に向けて清水港を出航する地球深部探査船「ちきゅう」(1月12日) Yuka Obayashi-REUTERS
<「レアアース国産化への転換点になり得る」として期待が寄せられる南鳥島沖でのレアアース泥の試験掘削。南鳥島沖のレアアース泥にはどんな特徴があるのか。今回の試掘では何が行われるのか。希少資源である金を海水や温泉から採取する日本発の技術もあわせて紹介する>
南鳥島沖でのレアアース(rare-earth elements:希土類元素)泥の試掘に向けて12日、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」が清水港(静岡市)から出航しました。
試掘は内閣府の大型研究プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として行われます。約6000メートルの海底からレアアース泥を連続的に引き上げる技術は、世界初で日本独自のものです。関係者は「2026年は国産レアアース元年になり得る」と期待を高めています。
レアアースは、私たちの生活の中ではスマホや電気自動車、LED照明などの製品に使われています。また、とくに強力な磁石に必須な元素として、医療機器のMRIや風力発電用の永久磁石に利用されています。
けれど、日本はレアアースの71.9%を中国からの輸入に頼っています(2024年、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]のデータより)。
高市早苗首相による昨年11月の台湾有事を巡る国会答弁以降、日中関係は緊張感を高め、中国による対日圧力が続いています。中国商務部は6日、日本へのデュアルユース(軍民両用)製品の輸出を禁止すると発表しました。
レアアースは自衛隊に配備されているF-35戦闘機などにも使われていることから、中国がレアアースを輸出管理の対象にするかどうかが懸念されています。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は8日、中国がレアアースやレアアース磁石の日本向け輸出を制限し始めたと報じました。レアアースの中国依存から脱却し調達先を多角化すること、とくに国産で安定供給を実現することは、日本の未来に直結する重要課題です。
日本は科学技術力で未来を切り開くことができるのでしょうか。「レアアースの国産化への転換点」となり得る試掘の内容を知り、他の重要希少金属に対する日本の新技術についても概観しましょう。
レアアースはレアメタルの1種
レアアースとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)とランタノイドと呼ばれる15元素を合わせた計17元素を指す呼称です。
似た言葉にレアメタル(rare metal:希少金属)があります。こちらは鉄や銅、アルミニウムなどの豊富な金属と金、銀を除いた希少な金属を指し、主に産業に利用されている31鉱種の総称です。レアアースもレアメタルのうちの1種として含まれています。


今回のレアアース泥の試掘の発端は、10年ほど前に遡ります。東京大学大学院工学系研究科の加藤・中村・安川研究室は2013年、日本の排他的経済水域(EEZ)である南鳥島周辺に1600万トンという膨大なレアアース泥が存在していることを発見しました。しかも、泥のレアアース含有率が世界最高水準の高濃度であることも分かりました。
現在、世界のレアアースを国別に見ると、埋蔵量は約5割、精錬量では約9割が中国です。レアアースの精錬では放射性元素を含む多量の廃棄物が発生するため、たとえレアアース資源を持つ国でも処理コストや環境負荷の面などから精錬には手を出しにくく、利用や輸出にはつながりにくくなっているという事情があります。
一方、南鳥島沖のレアアース泥は海中で濃縮されているため、この品質のものが継続的に採掘できるのであれば、廃棄物処理が従来のレアアース鉱石よりも緩和されることが期待されています。ただし、商用化へ向けては、技術的な問題とともに、コストに見合う量が採れるのかというハードルもあります。
そのため、今回の試掘では海底から泥を採取する技術を主に確認します。南鳥島の南東沖約150キロにある現場に到着後、1週間ほどの準備期間をおいて、船上から水深約6000メートルの深海までパイプを延ばして2月中旬まで泥を採取する予定です。さらに来年2月には、1日最大350トンの本格的な試掘を行って採算性などを検証する計画があります。
