「高血圧」はどこまで下げればいい?9000人超を追跡して分かった答え | きばいやんせ!鹿児島

「高血圧」はどこまで下げればいい?9000人超を追跡して分かった答え

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写真はイメージです Photo:PIXTA

血圧は低く抑えるほど健康によい。大規模な研究で示された結果であっても、目の前の患者にそのまま当てはめられるとは限らない。同じ治療を受けても、その効果に大きな差が生まれるのはなぜか。数値だけでは見えてこない、研究結果の読み解き方とは?※本稿は、内分泌代謝科専門医・疫学専門家の井上浩輔『「もしも」で命は救えるか?因果推論入門』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

血圧を厳しく下げることは本当に健康に良いのか?

 高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれます。自覚症状はないのに、気づかないうちに血管に負担をかけ、やがて心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気を引き起こす。日本に限らず、世界中で頻度が高く、適切に治療すべき生活習慣病の1つとなっています。

 では、その血圧をどこまで下げるべきなのでしょうか。

 これまでも「血圧は高いほど危ない」という事実は知られていました。しかし、医療の現場には大きな迷いがありました。なぜなら、「厳しく下げればいい」とは限らないからです。

 血圧を下げすぎると、ふらつきや失神、腎臓の機能低下といった副作用が増えることもあります。だからといって、緩やかに下げれば、心臓病や脳卒中のリスクが減らないかもしれません。

 当時のガイドラインでは、上の血圧(収縮期血圧)は140mmHg未満を目指すことが標準とされていました。同時に、「もっと厳しく、たとえば120mmHg未満を目指すべきではないか」という声もありました。

 しかし、それが本当に命を救うのかどうか、確固とした証拠はありませんでした。

因果関係を正しく測れるランダム化比較試験

 この問いに答えるために行なわれたランダム化比較試験(編集部注/研究参加者をランダムに振り分け、因果関係をできるだけ正確に確かめる方法。医学界で最も信頼性が高い調査として認められている)の1つが、SPRINT試験です。

 SPRINT試験は、ランダム化比較試験のデザインを用いて、「血圧を120未満まで下げるのか、140未満にとどめるのか」という問いを実験的に検証しました。

 SPRINT試験は、アメリカを中心とした102の医療施設で行なわれました。対象となったのは、9361人。条件は「50歳以上で糖尿病を持っていないが、心臓病のリスクが高い人」でした。

 糖尿病患者が含まれていなかったのは、当時すでに、糖尿病患者における同様の大規模ランダム化比較試験(ACCORD-BP trial)が存在していたからです。

 参加者はランダムに2つのグループに割り当てられました。

1.厳格な降圧治療群:収縮期血圧を120mmHg未満に下げることを目指す。必要に応じて複数の降圧薬を使い、きめ細かく治療。
2.標準的な降圧治療群:収縮期血圧を140mmHg未満に下げることを目指す。従来のガイドラインに沿った治療。

 研究者たちは約3年間、両グループを追跡しました。主要な観察項目は「心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死などの重大なイベントが起きるかどうか」。さらに「すべての死因による死亡」についても調べられました。

血圧を120mmHg未満にすると死亡率が明確に低下した

 参加者は、おおむね3年あまりにわたって追跡されました(実際は、想定よりも大きな効果が認められたために途中終了となりました)。その結果、主要な心血管イベントの年間発生率が、標準的な降圧治療群では2.19%であったのに対し、厳格な降圧治療群では1.65%と大幅に低下していました(図2‐3)。

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図2-3

 つまり、収縮期血圧を140mmHg未満に抑えるよりも、120mmHg未満を目標とした方が、明確にリスクが低下していたことになります。

 また、全死亡率についても同様に低下が認められ、厳格な降圧治療を受けた群では、寿命そのものの延びにつながっていました。

 血圧をより厳しく下げれば、心臓病や死亡を減らせる、というメッセージは、非常にインパクトのあるものでした。SPRINT試験の結果はまたたく間に世界中に広がり、ガイドラインに影響を与えました。アメリカ心臓協会や高血圧学会は、血圧管理の基準を見直し、「より低い血圧値を目指す」方向へとシフトしました。

 このようにきちんとデザインされたランダム化比較試験を行なうことで、「もしも、血圧を積極的に下げたら、通常の管理をしている場合と比べて、どの程度健康への影響が変わるか?」という因果関係に関する問いに対して、説得力を持って回答することが可能となり、結果として社会や医療現場を変えることにつながるのです。

正確な調査結果であっても万人に当てはまるとは限らない

 一方で、この結果をすべての人にそのまま適用するのは注意が必要です。たとえば、SPRINT試験において対象者の選定基準に含まれなかった糖尿病患者などにまで、「上の血圧は120未満を目指せ」とは、この試験の結果だけからは言えません。

 医療の現場にこれらの知見を応用するにあたっては、研究結果をそのまま当てはめるのではなく、「誰にとって120未満を目指すべきか」を注意深く考察する必要もあるのです。

 そこで私たちの国際共同研究グループは、効果の違いを検討すべく、SPRINT試験に参加した9000人以上のデータを再解析しました。

 特に注目したのは「一人暮らしか、誰かと一緒に暮らしているか」という生活状況です。なぜなら、生活のなかでの支援やつながりは、薬の効果にも影響を与える可能性があるからです。

 対象者は「黒人」と「黒人以外」に分けられ、さらに「一人暮らし」か「同居あり」かで4つのグループに分類されました。というのも、人種によって家族間のつながりの重要性や価値が異なることが、今までの研究から示されていたからです。

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