株式会社は「本当に」農業に参入できないのか? | きばいやんせ!鹿児島

株式会社は「本当に」農業に参入できないのか?

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「株式会社が参入できないから、日本の農業はダメなんですよ」

よくメディアで有識者が語っているのを耳にしますが、果たして本当に株式会社は農業に参入できないのでしょうか?実は、「できない」のではなく、「できるが条件が多くてやりにくい」というのが実態です。メディアに出てくる有識者も、本当は知っていてあえて発言している場合と、恐らくそうでない場合があると思いますが、今回はその辺りの情報を整理していきたいと思います。

「株式会社は農業に参入できない」というのは誤解

結論からいうと、株式会社でも農業はできます。大きく分けると2つ方法があります。

  • (A)農地を「借りて」営農する(リース方式)
    一般の株式会社でも、農地法第3条に基づき農業委員会の許可を得て(または農地バンク経由の計画に基づいて)、解除条件付き貸借で農地を借りれば参入できます。
  • 農業委員会とは、地域住民の代表や農業関係者で構成され、市町村単位に設置されている行政委員会のこと。農地法に基づき、権利移動(売買・賃借)許可・転用案件への意見具申・農地利用の最適化推進等を担う。

    農林水産省「農業委員会の概要」

  • (B)農地を「所有して」営農する
    以下の「農地所有適格法人」の要件を満たせば、株式会社でも農地を所有して参入できます。
  • 1.法人形態株式会社(公開会社でないもの)、農事組合法人、持分会社2.事業内容主たる事業が農業(農産物の加工・販売等の関連事業を含む)[売上高の過半]3.議決権農業関係者が総議決権の過半を占めること4.役員・
    役員の過半が農業の常時従事する構成員であること・ 役員又は重要な使用人の1人以上が農作業に従事すること

    農林水産省「法人が農業に参入する場合の要件」

    要するに、賃借であれば比較的自由に参入ができますが、所有となると一般的な株式会社は実質的に不可能に近いです。

    ただし、賃借でも地域住民の代表や農業関係者で構成された農業委員会が”No”と言えば、たとえ当事者間(貸す側・借りる側)が合意していたとしても賃借は成立しないため、既得権に守られているとも言えます。この辺りの難しさが「株式会社は農業参入ができない」と言われる所以でもあります。

    大企業の自社農場、あれは何?

    Getty Images

    もしかすると、イオンやサイゼリヤなどの大企業が自社農場をもっていると耳にしたことがあるかもしれません。彼らはどのようにして農業参入しているのでしょう?

  • イオン
    イオンは子会社である「イオンアグリ創造(株)」を通じて、農地リース方式(借地)で直営農場を全国展開しています。2009年に茨城県牛久市で2.6haからスタートし、2018年時点で直営21農場・約350haに拡大しています。(参考:農水省「企業の農業参入について」
  • サイゼリヤ
    サイゼリヤは福島県白河市で農場(牧場)を購入することからスタートしました。ただし、所有となると「農地所有適格法人」の要件を満たさなければならないため、子会社ではなく「関連当事者」として、「(有)白河高原農場」から供給を受ける体制となっています。(参考:サイゼリヤ平成20年8月期決算短信
  • イオンは比較的容易な賃借。サイゼリヤは牧場を購入後、別会社の農業生産法人(有限会社 白河高原農場)での運営、という流れで参入しています。

    なぜここまで参入しにくいのか――歴史と政策目的

    そもそも、なんでこんなに株式会社が参入しにくくなっているのか。歴史を紐解いていくと、戦後の農地改革に行き着きます。

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    1946年の自作農創設特別措置法などで小作制を解体し、自作農中心の民主的農村を目指したこと。これが日本の農地制度の原点です。戦前の大規模地主による収奪を問題視し、農地は自ら耕作する者しか所有できない「自作農主義」に大きく舵を切ることになりました。