南鳥島沖には「マンガン団塊」も広く分布
日本は、国土面積は約37.8万平方キロ(世界第60位)と狭いものの、領海・排他的経済水域は約447万平方キロ(世界第6位)と世界有数の広さを誇ります。近年は、日本の海底には豊富なレアアースや海底鉱物資源、石油や天然ガス、メタンハイドレートなどが眠っていることが確認されています。
実はレアアース泥の試掘が行われる南鳥島沖には、コバルトやマンガン、ニッケルを豊富に含んだ「マンガン団塊(マンガンノジュール)」も広く分布していることが、レアアース泥を発見した東京大グループによって16年に確認されました。
24年6月に行われた調査によると、南鳥島周辺の1万平方キロの海域には約2.3億トンのマンガン団塊が密集しており、日本の年間消費量の75年分に相当するコバルト資源(約61万トン)や ニッケル資源(約74万トン)の存在が判明しました。
マンガンは乾電池(マンガン電池)や、鉄の硬度や耐食性を向上させるのに不可欠なレアメタルです。コバルトとニッケルは、電気自動車やモバイル電子機器のバッテリーに必須の物質です。
現在、この海域のマンガン団塊の商用化に向けて、1日に数千トン規模で揚鉱(※海底の鉱石を母船まで引き揚げること)する実証試験が計画されています。
ここまでは日本の海底に眠る資源について見てきましたが、日本発の「科学技術の力によって海水や温泉から金を集める方法」も世界から注目を集めています。金は装飾品としての利用や資産価値があるだけでなく、優れた導電性や熱伝導性、耐食性を持つことから半導体や精密電子機器などに利用されています。
海洋研究開発機構とIHIの研究グループは、原始的な藻の一種であるラン藻を用いたシートを伊豆諸島の青ヶ島沖の熱水噴出口周辺に21年に設置しました。2年後に回収すると、7ppm(1トンあたりに換算して7グラム相当)の金が吸着していることを確認できました。
世界の主要な金鉱山の金含有率は岩石1トンあたり3~5グラム程度なので、これは非常に高い値です。また、銀についても142ppm(1トンあたり換算で142グラム相当)吸着していました。
海底熱水鉱床は、海底の熱水噴出口の周囲に作られる鉱床です。海底深部に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、地殻から有用元素を抽出した「熱水」が海底に噴出し、周辺の海水によって冷却されると、銅や鉛、亜鉛、金、銀などの金属が高濃度で沈殿します。
世界的に「次世代の重要な鉱床」として期待されていますが、水深500~3000メートルにあるため、採掘技術と採算性がネックとなっています。ただ、日本周辺海域の海底熱水鉱床は比較的浅い水深に分布しているため、諸外国と比べると開発は有利と考えられています。
青ヶ島沖の海底熱水鉱床は15年、東京大チームが水深700メートル付近で発見しました。周辺で採掘された岩石には1トンあたり17グラム相当の金を含むものも確認されました。
非常に高濃度な金含有量ですが、海底の岩石を採掘し精錬するには莫大なコストがかかります。そこで研究者たちは、熱水鉱床では通常は安定した状態である金が「金イオン」の状態になることを利用し、シート状にしたラン藻によって金を集める方法を開発しました。
ラン藻は重金属を吸着する性質があることが知られています。細胞膜がマイナスに帯電しているため、熱水鉱床の高温高圧環境によってプラスに帯電した金イオンが引き寄せられます。この吸着性はラン藻の死後も維持されることが分かったため、海底熱水鉱床からの効率的な金の回収の検証が行われました。
その後、研究チームは24年、秋田県の玉川温泉にラン藻シートを約7カ月間設置し、30ppm(1トンあたり換算で30グラム相当)の金の回収に成功しています。日本には1トンの鉱石から約20グラムの金が採れる、世界水準の数倍の品位(含有率)を誇る菱刈鉱山(鹿児島県)がありますが、それと比べても驚くべき値です。
21世紀になって、金属資源は従来の陸の鉱山だけでなく海中や都市鉱山(廃棄された家電製品などの中に存在する有用な資源)にあるものをいかに有効活用できるかに注目が集まっています。日本ならではの豊かな海と温泉を利用すれば、資源大国になる未来も夢ではないかもしれません。


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