なぜ、年を取ると昔の夢を見ることが増えるのか | きばいやんせ!鹿児島

なぜ、年を取ると昔の夢を見ることが増えるのか

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「最近、子どもの頃に住んでいた家が夢によく出てくる」「近頃、大昔の友人が夢に出てくる」……。年齢を重ねた人から、こうした話を聞く機会は少なくない。
 若い頃の夢には、仕事や学校、最近経験した出来事が登場しやすい。一方、高齢になると、故郷の風景、昔の友人、若い頃の自分など、何十年も前の記憶が夢に現れることが増えるように感じられる。これは単なる「昔を懐かしむ気持ち」だけでは説明できない。そこには、年齢とともに変化する脳の記憶システムが関係している可能性がある。
 前回紹介したように、夢は「脳が記憶を整理する過程で生じる現象」と考えられている。日中に経験した出来事は、睡眠中に再び活性化され、必要な情報として保存される。その際、過去の記憶と新しい経験が組み合わされ、夢という形で現れることがある。
 しかし、加齢によって脳の記憶機能には変化が起こる。特に影響を受けやすいのが、脳の奥深くにある「海馬」だ。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。
「海馬は、新しい出来事を記憶として定着させる重要な役割を担っています。ところが、年齢を重ねると海馬の神経細胞や神経回路の働きは徐々に低下し、新しい経験を長期記憶に変換する力が弱くなります。一方で、幼少期や青年期に経験した出来事など、長い年月をかけて形成された記憶は比較的保たれます。これは、古い記憶が海馬だけでなく、大脳皮質の広い範囲に整理されて保存されているためです」

認知症でも、この特徴はよく見られる。最近の出来事は忘れていても、子どもの頃の家族や故郷の話になると、驚くほど鮮明に語ることがある。これは「新しい記憶」と「古い記憶」が、脳の中で異なる仕組みで維持されているためだ。
 では、この記憶の変化は夢にどう影響するのだろうか。夢は、脳の中にある記憶を材料にしてつくられる。若い頃は、仕事や人間関係、新しい経験など、毎日のように新しい情報が脳に入ってくる。そのため、夢にも最近の出来事が登場しやすい。
「しかし、年齢とともに新しい経験の記憶が少なくなると、脳は利用しやすい古い記憶を材料として使う割合が増える可能性があります。その結果、若い頃の家や家族、学生時代の友人などが夢に現れやすくなると考えられているのです」(根来医師)
睡眠中には「記憶のリプレー」と呼ばれる現象も起こる。これは、日中に経験した出来事を海馬が再生し、大脳皮質へ送り返す仕組みである。この働きによって記憶は整理され、必要な情報として残される。興味深いことに、リプレーされる記憶は単なる記録の再生ではない。脳は過去の経験を組み替え、新しい意味を見いだそうとしている。夢の中で、現実にはあり得ない場所や人物の組み合わせが登場するのは、この「記憶の再編集」が関係している可能性がある。

 ただし、「老化が進んだ人ほど昔の夢を見る」ということが科学的に完全に証明されているわけではない。夢の内容には、生活環境、心理状態、睡眠の質、人生経験など多くの要素が影響する。
 むしろ重要なのは、年を取ることで脳が単純に衰えるだけではないという点である。新しい情報を処理する能力は低下する一方、長い人生で蓄積した膨大な記憶は残り続ける。夢は、その人が歩んできた人生の記憶を夜ごと再構成する、いわば「脳の回想装置」とも言える。
 近年の研究では、このような脳の映像を作り出す能力は、夢だけに限らないことが分かってきた。じつは、「目から入る情報」が少なくなったときにも、脳は内部に保存された記憶を使って映像を作り出すことがある。

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