    戦前までの大地主制度を改め、自作農を中心とする民主的な農村社会の形成を促進するために、昭和21年(1946)10月21日自作農創設特別措置法が公布され、同年12月29日に施行されました。自作農創設特別措置法と農地調整法改正法(同年11月22日施行)とに基づいて、不在地主の小作地全てと、在村地主の小作地のうち一定の保有限度を超える分は、国が強制買収し、実際の耕作をしている小作人に優先的に低価格で売り渡すこととなりました

    国立公文書館「自作農創設特別措置法を定める」解説

    さらにその後、農地法(1952年制定)によって、戦後の”改革”体制を守るべく、厳しい規制を敷いてきました。この段階では今よりもさらにガチガチで、賃借であっても企業の参入は原則不可能でした。

    実は企業が農業に参入できるようになったのは最近のこと。2009年の農地法改正からなのです。農村では高齢化・離農が進み、農地の遊休化・荒廃化が深刻化。このままでは日本の食料供給が危ないということで、規制緩和に踏み切ったのです。

    第1条
    この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。

    農林水産省「改正農地法の概要」

    もっと自由に参入できたら、何が起きる?

    それでは、株式会社(企業)が農業に自由に参入できるようになったらどうなるのでしょうか?

    アメリカやブラジルなど海外では、すでに企業が大規模農業を運営しており、効率重視の経営をしています。ポジティブな側面とネガティブな側面、両方を考えたいと思います。

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    ポジティブな側面

  • 資本の流入と効率化の加速
    企業が農地を自由に持てるようになれば、農業分野にこれまで以上の投資資金が入ります。大型機械の導入、ICTやAIによる精密農業、温室や自動化設備への投資など、資本集約型の技術革新が一気に進む可能性があります。
  • サプライチェーンの安定化
    サイゼリヤやイオンがすでに試みているように、自社農場+契約栽培+加工物流を一体化できれば、食品メーカーや外食産業は原料の安定調達が可能になります。
  • ネガティブな側面

  • 小規模農家の淘汰
    大企業が農業に本格参入すれば、規模の経済で圧倒的に有利になります。価格競争に耐えられない小規模農家が市場から退出し、地域コミュニティや伝統的な農業文化が失われる可能性があります。
  • 地域の担い手機能の空洞化
    農業は単なる生産行為ではなく、水路や畦畔(あぜ)の維持、災害時の地域互助なども担っています。企業経営がシェアを拡大すると、こうした「農村共同体の担い手機能」が弱まり、結果的にインフラ維持が困難になる恐れがあります。
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    企業の農業参入が自由になれば、当然一時的な痛みは伴います。ただし、長期的な目線で考えるとどうでしょうか。農業・農村人口が減少する現在の日本で、安定的な食料供給を持続させるために何が必要かを考える大切な時期が来ていると私は感じます。(論点は食料安全保障だけでなく、大規模化や上手い農業経営によって社会が享受する経済的メリットなどもあります)

    ただし、企業が参入できるようになればオールOKで、できなければ終わりなどではなく、なるようにはなっているという現状も一方ではあるのです。実際に今起こっていることは、大規模に経営できる経営体が、周りの管理できなくなった農地を引き取っていたり、大規模でなくとも知り合いだから仕方なく面倒を見るなどです。(もちろん全部ではありませんし、地域によりますが)

    最後に

    みなさん、いかがでしたでしょうか?結論、株式会社は農業に参入はできますが、様々な規制があって自由に参入できるとは言い難いというのが現状です。しかし、日本の農業の状況を鑑みて、規制緩和の方向にあることは間違いありません。

    農業といえば農家の高齢化が問題で、多くはおじいちゃんおばあちゃんがやっているというのもある面では事実ですし、若いイケイケの人(40-50代)がどんどん農地を承継して大規模化をしているというのも、ある面では事実です。株式会社が参入できれば万事解決という文脈で語られることも多いですが(もちろん規制緩和によって得られる果実も大きいですが)、日本の農業の現状を正しく理解できるとよりよい議論ができると思います。

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