「強い経済」を掲げる高市早苗首相だが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・グローバル投資ストラテジストを務める山﨑慧氏は「日本経済はほとんど成長していません」と言う。株高に沸き、政府資産が増加する中で、日本経済の裏側に隠れた“構造的な問題”とは——。
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国家財政を助ける円安とインフレ
なぜ、政府資産は増加したのでしょうか。資産保有者は大きく分けて中央政府と地方公共団体、社会保障基金の三つが挙げられますが、中でも近年、特に増えているのが中央政府と社会保障基金の持つ資産です。中央政府は、為替介入の原資などとして外貨建てで保有する資金「外貨準備」や海外の株式や債券である「対外証券投資」を保有しています。これが、主に円安と株高の影響で時価が上昇しているのです。今年1月に行われた衆院選の演説で高市首相が、外貨準備を運用する特別会計である外為特会について「円安で外為特会の運用も今ホクホク状態」と発言し物議を醸しましたが、まさにそのような状況です。
11年に1ドル=75円で円売り・ドル買いの為替介入を行った際、日本政府は米国債を数多く購入しました。1ドル=約160円の世界となり、現在その価値が倍以上になっています。社会保障基金で言えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は国内株を大量に保有しています。株高は「政府セクター」にとって理想的な状況なのです。株高を追求するインセンティブが働き、それを助けるインフレと円安は国家財政にとって明らかにメリットがあります。
積極財政を掲げる高市首相 Ⓒ時事通信社
ここに今の日本経済が抱える構造的な問題があるのです。確かにインフレが進むことによって政府の税収は過去最大の約84兆円に増大し、国の債務は大きく減少しました。さらに日経平均株価は7万円台を突破し、日本企業の株価が高止まりする状況は続いています。しかしこの間、日本経済はほとんど成長していません。
労働力不足が招く低成長
低成長の大きな要因となっているのが、商品やサービスを生産するために費やされた労働量を示す「労働投入」の減少です(表⑤)。いくら「資本投入」を行い「生産性」の向上を実現させたところで「労働投入」の落ち込みが日本の潜在成長率を押し下げているのです。これから40年にかけては、団塊ジュニア世代の一斉退職が控えています。その一方で、少子化は加速する一方です。若い世代では、「節約術」として子育てをしない選択をする人間が増えています。これからの時代、労働投入はさらに減少していくことが予想されます。
「労働投入」の落ち込みが日本の潜在成長率を押し下げている ©文藝春秋
高市首相は、「責任ある積極財政」を掲げ、経済成長に伴う税収増を基盤とした持続可能な「強い経済」の実現を目指しています。しかし、成長の果実はほぼ得られない中、インフレにより「国民」の富が「企業」と「政府」に移転しているとも言える状況なのです。経済成長において不可欠である労働力の確保は、国民生活が豊かであることが前提です。そのためにはまず、インフレによって傷んでいる「国民セクター」への手当を行うべきでしょう。政府は、来年4月から食料品の消費税を1%へと引き下げるべく準備を進めています。個人的には「国民セクター」への救護策として最低限やるべきことだと考えています。
こう申し上げると、「放漫財政」を危惧する声もあるでしょう。日本の財政支出を見るうえで重要な指標のひとつに、「本予算+補正予算─税収」(GDP比)があります(表⑥)。これは、政府の財政支出の規模を表しているわけですが、実はこの数値が大きく跳ね上がったのは過去3回だけです。
「本予算+補正予算─税収」(GDP比)は、日本の財政支出を見るうえで重要な指標のひとつ ©文藝春秋
一つ目が、リーマンショックが起きた08年。その次が、東日本大震災が発生した年にあたる11年。いずれの年も、対GDP比で約13%となっています。そして三つ目がコロナ禍の20年で、過去最大の20%にまで跳ね上がっています。
では、積極的な財政出動を掲げたアベノミクスを打ち出した第二次安倍政権はどうだったのでしょうか。13年から19年にかけては、実は10%以下に収まっていたのです。
※この続きでは、高市政権が積極財政ではないことを山﨑氏が説明しています。約6000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年8月号に掲載されています(山﨑慧「サナエノミクス、なぜ生活は苦しいのか」)。
■山﨑慧(やまざき・けい) 2008年、大和住銀投信投資顧問に入社。22年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券のグローバル投資ストラテジストとして主に経済見通しの策定などを手掛ける




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